第十四話「魔法使いの娘」
「ふう、無事契約出来たな」
人生二回目の契約が終わったことにほっとするクリス。
「私のときよりスムーズでしたね」
見守っていたフウリが口を開く。
「けいやく できた」
火精霊はほとんど表情が読み取れないが、若干うれしそうにも見える。
「よくできましたね。ずっと子供がほしいと思ってたんです」
「おい、なんでそうなる」
フウリの予想外な言葉に反応するクリス。
「戦力なんてこれ以上いると思ってるんですか主。私と主で魔王にも喧嘩売れますよ、そして完勝します」
「物騒なこと言うな!っていうかどういうことなの!?」
「いえ、ですから子供が欲しかったのです。私と主の子ですよ。名前はどうしますか?」
「なまえ ?」
火精霊が首をかしげる。
「ええ、あなたの名前ですよ。持ってないようなので、今から考えましょう」
「おかしい。知らない間に子供ができた」
「現実を見てください主。私に似て美人になりますよ」
「種族的に俺には絶対似ないよね!?」
精霊は女神が作ったとされ、格が上がると全ての精霊は女性の形をしている。
「自分の子供が嫁に似ているからといって嫉妬ですか、可哀想な主」
「落ち着けや!まず俺の子供じゃないうえに嫁もまだいない!!」
「主が落ち着いてください。これからいつも一緒の主と私とこの子、並んだらどう見えますか?」
「え・・・あれ・・・ちょっと若い親と子?」
少し想像して、結果を口にするクリス。
「正解です。主がどう思おうと、世間の目が真実を照らします」
「え、けど、あれ?え、え?」
クリスがしきりに首をかしげる。
「私がお母さんで、あっちで首をかしげている少し間抜けな顔をした人間がお父さんですよ、わかりましたか?」
クリスを放って刷り込みを開始するフウリ。
「おかあさん おとうさん」
フウリとクリスを交互に見て口ずさむ火精霊。
「さて、名前はどうしましょうか?主なにか案はありますか?」
「え、あ、うん。名前だよね、名前。どうしようか?」
思考を放棄したクリス。
「主はネーミングセンスがあまりないですからね。風の精霊だから、シルフと言い出したときには契約を引きちぎろうかと思いました」
私はあいつが嫌いなんですよ、と続けるフウリ。
「結局、フウリも自分で考えたからな!火精霊に考えてもらうか?」
「馬鹿なこと言わないでください、この子は人間の言語をさっき伝えたのですよ」
「すんません・・・」
「仕方ない主ですね。私が考えます、大事な子供ですからね」
なんだかんだとフウリは嬉しそうに考えだす。
「あのそれなんだけどやっぱ・・・」
クリスが子供発言に対して疑問を呈そうとする。
「うるさい主ですね、少し考えるので黙ってこの子を見ててください」
フウリが一刀の元に疑問を切り伏せて、火精霊をクリスの前に押す。
「おとうさん ?」
火精霊がクリスを見上げて首をかしげながら言う。
「な、なんだこの気持ちは・・・!幼女に見上げられてお父さんと呼ばれただけなのに、このときめきは!・・・も、もう一回言ってくれるかな?」
火精霊に向かってお願いするクリス。
「おとうさん ?」
火精霊は再度同じ行動を取る。
「よし。俺が君のお父さんだよ!何か欲しいものがあればすぐに言うんだ!お父さん何でも買ってあげちゃうよ!」
クリスは、父性が湧き上がり、それまでの疑問を彼方へと吹き飛ばす。
「ほしいもの ?」
「うんうん、何かあるかい!」
「ん おとうさん の まりょく おいしかった」
少し考えて、火精霊が言う。
「よし、魔剣の魔力を上げよう。しかし、契約で減ったしドラゴン狩りに行くか」
クリスの思考が火精霊を中心に回りだす。
