可愛い可愛い夢の中。
「名前が嫌?」
「私の名前が変だって、璃々愛なんておかしいって……」
「友達に言われたの?」
「……友達いないもん」
「それもどうかと思うけど……」
困ったように笑いながら私を見つめるお母さん。
別に友達がいない事を気にする気は無いけど、誰かにからかわれるのはやっぱり嫌だったりする。
だから今、こうしてお母さんの部屋のベッドの上でお母さんに言っても仕方ない事を嘆いてるんだから、言い換えれば愚痴ってる訳ですよ。
「やっぱり私の名前は変なのかな……」
「そうね、璃々愛って名前は、ちょっと変かもね」
「お母さん公認なの!?」
その自覚があったのなら何故そんな名前にしたの!?しかも何で『まぁ、仕方ないか』みたいな感じなのかな!
そう思ってると不意にお母さんの手が私の頭を優しく撫でてくれた。
「でも、素敵な名前だとは思ってるわ」
「素敵?」
「『愛の溢れる子に』って、匠くん…お父さんがあなた達に付けてくれた名前だもの」
「お父さんが付けだの?」
「えぇ、私達2人分の愛をあなた達にって……」
「……じゃあ、私が独り占めしちゃったのかな……」
私はそんな事を呟きながら部屋を見渡した。
転がっているおもちゃは2人分、タンスに入ってる赤ちゃん服も2人分、家族の食器は4人分……
でも、今この家にいるのは私とお母さんの2人だけ……
「そんな事ないわ、独り占めなんかじゃない。ちゃんと私達の愛はあなた達にそれぞれあるわ。その1つが、あなた達の名前でしょ」
「うん、それなら嬉しい」
そして、また私はお母さんに優しく頭を撫でられる。
白くて細いお母さんの手で撫でられるのが好き。
でも一番好きなのはお母さんと手をつないでお外にお出かけする事。だから早く元気になったお母さんと遊びに行きたい。
でも、もっとわがままを言うのなら…一回でいいから家族みんなでお出かけしてみたかった……
「……お母さん」
「なぁに、璃々愛?」
「あの子の名前、もう一回教えて」
絶対に忘れないようにしたいから。もしあの子の事を知ってるのが私だけになっちゃっても、私はちゃんとあの子を愛してあげたいから。
そうお母さんに言うと、お母さんはいつも通り優しく笑うとゆっくり口を開いてくれた。
「 」
ガタンッ!
と大きな音。何の音?
私が高いベッドから落ちた音。
眠たい目を擦りながら当たりを見渡すと、最近ではもう見慣れたフローリア家の私の部屋の景色が広がっていた。
てか、超頭痛い。何でこの家のベッドは異様に高いんだろう?
「えーと、これはつまり…あれだ」
夢オチだ。
※
朝から散々な目覚めだった。
何でかこの世界に来てからベッドで悲しい目に合う事が多々ある気がするんだけど……私の気のせい?そうですよね、誰かそうだと言って。
そんな事で朝から頭を抱えていると、部屋の扉をノックする音が転がった。
軽く返事をすると開いたドアからはいつも通りフレアさんが表れた。
「おはようございます、リリア様。本日も朝のご用意を――」
「フーレアっ!」
「きゃぁああああ!?」
「あ、ミキ」
部屋に入って直ぐに頭を下げて礼儀正しくお辞儀をしたフレアさんを正々堂々後ろから抱きついたのは、案の定と言うか、期待を裏切らないと言うか、やっぱりミキだった。
「リリアを起こしに行くなら僕だってついて行くのに、何でおいてっちゃうのかな?」
「ミ、ミ、ミキ君は朝のお仕事があったんじゃ……」
「そんなのとっくの昔に終わってるに決まってるじゃん、フレアとの時間が減る何て嫌なんだから」
……おかしいな、もう雪の月に入って真冬もいいとこだって言うのにこのバカップルがいるだけで部屋全体が暑苦しいな。絶対に温度が3、4℃は上がってる。
この2人…いや、殆どミキのせいなんだろうけど……少しは恥じらいとかモラルとかを考える機能は無いのだろうか……
「おーぷんざ、うぃんどーですよリリアお姉ちゃん!」
「……ルウちゃん、いつの間にいたのかな?」
「リリアお姉ちゃんがベッドから落ちた時ですよ、なんなら昨日の夜からです!」
「わー…5歳児に寝込み襲われてる私って一体……」
全く気付かなかったよ。どんなドッキリ番組だよ。
まぁ、ルウちゃんが私のベッドに潜り込む事なんて、今更と言えば今更なんだろうけど……
「そうでした、聞いてくださいリリアお姉ちゃん!」
「ん?何、ルウちゃん?」
「ルウは、もう直ぐ6歳になるのです!」
「…………えっ?」
……えっと、それはつまりもう直ぐルウちゃんの誕生日と言う事?
