第十五話「魔法使いと精霊の評判」
「よーし、皆の衆、飲み物は行き渡ったかの」
村の広場の中央で、大きな焚き火を囲んで皆が村長の言葉に耳を傾ける。
クリスとフウリ、フィリスは村長と向かって立っている。
「それでは。森に巣くっていた強大な魔物を倒していただいた精霊さま方に感謝致します。ありがとうございました」
村長に続いて皆が口々に感謝を述べる。
やがて、それが静まると、また村長が話だす。
「そして、その精霊さま方の祝福を運んでくれたクリスにも感謝を!」
こちらは罵声混じりの感謝が飛ぶ。
「それでは、精霊さまと森の恵みに感謝し、乾杯!」
村長の音頭で皆がコップを掲げ、中身をあおる。
そこらかしこでおいしそうな匂いと共に料理が振舞われる。
そして、精霊二人を見た村人から様々な反応が飛び交う。
フウリを見た村人たちは・・・
「くそ!まじで美人じゃねぇか!」
「あの容姿で家庭的・・・!圧倒的じゃないか!」
「おい、なんだあのスタイルは。人間とは思えない」
「精霊さまだろうが!しかしすごいな・・・」
「あの容姿で罵倒してくれるのか。天国じゃね?」
「それがクリスと契約してるだと・・・」
「これは制裁を加えないといけないな、色本の件を含めて」
「我ら、トリエ村独身貴族を敵に回したこと、後悔させてやる」
「着てる服も綺麗よねぇ」
「肌も真っ白、すべすべしてそう」
「髪の毛も真っ白で長くて綺麗だわ」
「スタイルも良すぎ。何か秘訣とかあるのかしら」
「私、さっき目が合ったわ!きっと今夜呼ばれるわ!」
「それは私を見てたのよ!お風呂に入っておかないと!」
「っていうか、目も綺麗ね。緑色できりっとしてて」
「お姉さまって呼びたいわ」
そして、フィリスを見た村人たちは・・・
「お父さんって呼ばれたい!」
「俺はお兄ちゃんがいいな」
「年齢考えろ。わしはおじいちゃんだな」
「あれが・・・天使か・・・」
「おい、精霊さまだってさっきから言ってるだろうが!しかし天使と言われても違和感がないな」
「あの子もクリスと契約してるんだろ・・・くそ!俺も魔法使いになる!」
「お前二十五だろ?あと五年辛抱しろ。しかし、これはトリエ村お兄ちゃんと呼ばれ隊が制裁行動に移らないといけなくなるな」
「クリスお前はいい奴だったよ、しかしお前の精霊がいけない。可愛すぎる」
「なにあの子!お人形さんみたい!」
「髪の毛真っ赤でふわふわしてるわ、顔を埋めたい」
「肌も白くて、もちもちしてそう!」
「目も真ん丸よ。可愛いわぁ」
「こっちをじぃっと見てたわ。私のことが気になるのかしら?」
「後ろの焚き火を見てたのよ。火の精霊なんて、どんな怖いものかと思ったらあんな可愛いなんて、お持ち帰りしたいわ」
「服も似合ってるわねぇ、どこか貴族のお嬢様みたい」
「貴族さまなんて見たこと無いけどね。精霊さまのほうが百倍可愛いと思うわ!」
等々、皆ヒートアップしていく。
しかし、当の本人たちは我関せずと料理を食べている。
フィリスはクリスの膝の上で、出された料理を口一杯に頬張っている。
左隣では、フウリがクリスに酒を注いでる。
右隣では、リリィがクリスを質問責めにしている。
「結局、五年も何してたの?」
リリィは噂でクリスの話を聞いたのだが、木の棒を振りまして年下の子供たちと遊んでいたクリスが印象的で、どうにも現実感が沸かず、同じ質問を何回か繰り返していた。
「おうとで、まほうの、おべんきょうを、してたんだよ、ふうりも、そのときに、けいやくしたんだ」
そんなリリィにクリスがゆっくりと答える。
「な、なんでそんな喋り方なの!?」
「なんでって、それはもちろんリリィにも理解ができるようにだよ?」
さも当然のようにクリスが言う。
「普通の喋り方でも理解できるよ!?」
「じゃあ、何度も同じ質問をするな」
呆れたようにクリスは言う。
「だ、だって!あのクリス君だよ!?村で一番訳の分からない行動をしてたクリス君だよ!?それが、それが!うがー!」
何かに耐えがたかったかのように叫ぶリリィ。
「お前のほうが訳分からんぞ?」
「にんげんの むすめ うるさくしちゃ だめよ ?」
クリスのツッコミに続いて、膝の上からフィリスのお叱りが入る。
「いい子ですね、フィリス。言われたことをちゃんと守れて、他人にも注意できるなんて。こっちのサラダもおいしいですよ」
フウリがフィリスを褒めつつ、サラダをつぎわける。
「ね、ねぇ、クリス君。フィリスちゃんっていくつなのかな?なんか娘って呼ばれると違和感が・・・」
リリィはそんな二人を暫く見つめてクリスに尋ねる。
「ん?精霊に時間の感覚は無いらしいからなぁ。年なんて数えないだろ。まぁここまで格が高いと、千年は生きてるんじゃないかね?」
クリスは、膝の上のフィリスがこぼしたサラダをつまみながら答える。
「せ、千年!?じゃ、じゃあフウリちゃんは!?」
驚愕の眼差しでクリスに質問するリリィ。
「ああ。こいつは・・・」
クリスが話そうとしたこところでストップがかかる。
「主はいつから女性の年齢をぺらぺらしゃべるようになったんですか?」
すさまじいプレッシャーと共にクリスに言い放つフウリ。
「すみませんでした、フウリさま。フウリさまはいつまでもお若く、美しい存在であります。それ以外のことは存在いたしません。精霊一の美女であると不肖この私、クリスは確信しております。まさに天使もかくやという清廉さでございます!」
クリスは一瞬固まると、即座にフウリに謝る。
「ふむ。そんなこと言われると照れますね。主、杯が空いてるじゃないですか。どうぞ一杯」
クリスの言葉を聞くと、嬉しそうに酌をするフウリ。
「お、ありがと。しかしフウリも大分人間らしいこと言うようになったよね」
注がれたお酒を飲みつつクリスはしみじみ言う。
「主が人間の中では浮いていたので、せめて私くらいは仲良くしてあげなくてはと思いまして、勉強したんですよ」
フウリがフィリスの口を拭きながら言う。
「クリス君のことを大事に思ってるんだねぇ。っていうか、クリス君はやっぱり王都でも浮いてたの?」
いつもならクリスが叫ぶところだが、リリィが即座に反応したため口を挟めなくなる。
「ええ、それはもう。主ときたら魔法使いの卵なのに、剣がつよすぎて、剣の弟子までいたんですよ」
「剣の弟子・・・クリス君の弟子っていうことは、やっぱ突き抜けてた?」
「いえ、それが礼儀正しい子でしたね。今は騎士になっているはずです」
「あはは、騎士を剣の弟子にする魔法使いってどうなのよ」
「主くらいなものでしょうねぇ。あとは他にも・・・」
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口を挟む隙が無くなり、言われるがままにして、一度夜空を見上げ、結局膝の上の娘の世話に専念する魔法使いであった。