第一話「魔法使いと精霊の関係」
先ほど賊を倒した男、名をクリスと言う。
今クリスは、生まれ故郷へ続く道を歩いてる。
「かっこよさで言えば、29点ですね。ぎりぎり赤点。主の学院でのテストの平均点よりはましですね」
森の中に突如、女性の声が響く。
「な、なんだと・・・。俺のかっこよさも精霊にはつたわらんか・・・、嘆かわしいなぁ。あとテストの点は言わないで・・・」
クリスはすっと現れた女性に目を向け、わざとらしく頭を抱える。
「精霊に伝わらないというか、人間にも伝わってなかったじゃないですか、可哀想な主、学院の創立記念パーティーも一人で・・・。あとテストが近づくと意味もなく掃除しだしたり、趣味の錬金したりしてるから赤点なんですよ」
しかし女性は意に介さず、クリスの過去を暴いていく。
「ああああああ!やめて、俺の心の柔らかいところを言葉のナイフで抉らないで!!あとテスト前にいつも二番目の趣味に走ってしまうのは病気なんだよ!なぜか一番目は気が引けてやれないんだ」
地面に手をつき、うなだれるクリス。
「まったく。そもそも主は格好つけずに、口を閉じていれば外見も悪くないのに。勉強もやればできるんですから。まぁ、卒業できたのでよしとしましょう」
「フウリは俺の母親か!」
クリスと話しているのは、彼と契約した風の精霊、フウリだ。
「ほぼ無償で面倒を見ているという点では、母親と言ってもいいかもしれませんね」
「あはい。本当にすみません。未熟者で。けど、普通フウリ級の精霊と直で契約結ぶのは人間的にきついんですよね」
「主は魔力節約の鬼ですが、魔力自体は一般人に毛が生えたくらいですからね。まぁ、主の魔法は面白いので少し制限はありますが、契約に不満はありませんがね。本当に良く考え付きましたね、契約に節約魔法を組み込んで魔力を抑えるなんて」
普通、精霊は魔力のある所にいて、上位の精霊ほど魔力の多い所にいる。
契約するためには、場所から精霊が受けている魔力以上の魔力を契約者が提供しないといけない。
精霊が合意すれば、魔力が少なくても契約できるが、その分精霊の行動に制限がかかる。
クリスは得意の節約魔法を契約魔法に組み込んでフウリに使い、人間では契約するのが難しい高位精霊のフウリと半ば詐欺のような方法で契約している。
「いや、本当にできると思わなかった。内容を理解して契約してくれる精霊となると高位精霊だからな、下手したら不興かって死んでたな!」
「私は大らかな精霊ですからね。有難く思ってくれていいですよ。そして余剰魔力を私に渡していいですよ?」
そう言って、浮いたまま、歩くクリスの前に回るフウリ。
「ば、馬鹿言うな。余剰なんてあるわけないだろおおお!いくら節約してるからって、あんた自分の格を考えろよ!!ほとんど限界値の魔力を提供してるんですだよ!?俺に干乾びろって言うのか!」
「うふふ、そんなこと言って。私知ってるんですよ」
「何をしってるんだ、性悪精霊!」
思わせぶりなフウリに、戦々恐々とするクリス。道の上で見つめ合いが続く。
「まぁ、性悪だなんて。ただ、前に拾った魔力を吸い取る指輪に、卒業試験前に錬金を繰り返して、吸った魔力を蓄積できるようにしたでしょう?今主がつけてる指輪、おいしそうですね?」
怪しく笑って、フウリはクリスの指輪に注目する。
精霊が人間と契約するメリットとして、人間の魔力は世界に漂っている魔力より、人間の感覚で言えば、美味しいのである。
「勘弁してください。ほんと。自分の使える魔力ほとんどないんです。塵もかき集めないと、錬金も満足にできない可哀想な魔法使いになってしまいます。どうかこの指輪だけは・・・!」
指輪を手で押さえて、胸の前にもっていき祈るようにお願いするクリス。
「あらあら、仕方ない主ですねー」
「ありがとうございやす、ありがとうございやす!この恩は研究が完成したらお返しいたしますので」
クリスはゴマをするように両手をもみ合わせる。
「魔力量向上に関する研究でしたっけ?」
精霊は無意識に世界から魔力を吸収して段々と格を上げ、取り込める魔力も増えていく。
人間は魔力を少しずつ取り込み、上限まで溜め込んだら、なんらかの形で放出するまでは魔力を取り込まない。
クリスは、体に取り込む上限を精霊のように増やしていけないかと思ったのである。
「けど、なかなか研究も進まないまま卒業しちゃったからなぁ」
