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喧嘩する子にお仕置きを。

肌を刺すような冷たさが体中に突き刺さる。冷たい、と言うより痛い。あと苦しい。

凄く当たり前な事だけど、水の中って息できない!私魚類じゃないんです!人類です!鰓呼吸えらこきゅうなんて機能付いてないの!


水中から出ようと必死に腕や脚を動かすけど、分厚いローブがたっぷり水を吸ってしまって全然動けない。寧ろ、沈んで行く一方だ。


(ヤバッ――!動いたら余計息が――!!)


必死にもがく私の努力も虚しく、どんどん息は苦しくなっていった。

いくら手を伸ばしても実体の無い水の中を空回りし続けるだけで何も掴めやしない。


(どうしよう、怖い!)


沈む事が、何も掴めない事がこのまま死んでしまうんじゃないかと思う事が。


(やだ…こんなの、やだ……!)


だって、私が死んじゃったら誰があの子の事を――!


その時、息も出来ない水の中でただただ沈み続けるだけだった私の体が急に引き寄せられた。

グンッと一気に水面まで引っ張られる。

水中でぼやける私の視界には、真っ赤な赤毛だけが見えた気がした。


「――ぶはっ!!」

「はぁ…はぁ…よしっ、生きてんな……」


私が目を開けるより先に、そんな声が聞こえてきた。

ずぶ濡れになった帽子を少しだけ上に上げて目の前を見るとさっき一瞬だけ見えた真っ赤な赤毛とキッとした吊り目が見えた。


「吊り目……?」

「助けてもらった相手に対してそんなんかよ8歳児」

「私は15だって言って……え?助け?」


その言葉を聞いてじっと目の前のそいつを見た。

私と同じように頭から服からずぶ濡れになっていて、そのせいか少し跳ねてた赤毛がさっきより真っ直ぐになってた。

……助けて…くれたの?

そんな私の視線に気づいたのか、そいつはめんどくさそうに私を見ながら呟いた。


「別にわざわざ助けに来た訳じゃねぇ、俺も一緒に落ちたんだ」

「一緒にって……」


あの時、曖昧な記憶だけど確かに誰かが私の腕を掴んだ。多分、こいつ何だろうけど……それってつまり、私の腕を掴まなきゃ落ちなかったって事だよね……


「とりあえず出るぞ。寒い」

「あ…うん……」


私は水を吸って重くなったローブを脱ぎながら後をついて行くように川から出た。

川沿いの所まで来ると、脱いだローブをぎゅーっと絞って軽くする。あと、今着ている服も絞れる所は絞って少しでも寒くならないようにしておいた。

それでも、冷たい冬の風が濡れた体に酷く突き刺さる。


「あー、くそ。替えの服になりそうなもん全くねぇな」

「……あの…」

「あ?」

「えっと…ごめ――」


ごめんなさいと言おうとしたその時、それよりも先に言わなきゃいけない言葉はごめんなさいじゃないと気づいてグッと言葉を押さえると恥ずかしくなって、ちょっと下を俯いたままゆっくりと口を開いた。


「あ…あり……ありがとう……」

「はっ?」

「――!?」


なんか凄いしらけられた!?

「はっ?」って何!これでも死ぬほど恥ずかしいのを隠しながら頑張ったのに!私何か間違えた!?やっぱり先に思いっきり謝った方が良かった!?それとも感謝の誠意が全然伝わらなかったのか!

ぐるぐるぐるぐると頭の中で自問し続ける私にそいつは盛大なため息をつきながら私の目の前までやってきた。


「お前バカだろ」

「開口一番に何を!?」


これでも学校の成績はそれなりに良かったよ!


「いや、バカっつーか……アホ?」

「要は愚か者だと!?」


結局何が言いたいんですか!私への罵倒しかないんですけど!


「あー…つまり、アレだ」


すると、そいつは分からなさそうに悩んだ後、なんとなく分かったのかそんな事を言った。


「子供は子供らしく素直に行動しろって事だ!」

「わっ!?」


突然、私の頭の上に白いタオルが被せられた。

そして帽子の上からゴシゴシと力強く水分を拭き取られる。


「あんなぎゃあきゃあ騒いでた奴が謝るとか気持ち悪ぃ、人の事なんざ気にすんな」

「いや…でも……」

「少なくとも、一番に気にすんのは自分自信じゃなきゃ駄目だろ」

「……」


パッと頭の上でゴシゴシっされていた手が引っ込んだ。でも、私は頭にタオルを被ったまま何を言っていいのか分からずに黙っていた。

そういえば……さっき沈んでた時も、先に思ったのは私の事じゃなくて――


ゴ―――――ン


と、そこまで考えたその時、私の耳には街に響き渡る鐘の音が届いた。

聞いてみると全部で13回、つまり午後1時を示している。


「1時……って、嘘っ!?」

「っ!?なんだよ突然!」

「ちょっと待って、まさかもう1時で……」


私は大慌てで正確な時間を確認する為に騎士団の懐中時計が入っているポケットに手を入れる。

しかし、見ればポケットの中まで水でずぶ濡れになってしまっていて、私の頭の中では瞬時にある予想がよぎっていた。


「まさか……」


ゆっくりとポケットから懐中時計を取り出すと、そうでない事を祈りながら時計の蓋を開けた。

そこには、1時少し前を指したまま分針も秒針も全く動いていない文字盤だけがあった。


「止まってる……」


必死の思いでネジを回そうとしてみても、何かが詰まっているのか、はたまた歪んでしまったのかネジ自体が固くなって全く回らなくなってしまっていた。

少し振って水を抜こうとしてみても一向に動かない。耳元に時計を当ててみても秒針の音は全く聞こえない。


――壊れちゃっ…た……


「ん?おい、お前その時計――」

「か、か…帰んなきゃ!!」

「あっ!ちょっ、8歳児!!」


バッと立ち上がりその場をダッシュで走り去っていく私にそいつは最後までそんな言葉をかけた。



「だから私は15歳だぁああああああ!!」


そんな叫び声を上げた時にはもうその川沿いの場所から離れ、あいつの姿も見えなくなっていた。

私は胸の前でぎゅっと動かなくなった懐中時計を握りしめながら必死で走った。


「どうしよ…どうしよ……!」


そんな凄い思い入れがある訳じゃない。騎士団に入った時に制服と一緒に渡されて、騎士団の人達はみんな持ってて、今日までずっと使ってて……

思い入れとかじゃないんだ。

これは、私の騎士団の人達と一緒にいられて嬉しい気持ちそのものなんだ。




     ※




「急になんなんだよ、あの年齢偽装ロリ……」


訳も分からない内に走り去って行きやがった。

時計を気にしてるみたいだったし、時間が危なかったのか?あんな大慌てで時計握りしめて、そういえば…あの懐中時計……

そんな事を考えてたら、俺の額に白く冷たい物がゆっくりと落ちてきた。

そして、まるでその一粒が合図かのように次から次ぎへと降り注ぐ。


「たく…タイミングがいいんだか悪いんだか……」


空は曇天、天気は雪。そしてそんな寒空の下で1人空を眺めている俺。

こりゃ、どっちにしろ帰る頃には濡れてたかもしれねぇかもな。


「帰るか……」


はぁ、とため息を付きながら帰路を進んでいく。

どうやら今日は、物凄く厄介な厄日だったようだ。




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