「ドラゴンなら帝国のあの山にまだ養殖場が残ってたっけか。しかし、マークされてるとなるとあそこまで行くのは面倒だなぁ。そもそもあいつらが・・・」
ぶつぶつと、娘への贈り物のために思案する父親。
ちなみに、帝国の主戦力といってもいいのがドラゴン騎兵である。
グルーモスとオーカスの国境戦争で、グルーモスに帝国がドラゴンを貸し出した事によりオーカスの被害が増大し、オーカスはギルドに依頼しそのドラゴンを討伐する。
次に、下位とはいえ人に飼われる同種を恥じと思っていた高位のドラゴンに交渉を持ちかけ、竜人の取り成しもあって、オーカスはその助力を得て、新しいギルドのドラゴンキラーに帝国のドラゴン養殖場を襲撃する依頼を出す。
帝国の養殖場のいくつかが壊滅したが、ドラゴンに襲われたインパクトでギルドのドラゴンキラーは目立たず仕事ができ、帝国も疑わしいとしてマークだけはしているものの、手配書などは出回っていない。
「主、やっと父親としての自覚が芽生えたようで嬉しいです、あと三人は欲しいですね」
名前を考えていたフウリがクリスたちの方を向く。
「とりあえず魔剣の魔力を入れても、人型になってる精霊を維持するのはつらいので一人でいいです」
「甲斐性なしですね主。世界征服できるくらい子供がほしいとか言えないのですか?」
「どんだけ甲斐性あるんだよお前の中の俺は!」
「ふむ、良く考えたら、すでに世界征服できますね。よかったですね、主。私の中の主は等身大ですよ?」
フウリは少し考えて頷く。
「よくないだろが!!物騒すぎるわ!世界征服なんてしないからな!」
クリスが叫ぶ。
「ふむ。ところで名前なんですが、いいのを思いついたので、それにしたいのですがいいですか?」
フウリは頷くと、話題を変える。
「さらっと流された・・・名前はぶっ飛んだのじゃなきゃ、フウリの好きでいいよ!」
「分かりました。それでは、今日からあなたの名前は 「フィリス」 です」
フウリは火精霊の前にしゃがむと目線を合わせる。
「わたし の なまえ ふぃりす ?」
火精霊はたどたどしく聞き返す。
「はい、そうです、フィリス。私たちの可愛い娘です」
フウリは愛おしそうに火精霊の名前を口にする。
「うん わかった ふぃりす」
フィリスはうなずいて、口の中で自分の名前を暗唱する。
「ちなみにどんな意味があるんだ?」
安全第一を唱えていたクリスがフウリに聞く。
「さすが主、いいことを聞いてくれました、花丸をあげますよ。「フィ」は古代の言葉で「照らすもの」という意味があり、「リス」は主の名前から頂きました」
嬉しそうにフウリが説明する。
「おお!俺の名前使ってくれるなんて感動した!」
「はい。見た目はどうやっても主には似ないので、せめて名前だけでもと思いまして」
「感動を返してくれ!」
「うるさい主ですね。フィリス、ああなってはいけませんよ?」
「うん うるさく しない 」
フィリスはこくりと頷く。
「よしよし、えらいですねー」
フウリがフィリスの頭を撫でる。
「おかしい、何かがおかしいんだが!」
「はいはい、主。今日は宴もあるんでしょう?結構時間使いましたから、そろそろ戻りましょう。フィリスもお披露目しないといけませんね」
「くっ。俺も何か父親らしいことをしないといけない気がする!よし、手を繋ぐぞフィリス!」
「て つなぐ ?」
「そうそう、お手を拝借してっと」
フィリスの左手を取るクリス。
「て あったかい」
繋がれた手を見てフィリスが呟く。
「それじゃあ、私とも繋ぎましょうね」
「ん 」
フウリがフィリスの右手を取る。
仲良く手を繋いで森を歩くその姿は、若い夫婦とその子にしか見えなかった。