第十二話「魔法使いと周りの国々」
晴れ渡った朝、クリスとフウリは魔力の都合がついたので、火精霊が養生している洞窟へ向かう。
クリスは昨日はほとんど見れなかった森の風景を懐かしそうにみながら歩く。
フウリはクリスに合わせてその横を浮きながら移動している。
「ところであの火精霊さん、格高いの?」
「なんですか主。私以外の精霊に興味津々ですか?浮気ですか?」
「突拍子も無いこと言うねお前!」
フウリは蔑む様にクリスに顔を向けて言い、それを聞いたクリスの叫び声が森に響き渡る。
「冗談です、半分くらい。あの精霊はなかなかの格ですよ、私と同じところにいても逃げないくらいには」
「そう考えると、凄いよな。大抵の精霊はフウリにあんまり近寄ってこないからなぁ」
「似たもの同士ですね、主と私。少し照れてしまいます」
フウリは表情を一切変えずに言う。
「真顔で言わないでくれる?しかも俺は別に人が寄ってこないわけじゃないよ!?」
「何を言うかと思えば。主、良く思い出してください。あのいろいろぶっ飛んでる友人たち以外に主に友達がいますか?人間の、ですよ」
フウリに顔を向けてクリスは自分たちの認識の違いを正そうとするが、フウリの質問に答えが出ずに焦る。
「えっと・・・あれ・・・?吸血鬼とか竜人とかもだめ?人間に似てるじゃん、あ!エルフ!エルフはセーフでしょ?」
クリスはギルドの関係で変な人脈はあるのだが、まともな友達が少ない。
「一般的な友人はほとんどいませんね、それが現実です」
「う、うそだと言ってよフウリぃ・・・」
がっくりと膝をつくクリス。
「大丈夫です、主。例え主が世界を敵に回しても、私は主の味方ですよ?」
ひざまずくクリスの肩に優しく手を置いてフウリは諭すように肩を叩く。
「え、なにこれ、うれしい」
クリスがぱっと顔を上げフウリを見る。
「一度世界を壊してみたいと思っていたんです。二人の楽園を築きましょうね」
フウリが薄く笑って言う。
「過激すぎるわ!普通でいい、普通の友達がほしい」
地面を叩きながらクリスが言う。
「あのぶっ飛んだ人たちと付き合っている以上無理でしょう。主もぶっ飛んでますしね」
「他国ならできるかもしれん!」
クリスは精神によく無い自分の交友関係を思いだし、友達を国外に求める。
「頑張ってください。ただ、ガイエン帝国では、主は要注意人物としてマークされてるので、気をつけて旅行しましょうね」
ガイエン帝国は、クリスのいるオーカス王国の西に位置している大きな領土をもつ軍事国家である。
「て、帝国以外にも国はあるし!」
「ほうほう。あれですね、主のせいで停戦交渉してるグルーモス王国ですか?あっちはまだ交渉中なので危ないですよ?」
グルーモス王国はオーカス王国の南にあり領土問題で何度か戦争をしている。
戦力的にはオーカスが圧倒するのだが、帝国が支援しているため、なかなか決着がつかずにいた。
「トライン聖王国が・・・!」
トライン聖王国はオーカス王国の北にある宗教国家だ。
「ふむ。お姫さまを主が誑かした国ですね。王様が親馬鹿でしたね。あそこの王族は天使の気配もほんのりしたので、あのときは生きて出れただけでも有難いと思いますよ」
「勘違いだあれは!!っていうか、あれ。俺がこの国から出るの、大変じゃね?」
クリスが考えるように呟く。
「さて、主が現実を認識できたところで。あの洞窟が火精霊の棲家です」
前方を指差してフウリが言う。
「はい・・・」
クリスはフウリの先導で洞窟の奥へと進む。
「ほー、これは結構魔力が溜まってるな」
ごつごつとした岩肌を歩きながら、クリスは周りを見回し関心したように呟く。
外よりも少し気温が低く、ひんやりとした空気に歩いて汗ばんでいたクリスは心地よさそうにしている。
少し歩くと前方から火精霊がふわふわとやってくる。
「ぼんやりと人型を取ってるということは、かなり高位?」
「そうですね、今は消耗しているので、ぼんやりですが、回復すればくっきりするかもしれませんね」
「すぐに魔力を渡すんだ、フウリ」
何かにぴんと来たらしいクリスは、真剣な表情をしてフウリの方に手を置き揺らす。
フウリは揺れながら、クリスの発言の意図を考える。
「何で急にやる気になってるんですか主。ああ、そういうとこですか、相変わらずむっつりですね。私と初めてあったときも挙動不審でしたよね」
「ちちち、違うし、別に裸目当てとかじゃねぇし、勘違いするなし」
「主、盛大に自爆してます」
ある程度、人の世界に興味を持っている精霊以外は服というものを知らない。
知っていても、理解できない精霊がほとんどだ。
フウリも契約当初は全裸だった。
クリスが必死に教えて、やっと魔力で服を作るようになったのだ。
クリス曰く、ちょっと見れるのはどきどきするけど、四六時中となるとその限りではない、そうだ。
そんなフウリも最近では、料理と共にファッションにも凝るようになっている。
「それでは魔力を渡しますよ」
そう言うと、フウリはふわふわ浮いていた火精霊を抱き込む。
すると段々二人が光っていく。
クリスは期待に満ちた目でその光景を見守る。
光が収まると、そこには子供の姿の火精霊が立っていた。
「くそ!幼女じゃねぇか!責任者呼んでこい!」
絶望した魔法使いの声が洞窟にこだまするのだった。