第六話「魔法使いの剣の秘密」
「くそ、なんだ、この五年!本当にろくなこと無いぞ!」
夕飯を食べ終わって、クリスは五年ぶりの自分の部屋でごろごろしている。
「私との出会いをお話すればよかったのでは」
ふわふわ浮きつつ、フウリが言う。
「・・・!あれならちゃんと冒険してるし、別になんか倒した話じゃないし、とっても食卓向けの話だったんじゃね?なんで早く言わないし!」
フウリの言葉に昔を思いだしたクリスは、ベッドから起き上がり言う。
「ええ、そうですね、すみません。あの島に来るのに遺跡一個無くなってますけど、一番まともな話ですよね」
「ああ・・・嫌な・・・事故だったね・・・」
フウリの言葉に悲痛な面持ちでクリスは俯く。
「お師匠さまが涙目だったじゃないですか」
「やめて、あの顔思い出すと今でも罪悪感がひしひしと!」
「ダメな主ですね」
ベッドに顔を埋めているクリスを見ながらフウリが続ける。
「ところで、あの良からぬ気配についてですが」
「おお、そういえば何か分かったのかい!」
ベッドから勢いよく起き上がりクリスはフウリに顔を向ける。
「ええ。ちょっとやばいことになってます」
「え。なにそれこわい。亡霊はもう勘弁」
フウリの発言に、クリスは最近の一番やばかった事項を上げる。
「私は亡霊のほうがまだいいですけどね」
「お、おい、やめてくれよ。亡霊のほうがましって、もう俺個人でどうにか出来るレベルじゃなくね!?」
それ以上と言われて、クリスは慌ててフウリに食って掛かる。
「落ち着いてください、主。大丈夫です、私にとっては都合の悪い相手なだけで、主なら一刀両断です」
「一応魔法使いなんだけどね俺。まあ倒せるならなんでもいいや・・・」
「さすが主。それでそのやばい奴なんですが・・・魔力食いです」
沈黙が部屋を支配する。
「・・・。おいいいいいいいいいい、まじもんでやばいやないかああああああ!」
魔力食いとは、その名の通り魔力を食べる、魔物の突然変異である。
魔力食いは、世界から一切の魔力を吸収できず、そのため、生物がもっている魔力を食べて力をつける魔物で、特に精霊が好物で精霊食いとまで言われる。実際、精霊食いというのは別にいるのだが、人間から見た被害はどちらも天災レベルなのであまり区別されない。
どちらも、放置して精霊を食べつくされてしまうと、不毛の大地ができあがる。
「まだそこまで精霊も食べられていないそうなので、明日にでも倒しにいきましょう」
「え、倒せるのあれ。くそ珍しいし、俺見たことも無いんだけども」
「主の剣なら、切れ味抜群ですよ。切ればあいつの魔力も吸って切れ味がドン!更にドン!切り刻みましょう」
フウリが真顔で、しかし危機迫る勢いでクリスに言う。
「フウリさんテンションおかしくね?そもそもうちの剣、他の生物の魔力吸えたっけ?」
「いやですね、主。私はいつも通りですよ。ただちょっと同族が食べられてイライラしてるだけです。あと、主の魔剣はそもそも主の魔力を吸うこともできますよ?ただ、主が素寒貧だから世界の魔力を吸ってるだけです。切れば生物の魔力も吸収します。だからドラゴン切ったとき切れ味やばくなったじゃないですか。本当にあの大きさのドラゴンを一刀両断するなんて、それは停戦したくもなりますよ」
「ああ、怒ってるのね。まあ、俺もむかつくし、切ろうか。ってか、この魔剣すごかったんだな・・・。てっきりちょっと珍しいだけかとおもってたわ。ごめんよ」
フウリの説明を聞いて、剣をなでながら謝るクリス。
「明日、切り刻みましょう。というか、魔剣については、私より長い相棒なんですから、正確に把握してあげてください」
「はい、すんません。けど、刻まれた古代魔法文字は難解すぎて、師匠だって解明できないところ多いし!剣振ってるときは、切れ味増したなぁと思うことはあったけど、俺の隠された力がピンチで覚醒したんだなってくらいにしか思って無かったです、すんません」
「てっきり知ってるものかと思ってましたが。主に隠された力は一切ないので安心してください。ピンチになっても、魔剣にあげれるほど魔力もないですしね」
フウリに妄想を一刀両断され唸るクリス。
「ぐぬぬ。指輪の魔力もまた集めなおしだし、ってか結局魔力使ったの?」
「ああ、主に接吻して頂いた魔力ですね、ちゃんと使いましたよ、半分食われて消滅しかかってた精霊に」
「接吻って・・・。まあ使ったならいいや」
クリスはフウリの言葉に顔を赤くしつつ納得する。
「ふふ、赤くなって可愛い主」
「おい、やめろ、くっついてくるな」
