6〜笑う事〜
「…心の中で…笑ってる………。」
オレはベットに仰向けに寝そべりながら、呟いた。
水野が公園で言ったこと。オレはそれを思い出していた。
―――――。
太陽は完全に沈み、東の空からは星が出ていた。
それにつれ、公園は少し肌寒くなってくる。
……こんな話、ドラマにしかないと思っていた。
でも、ドラマは人に見せるためだけにあるのであって、現実にそれが起き、それを今まで心の中にしまっているのは、とてもつらい。つらいなんてものじゃないだろう。
実際、オレはたえられなかった。気が狂うまでたえ、たえることを諦めると、世界がモノクロになった。笑うことができなくなってしまったのだ。
全員、赤の他人に見えて、それがいやで人との関わりを絶った。
だけど水野はどうだ?
オレは隣を見る。
水野は過去を振り返り、悲しい顔さえしているけど、目は、あの青年のものとは、まったく違かった。
水野が空を見上げる。
空は雲一つ無かった。
「私ね、両親が死んでしまったのは悲しいけれど、いなくなったんじゃない、って思うの。」
水野はオレの胸に人差し指を立て、無邪気に笑った。
「ちゃんと、ここで笑ってるんだよね。」
オレは自分の胸を見つめる。
オレの心の中で、母さんは笑っているのだろうか…。
「胸の中にいる人は、自分が笑えば、笑ってくれる。悲しめば、やっぱり悲しんじゃうんだよ。」
水野は再び、空に目をやる。
「だから私は、いつも笑ってたい。たまに悲しくなるときは、自分の胸を見るんだ。そしたらね、いつも笑ってれば、そんな時でも笑ってくれてるんだ。」
水野は立ち上がり、オレに向き直る。
「だから、冬貴も笑ったほうがいいよ!いっぱい笑って、いっぱい泣いて!そしたら、」
水野は笑う。
頬には、小さなえくぼができていた。
「そしたら、みんなも笑ってくれるよ。」
―――――。
オレはベットから起き上がり、ベット脇に置いてあるマイルドセブンと書かれた青い箱から、しわのついた煙草を一本取り出す。
それをくわえ、先をライターであぶると、赤い火がつき、細い煙が出る。
フィルターに口をつけ、それを深く吸うと、心なしか、気分が落ちついてゆく。薄い煙をゆっくり吐き出すと、それは昔の心と一緒に上へと舞い上がっていった。
「わらう、か…。」
モノクロの世界に、色が一つ足されたような気がした。