可愛らしくピースをしながらにっと笑っているルウちゃんはそれはもう可愛いの塊だけど、今はそんな事に思考が行っている暇は無かった。
ルウちゃんの…誕生日がもう直ぐ……
「そう言えばルウちゃん様はもう直ぐ誕生日何でしたっけ。何日後ですか?」
「2週間後なのですよ!」
「2週間!?」
思わずそんな声をあげてしまった。
私以外の全員がキョトンとした顔で私を見つめてきた。
「リリアお姉ちゃん、どうしたのですか?」
「あ、いや。何もないよ、ルウちゃん」
「はぁ……」
本当に、何もなかったら良かったんだけどなぁ……
私がさっきから焦っていることはただひとつ。ルウちゃんの誕生日プレゼントの事だ。
先に説明しておくと、私がフローリア家に来てから誕生日が来た人は何人かいる。
最初はテナさん。その時は確かテナさんの方からプレゼントに1日お手伝いを要求された。そう、お手伝いと言う名の着せ替え人形を……
次にミキとフレアさんがほぼ同時。この2人は大分前から誕生日が来る事は分かっていたからルウちゃんやシノちゃんと一緒に人形作りやら編み物やらを作って渡した記憶がある。
ルーバスさんの誕生日は知らないが、残りのアルトさんとサリアさんは私がこの家にくる前に誕生日を終えてしまっていたらしい。
そんな中舞い込んできたのがルウちゃんの誕生日のお知らせな訳で……
えっと、非常ーに言いづらいのだけど素直に言うのなら。
私、ルウちゃんの誕生日プレゼントを何も考えてない……
これは死活問題だ。主にルウちゃんと私との関係性が死ぬかの生きるかの超危険な選択だ……
「それを忘れてたなんて……」
「で、ルウちゃん様は今年はプレゼントに何をお願いしたんですか?」
「確か、去年はお嬢様のお部屋でしたね」
ミキが一方的にフレアさんに抱きついているその態勢のままミキとフレアさんはそんな事をルウちゃんに聞いていた。
と言うか、ルウちゃんの去年の誕生日プレゼントは自分の部屋だったのか……ヤバい、今のでかなりハードル上がった。
するとルウちゃんはにこにこ笑いながら可愛らしく言った。
「それはヒミツなんですよ!例えリリアお姉ちゃんでもヒミツです!」
「へっ、私にも?」
「ナイショです!」
むっ……これはちょっと厄介だ。今年のルウちゃんの誕生日プレゼントが分からないとなると、下手したらかぶってしまう可能性が出てきてしまう。うーん……
「ミキ君、そろそろリリア様の支度をしなくちゃいけないんだけど……」
「えー……まぁ、仕方ないか。ルウちゃん様行きますか」
「はいはいなのですよー」
そう言ってミキに手を引かれながらルウちゃん達は私の部屋から去っていった。
朝から可愛いルウちゃんに癒されたのは良かったんだけどそれ以上に大きな問題ができちゃったなぁ。
それから、鏡の前でフレアさんに髪を解かしてもらいながらルウちゃんの誕生日をどうするか考えてみた。
まず、条件としてはお金のかからない物だ。
これは別に私がケチだからだとかではなくて、単純に私がお金を一切持っていないから。持っていないと言うより受け取ってないと言う方が正しいかな。テナさん達は多少は持つ事を進めるけど、そんなのもらえるわけない上に私がお金を持っていても使い道が全く見いだせない。
街に出ていいなと思う物なんてあっても本くらいだし、本だったらフローリア家の書斎に図書館レベルである。するとまぁ不思議なくらい買いたい物って消えるんだよなー
総じて、お金を持っていない私にはルウちゃんの誕生日プレゼントにお金を使うことが殆ど不可能に近い訳だ。
「さて、どうしよう……」
「リリア様、本当に本日はどうなさったんですか?朝もお部屋に入る前凄い音がしてましたよ?」
「あー…それはちょっと夢見が悪くてベッドから落下しまして……」
ん?夢にお母さんが出て来たのに夢見が悪いってのはおかしいか。寧ろいい夢なんじゃ?私はお母さんが大好きだし。
そういえば、お母さんの百合菜って名前も……
すると、私は唐突にあるアイディアにたどり着いた。
「そうだ!その手があった!」
「ひゃぁああああああああああ!!!?」
ダッと立ち上がって思いついたアイディアに自分でも驚く。
うん、この考えなら行ける!問題は時間が2週間とギリギリな所だけどそこは何とかするしかないか!
「よし、思い立ったが吉日!」
早速行動すべきだよね!
「痛い…痛いです……」
「あれ?フレアさん何でこんな所で寝てるんですか?」
「な、何でも無いです……」