「しかたないじゃないですかー、あるじのへや、ベッドいっこしかないですしー」
「棒読みはやめろ!別に浮いたまま寝れるだろうが!そもそも睡眠いらないだろ!」
「まぁまぁ、主。私も長旅で疲れているんです。接触してれば効率的に魔力を摂取できますし、主の節約にもなるでしょ?」
一応、契約して魔力を渡している場合、契約者と非契約者が離れていると、到達するまでに微弱な魔力が世界に放出されている、と言われている。
「くっ・・・分かったよ。もう寝よう」
「はーい、主。おやすみなさい」
「おやすみ。フウリ」
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「(ちくそう!柔らかいものが当たって寝れない!!)」
翌朝。
「結局ほとんど寝れなかった・・・」
クリスは隈ができた顔でベッドから出て顔を洗いに行く。
「主、寝不足ですか?いけませんよ、素人ではないのですから、戦いの前に夜更かしなんて」
「お前のせいなんだよ!?」
「ふむ。刺激が強すぎましたか」
「狙ってやるなよおおおお」
クリスとフウリはいい合いしつつ食卓へ。
「おはよう母さん」
「おはようございます、お義母さま」
「はい、二人ともおはよう」
クリスは、大きな弟の姿が見えないことに気づいて母に尋ねる。
「あれ、ジョシュは?」
「もう畑にいったわ」
「うお、早いな」
朝食を用意しながら答えるマリアンをフウリが手伝っている。
「あの子、お兄ちゃんがいつ帰ってきてもいいように頑張ってたのさ」
「ったく、あいつは・・・」
クリスは嬉しそうな顔を悪態で隠そうとする。
「ふふふ、いい弟さんですね、主」
「うっさい」
フウリはクリスの本心を見破り若干嬉しそうにからかう。
マリアンが微笑ましそうに二人を見る。
「ほら早く食べちゃいな」
「うい。いただきます」
「いただきます」
「私もそろそろジョシュの所に行くから。あんたは村長に話をしてきな。あとリリィにも顔見せに行くんだよ、あの子はあんたのことすごい心配してくれてたんだから」
リリィとはクリスの幼馴染で、何かと変わっていたクリスの面倒を良く見てくれていた。
「はいはい。そのあと少し森のほうに行くから」
「森のほうは、今危ないからやめときな。なんか見た事もない魔物が出るらしいから。そのせいで、昨日も村長の家に猟師とか自警団が集まってたんだよ」
「なるほど。まだ食われた人とかいない?」
マリアンがクリスを鋭く睨む。
「食われた人はいないけど・・・あれは人を食うのかい?というか、あんたあれの正体がわかるのかい?」
「あ、あはは。ちょっとやっかいな魔物だけど、何度か倒したことあるから、今日にでも始末してきちゃうよ。村の人が食われたら嫌だからね」
口を滑らしたことに気づいたクリスは、すぐに嘘を交えて自身をフォローする。
「危ないことはしないで欲しいんだけどねぇ。まぁ、あんたがそう言うなら信じるわよ。そのこと、村長には言っていきなよ」
「りょーかいしました、まっかせといてよ!」
「はいはい、それじゃ行ってくるからね。怪我するんじゃないよ」
マリアンは家を出る直前までクリスが無茶をしないか心配する。
「いってらっさいー」
「いってらっしゃいませ」
マリアンを見送ったクリスとフウリは、食事を済ませ、支度をする。
「魔剣って、切った奴の魔力も吸収できるんだよなぁ・・・。これ応用できれば、魔力の上限を増やせなくても、吸収速度をアップできそうだなぁ。うーん、取り込む術式に節約魔法を織り交ぜて、小さい作用で大きい魔力を得れるように・・・、まずは魔剣を改造して・・・」
「主、考えるのもいいですが、早くあいつを切りに行きましょう」
ぶつぶつと呟くクリスに、フウリはやる気まんまんで早く家を出ようとする。
「あ、はいはい、大分怒ってるね」
「ええ、同族を食べられて黙ってはいられません。昨日助けた精霊も手助けしてくれるらしいです。火精霊で、魔力食いに棲家の洞窟を奪われたらしいです。私、火精霊とは相性いいので、丸焼きにして切り刻みましょう」
「怖いよ!?」
怒りにいつもより物騒な雰囲気を出しているフウリにクリスが突っ込む。
「ところで、さっきさらりと嘘ついてましたね」
「倒したことがあるくらい言わないと、心配されるだろ」
「そうですね、いい嘘だと思いますよ。馬鹿正直だった主が、ちゃんと嘘もつけるようになってうれしいです」
しれっとしているクリスに、フウリは特に表情を変えず感想を述べる。
「へいへい。んじゃ行こうかね」
「まずは、村長さんのところでしたね」
そうして、魔法使いは家を出たのだった。