喧嘩するほど仲が良い。
「休み…ですか?」
「うん、そう。リリアちゃんは今日から2週間休みに入っていいよー」
「はぁ……」
朝の一件を終えて、いつも通り騎士団にやって来た私に突如伝えられたお休みのお知らせ。しかし、なんとまぁタイミングのいいお休みですね。私らしくもない。
すると、お休みを告げたエルさんの隣りにいたアルトさんがそれについて説明してくれた。
「今騎士団にとっっっても大変な事件が舞い込んできてね」
「え……?」
なんか、アルトさんが異様にぐったりしてる。あの真面目なアルトさんがこんな風になるなんて、よっぽど凄い事件なんでしょう。
「一体…どんな事件何ですか?」
「……」
「……」
「あの…アルトさん?エルさん?」
えっ、何?何で黙るんですか?そして何故雰囲気が更に暗くなってるの!?
凄い大変な事件なんですよね?そういった意味での無言ですよね!?
…………あれ…?そ、そう言えば……私がこの騎士団に入ってから、まともな事件なんてあったっけ?
「……まさかまた……」
「エル…あれは事件と言っていいのか?」
「全体的に見れば一応かなりヤバい事件ではあるんだけどねー……」
あぁっ!?やっぱり訳ありだこの事件!
なんですか、今回は変態ですか?ロリコンですか?変人ですか?はたまたどこぞのストーカーですかね?
「ち、ちなみに…事件の部類はなんですか?」
「「誘拐事件」」
「重っ!?」
ちょっとその手の事を想像していただけあってインパクトがハンパないです。
あぁ、懐かしいな…誘拐。私も少し前までは誘拐事件に巻き込まれまくったけ、被害者として。
「まぁ、今日は深く聞きませんが……それで何故私が2週間休みになるんですか?」
寧ろ騎士団が大変な時期で仕事が増えると言うなら分かりますが……
「いやぁ、その事件のせいで騎士団の人達がみーんな外に出ちゃうんだよ。そのせいで、騎士団内はからっぽもいいとこなんだよね」
「しかも、こんな時に限って、団員の半数が使い物にならないからな。アレのせいで」
「……」
アルトさんの言うアレとはきっと…いや、確実にこの間のファイさんの料理だろう。
王宮騎士団上部と騎士団との合同演習。その演習で負けた私達闇チームは、演習が終わった後ファイさんからのそれはもう素晴らしいほどありがたーい残念賞として手作り料理を振る舞われた。
いや、あれはもう料理と言ってはいけない。あれは料理の形をした極悪非道の殺戮兵器だ。この世界から滅せられるべき物の1つに違いない。
なんせ、その料理を食べた騎士団のみなさんが未だに体調不良に悩まされてるくらいだ。
あーよかった、危険な食べ物を食べてしまったときの現代医学での正しい対処法が私の頭の中に入ってて。そして何より、あの後直ぐにアルトさんやエルさんやレイさんが助けに来てくれて、レイさんがファイさんに料理も調理も両方禁止してくれて本当によかった。
これで新たな犠牲者が少しでも減ったことだろう。
「とにかく、騎士団内に人が全くいなくなっちゃうので私の仕事が無い訳ですね」
「あぁ、リリアのお陰で騎士団内も大分片付いてるし2週間ゆっくり休むとい――」
「うにゃあっ!!」
バンッ!ドカッ!!
「……」
「……ネ、ネリさん……」
「ふぅ。にゃあ、どうしたんじゃお主等?ぼーとしおって」
「いや、踏んでます。エルさん」
何故か大きな音と共に天井から降りて…いや、落ちて来たネリさんはそれはもう盛大にエルさんを踏んづけて華麗に着地していた。
しかも、普段通りの超怪しい笑みを浮かべながら。
「あぁ?まぁたお主か、なんじゃ?まさかお主人に踏まれて喜ぶような人種なのか?」
「……お前マジでいつかぶっ潰す」
あぁ、この光景何回目だろう。本当この2人、出会い頭に喧嘩するの止めてくれませんかね。
しかし、ふと思いっきりエルさんを踏んでいるネリさんに目を向けてみると、いつもと違う所が1つあった。
「ネリさん、いつものツインテールはどうしたんですか?」
そう、ここ最近私もネリさんもゴタゴタしていて会っていなかったのだけど、今日久しぶりに会ったネリさんは、いつもは必ずしていた長く細いツインテールではなかった。
その長い銀髪を完全に下に下ろしていて、頭にはあの黒猫の耳以外髪留めも何も付いていない。ストレートヘアーと言う奴だ。
いや、その長い髪を下ろしているネリさんはとっても綺麗で可愛いですが……何故そんな状態に?