クリスは空を見上げぼやく。
「向こうでは、引く手数多でしたし、宮廷魔法院にも内々に推薦をもらっていましたのにね」
「勘弁してくれ。あんなギスギスした職場。推薦貰った日にそれまで話したことない貴族がどの派閥に入れとか、半ば脅し気味に言ってくるんだぜ。ハニートラップまであるし、女性不信ですよ俺は」
フウリもそのことは知っていたので、むしろ魔法院に主が行かなくてよかったと思っている。
「なら、あのままギルドで遺跡に潜っててもよかったじゃないですか。あと主は女性不信になっても意味がないでしょう、周りに元々いないんですから」
「あれはあくまでお小遣い稼ぎなの、なんでもかんでも師匠に面倒みてもらうわけにもいかないでしょ。あと推薦蹴ったら、女性どころか野郎もいなくなりました」
「一生の仕事にするには、リスキーですからね、あの仕事も。まぁ、他にもいろいろあったと思いますが、推薦蹴ったらそっちもなくなりましたよね」
「上に睨まれるとやばいってのは知ってたつもりだけど、平民にできる想像のさらに上のやばさだったんだよ!」
不毛な言い合いを続ける主従。
国の魔法関係の最高権力は、もちろん宮廷魔法院である。
「お陰で魔法学院卒業で無職ですからね、主」
「先生たちの哀れみの目線が今でもトラウマです」
「私もひそかに哀れんでました」
「泣くぞ!!」
フウリの言葉に本当に涙目になり、クリスは顔を拭う。
「はいはい、落ち着いてください、主。お師匠さまのところのは何で蹴ったんですか。いいと思うんですけどね、学院教師も」
「それこそ、師匠に迷惑かかるっしょ。宮廷魔法院に睨まれてる小僧なんぞが入ったら」
「迷惑かけるのはいまさらじゃないですかー。気に入らない貴族のお坊ちゃんをハメたときも、お小遣い稼ぎがばれたときも、お城に忍び込んだときも、推薦蹴ったときも、他にもいろいろ全部、後始末してくれたのはお師匠さまじゃないですか」
クリスの師匠は、魔法の名門貴族の家柄なのでいろいろなところに顔が利く。
「今思うと、学院で無茶苦茶してたから、学院でほとんど人がよってこなかったんじゃ」
「それはそうでしょう。挙句に私のような精霊連れてますからね、怖がられますよ。テストの点があれでも」
「お、俺の青春が・・・。もう少しおとなしくしていればよかったのかぁぁぁ!!」
真実に気づき、愕然とし叫ぶクリス。
「主がおとなしくとか、無理がありますよ。まぁ、けど、男友達なら結構いたじゃないですか」
フォローしているのかどうか分からない言葉を主にかけるフウリ。
「あいつらほとんど彼女やら許婚やらいたからなぁ。友情より女を選びやがって・・・」
「それでパーティーではほとんど一人ぼっちでしたよね。だからってパーティー会場を事前に爆破しようとするのはどうかと思いますけど」
爆破は、土壇場で裏切り者が出て、未遂に終わった。
しかし、この計画への男性参加者が多く、学院ではそういった生徒への配慮も考えるようになったとか。
「嫉妬の炎が俺を狂わせるんだ・・・。あれは予想以上に人も集まって引けなくなったのもあるけどな」
手を頭の後ろに組みながら歩くクリスがそう言う。
「嫉妬するくらいなら、彼女を作ればよかったじゃないですか」
「簡単に作れるならそうしてるよ!!」
クリスは腕を振り上げ、フウリの言葉に全力で抗議する。
「主に気のある人もいたじゃないですか、あのショートヘアの金髪碧眼で、炎魔法が得意で、精霊とも契約してた・・・ような?」
「あいつの精霊はお前に怯えて、俺の前じゃほとんど出てこなかったからな」
フウリは上位精霊の中でも最上位に位置されるほど高位な風精霊のため、中位、下位精霊は一緒の空間にいるだけでもその影響をもろに受けてしまう。
「あと、あいつは男だ!!」
「え?」
「え?」
何か認識の齟齬を感じる二人。
「まぁ、主がそう言うならいいです」
「なんだその引っかかるいい方!」
「気にしないで下さい、ところで主の生まれ故郷はまだですか?」
「なんと強引な話題変換。あと少し、この森越えればすぐ着くからおとなしくしてるんだぞ」
「なら飛んで行きましょうよ、主!」
「うーん、そうするか。そんな距離ないしな、森を突っ切ろう」
風精霊が契約者を飛ばしても、魔力はほとんどかからないのでクリスもフウリの提案に乗る。
クリスがどんどん浮き上がり。
そして、村まであと少し。