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魔法使いと風精霊  作者: 田中23号
第一章
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第五話「魔法使いとドラゴン」

話をしていたら、いい時間になったので、マリアンが夕飯を作り、皆で食卓を囲む。


「で、兄さん、フウリさんとの関係は良く分かったんだけど、結局五年も何してたの?」


夕飯を食べながら、ジョシュがクリスに尋ねる。


ちなみに、精霊であるフウリは特に食べ物を食べる必要はないのだが、少しは食物の魔力を取り込むことができるから、という言い訳でクリスが同席を求める事が多かったため、最近では魔力以外にちゃんと味を楽しむようになっていた。


クリスとしては、一人で食べるの寂しいというのが本音である。


「王都の魔法学院で学生してました。超優等生だったんだぜ」


「さすが、兄さんだね!」


ジョシュは、昔から兄の言うことを無条件で信じるのである。


「本当に、さすがですね主」


「あ、やめて。ごめん、嘘だから。実は卒業もぎりぎりでした」


「あんたは昔から、ジョシュを騙し切ったことはないわよねぇ」


ジョシュの純真無垢な瞳に弱いクリス、嘘をついても結局嘘だと言うか、その嘘を真実にしてしまう。


「くそ!そこはいつもなら、フウリが痛烈なツッコミをするところなのに、俺の弱点を的確に突いてくるなんて・・・いつも通りか」


「平常運転です」


クリスががっくりとうなだれ、フウリはすまし顔だ。


「本当に仲がいいんだね、二人は」


その様子を見て、ジョシュが嬉しそうに言う。


兄が五年も音信不通でとても心配した弟は、ちゃんと心が許せる人がいてよかったと思っている。


「夫婦ですから」


「夫婦じゃない!」


フウリの虚言にすばやく切り返すクリス。


「主従と言ったほうがよろしいですか?主」


「え、あ、うん。そう言われると、契約内容があれだし、ちょっと困っちゃうわ」


フウリの切り返しに、十分な魔力を渡していないこともあり、フウリが簡単に自分の魔力を奪えることもありで、主従とは決定的に何か違うと思っているクリスはしどろもどろになる。


「父親に似て煮え切らない男だね、あんたも!ちゃんと責任とりな!」


「おおおい!?責任ってなんだよおおお」


マリアンは生前の夫のどっちつかずな態度を思いだし、息子と重ねる。


「主、契りまで交わしたのに、そんな・・・」


「まてやこら!契りって契約だろが!なんか変なふうに聞こえるから!ただの、魔法使いと精霊の契約だろ!」


「あはは、まあまあ。兄さんも熱くならないで。フウリさんも兄さんをあんまりいじめないでね?」


フウリがクリスをいじって、マリアンが煽って、クリスが爆発して、ジョシュが宥めるローテーションで食事の時間が過ぎていく。


「結局、あんたは冒険者しつつ学生してたのかい?」


「うん、学生が本業で、冒険者はお小遣い稼ぎだね」


「なら、兄さん魔法も使えるんだ!すごいなぁ」


「あんた、あんまり危ないことはするんじゃないよ?冒険者なんて乱暴者も多いって言うし」


ジョシュはきらきらとした目で兄を見、マリアンはあまり良い噂を聞かない冒険者に眉をしかめる。



「大丈夫です、お義母さま。主は、剣と弓の腕では冒険者ギルドでも一目置かれ、難易度高い討伐も何度かこなしていて、そっち関係ではかなり有名人です。逆に、魔法使いと言ってもだれも信じてくれませんが」


心配そうなマリアンにフウリが安心させるように、クリスのギルドでの評価を教える。


「そういえばこの子、昔から木の棒で魔物しばき倒してたからねぇ」


「兄さん強いもんねぇ」


「しみじみこっちみないでくれますか!?魔法使いなんだよ!一応!ギルドの登録も魔法使いなのに、それっぽい依頼一度も受けた事ないけど!!フウリと契約してからは、本当に全然使って無いから腕が落ちてないか超心配なんだけど!」


実際、錬金以外の魔法はフウリ任せが多く、クリスはギルドだとドラゴンキラーの称号を持っているため、凄腕剣士として扱われており、魔法は、使えるらしい?くらいにしか思われていない。