「にゃあ、これか。ちょっと…髪留めを…なくしてのぉ……」
「ん、何?何で俺をそんな執拗に見つめるのかなぁ」
「いやぁあ、べつにぃい」
「てか、そろそろ下りろ」
そう言ったエルさんの言葉を聞いてネリさんは渋々、それはもう本気で嫌そうにエルさんの上からどいた。相変わらず、仲の悪いお2人で……
「まぁ、そんな事今はどうでもいいんじゃ」
「おいおい、人1人踏み潰してどうでもいいで片付けないで欲しいな」
「あぁもう、本っ当うっさいの。少しは黙ると言う機能は無いのかお主には?」
「別に?一般論を言ったまでだけど?」
「なんじゃと?」
そして、そのままネリさんとエルさんの2人による喧嘩が始まってしまった。
そんな2人を見ながら私とアルトさんはゆっくりと顔を見つめ合わせた。
「で、結局ネリさんは何をしにきたんですかね?」
「さぁ?とりあえずこの喧嘩が終わらない限り聞けそうにはないかな」
「仲良く…出来ないんですかねぇ?」
「……俺は、あの2人は仲が良いと思ってる」
「えっ?」
私が何気なく呟いたその言葉に、アルトさんはかなり以外な事を告げた。
「リリアはあの2人のやり取りを長い間見てないからね」
「それはそうですが…本当に仲が良いんですか?あの2人」
「前なんかもっと酷かったよ。特にネリはエルと会うことも話す事も嫌ってたし、一言も言葉を交わそうとしなかった」
「……今とは、少し違いますね」
そうか、確かにそれは本気の『嫌い』の形そのものだ。
本気の嫌いと言う態度は喧嘩をして言葉を交わすなんてコミュニケーションはとらない。嫌いな物の事を考えることすら嫌なのだから。
……少なくとも、私をその本気の『嫌い』を知っている。
「アルトさんの言う通り、あんな風に笑いながら喧嘩をする2人は、仲が良いのかもしれませんね」
「うん、少なくとも、そうであってくれると嬉しいけど」
「うっさい!うっさい!うっさい!!この状況で身長はどうでもいいじゃろ!」
「身長がちっちゃいと器もちっちゃいっわけ?」
……あ゛ぁああ?
※
「「……」」
「で、ネリさんは何の用で騎士団に来たんですか?」
と、私は懐目掛けて思いっきり膝蹴りを入れたおかげで、地面に倒れているエルさんに追い討ちをかけるかのように盛大な蹴りを入れながらネリさんにそんな事を聞いた。
「あー…おいアルト、こいつこんな危険人物じゃったのか?」
「ん?何がだ?」
「いや、じゃからこの状況が……」
「あれはリリアの前で身長の話しをしたエルの自業自得だろ」
「……感覚が狂っとるのぉー…」
やれやれとため息をつきながらネリさんは一度だけ私が踏みつけているエルさんの方を見た。
「とりあえずその足を退けろ、話しはそれからじゃ」
ネリさんにそう言われ私はエルさんを攻撃するのを止める。しかし、エルさんは完全に気絶してしまったからか、私が攻撃を止めても一切動かなかった。
……あれ、ちょっと強く蹴りすぎた?
「ん、にゃあアレはほっといてじゃの、本題に入いるか。しかし、儂がわざわざここに来る理由など基本的にひとつじゃがな」
「また、長官からの伝言?」
「分かっとるのぉアルト。じゃが、今回の伝言はリリアへじゃ」
「……へ?」
私?ファイさんから私への伝言って……これといった心当たりは無いんですが。
「いや、ちゃんとお主に関わる事じゃよ」
「サラッと人の心を読まないでください」
「ほれっ」
「?」
ひらりとネリさんの手から落とされた紙はちょうど私の手元へと落ちてきた。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐るその紙に目を通す。見れば、それは明日から2週間、計10日分の予定表だった。
1日目、剣技、狼と猟師(時間倍増)、体術…etc.
「……あの…これって」
「お主が休みの10日間を使ったいわゆる強化特訓と言うものじゃ」
「……」
私はもう一度予定表に目を通す。
やっている時間が少ないから以外と行けそうに見えるけど、内容がヤバい。かなりヤバい。明らかに私をしごく気満々な雰囲気がだだ漏れしている。
「安心しろ、お主の休みを全て潰すのはさすがにまずいじゃろうと、全部半日で終了するぞ」
「毎日…10日間連続でこの内容……」
……私の体…最終日までもつかな……