ちなみにドラゴンキラーは、ドラゴンを討伐したときに国から与えられる称号だが、国の騎士はほとんどもっている。


騎士団のドラゴン討伐ほど醜い狩は無いと言われているが・・・


何人で倒しても参加すれば貰えるため、騎士の虚栄心を満たすものというのが一般の認識となっている。


しかし冒険者でもっていると、その冒険者の実力を示すものとして、ぐんと価値があがる。


「そういえば、騎士団からもお誘い受けてたのに、何でそっちに行かなかったんですか?」


「うん?だってお前、魔術学院入れてもらったのに、卒業して騎士団入りましたとか滑稽だろ!師匠にも顔向けできないし!あと実際見た騎士団はちょっとなぁ」


「あのお師匠さまなら、笑って許してくれそうですけどね。逆に無職のほうが心配してると思いますよ。まぁ、主が騎士団入るって言ってたら私は実家に帰ってましたけど」


「師匠には心配掛けてばっかりだなぁ、今度遺跡潜って、また貢物でも献上するか。あとお前の実家と言えばあの空の島か、さすがにもう行きたくないぞ・・・」


クリスとフウリが話している横では、マリアンとジョシュが呆れ顔だ。


「あんた、本当に危ないことは程々にしなさいよ」


「兄さん、ダメだよ、危ないことは。兄さんが怪我したりしたら悲しむ人がいるんだからね」


「あはい、すんません、気をつけます」


兄が落ち込んだことを感じて、ジョシュが明るく言う。


「けど、兄さんの冒険の話聞きたいなー」


それに喜ぶクリス。


「そうかそうか!じゃあまずは、国境付近で暴れてたドラゴンを退治した話をしよう!あのときは本当に大変だった、敵国の軍隊まで出張ってきて」


「そして、敵国の軍隊がドラゴンを切り倒す主を見て、逃げ出して行きましたよね。おかげで今、相手の国とは停戦交渉中です」


「いや俺のせいじゃないだろ、停戦交渉は」


クリスの話を途中で受け継いだフウリが、当の本人もしらないような事実を語る。


「いえ、聞いた話だと、あのときの軍隊に敵国の王子がいたらしく、帰って早々見てきたことを報告したら、王様が泡を食って停戦を要請したらしいですよ」


「だからか、なんかあの依頼以降、国からおいしい仕事が・・・」


報酬のほとんどは、クリスの師匠への貢物や、錬金の素材で消えている。


「お師匠さまが名前は隠してくれたみたいですけどね、ギルドも主には借りがありますから、しっかり情報統制してくれたみたいですよ」


「なるほどなー。しかし、なんで俺の知らないことをフウリが知ってるのか、とても疑問なんだけど」


「気にしないでください、趣味の範囲です」


「多趣味な精霊だなおい!」


マリアンとジョシュは呆然と二人の話を聞いている。


「兄さん・・・戦場に行ったの?」


ジョシュが心配そうに言う。


「あんた、ほんと無茶ばっかりだね・・・」


マリアンが、呆れ切った顔をする。


「俺ですが、家族の視線が痛いです」


「ドラゴンなんて序の口じゃないですか」


家族の視線に耐えかねたように呟くクリスにフウリは追い討ちをかける。


「おいやめろ、もう少し刺激の少ない話をしよう」


「じゃあ、騎士団を闇討ちした話ですか?」


「過激すぎるだろ!!」


「そもそも、刺激が少ない話が出てこないですね。人間相手な分、騎士団闇討ちが一番刺激が少ないですよ」


「おいいいい、あるだろなんか!俺も思いつかないけど!ああ!あれだ。王城忍び込んだときのやつ!あれなら特に問題ないだろ!」


「王様に一撃いれたあれですね」


「あ、ごめん、やっぱなし」


クリスは過去の悪行を思いだし、冷や汗をかきながらフウリを止める。


「あああああ、あんた!そんなことしたのかい!?」


「兄さんそれはさすがにまずいんじゃ・・・?」


「おいいいいい、違うんだ、俺はやってないいいいいいいいい」






魔法使いの絶叫が響く中、夕食の時間が過ぎていった。


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