第九話「魔法使いの飴」
やっと泣き止んで周りの状況を理解しだした子供たちに、クリスがいつも持ち歩いている飴をあげることで収拾を図る。
「ほら、王都でも有名なお菓子屋の飴だぞ!一個ずつやるから並べー。みんな食べたら出発だ」
クリスは飴を手に持ち、高く掲げて注目を集める。
子供たちは、泣いてたことも忘れて我先にとクリスの前に列を作る。
そんなクリスを見てフウリが感慨深そうに告げる。
「さすが主。昔は年下しか遊び相手がいなかっただけあって、そういうことは上手いですね」
「ど、同年代の友達もいたわ!」
「え?」
クリスから飴を貰おうと列に並んでいたリリィが疑問の声を上げる。
「いい度胸だ、お転婆娘!おまえにはやらん」
「ああ!嘘嘘!クリス君友達いっぱいいたよ!本当だよ!」
リリィは飴欲しさに、必死に嘘を並べてフォローしようとする。
そんなリリィを無視してクリスはフウリに顔を向ける。
「ところでフウリ、火精霊は大丈夫なのか」
「はい、先ほど指輪に少し溜まっていた主の魔力を頂いて、渡しましたので消滅はしないでしょう。あとは魔力食いもいなくなったので、元の棲家にいれば、すぐ回復するでしょう」
契約していない人と精霊が魔力のやり取りをするより精霊同士でやり取りをしたほうが楽なので、クリスはフウリに火精霊の面倒を任せていた。
「あ、あの、クリス君、私も飴ほしいなー、なんて」
リリィがクリスの服を引っ張りながらその顔を見上げるが、クリスは知らん顔をする。
「ならよし。フウリ、火精霊をその棲家に運んできてくれるか?」
「分かりました。運び終わったら主の所に行ったほうがいいですか?」
「うーん。たぶん村長の家で説明会だから、フウリは先に家に戻って休んでていいよ」
少し考え込んだクリスが、フウリを先に家に帰そうとする。
「あの、飴・・・」
小さく呟いたリリィの発言はやっぱり無視される。
「また、私が倒したことにしようとしてますね」
「てへ」
クリスは拳を頭にのせ、舌を出す。
「気持ち悪いです主」
「すんません」
クリスはごまかそうとしたのだろうが、フウリに一刀両断される。
「うう・・・またクリス君がー!」
「うるさい子だな!ほら、飴あげるからちょっと黙ってなさい」
「やった!」
騒ぎ出したリリィに、クリスはポケットから飴を一つとりだし、リリィの手の平に乗っける。
嬉しそうに飴を手に取るリリィを見てため息を吐くクリス。
「見た目だけ大きくなって、中身はあのままなのか」
外見はいい女と言ってもいい程なのに、中身は子供のころと変わらず、世話焼きでお転婆で向こう見ずなリリィに、クリスは懐かしそうに目線を向ける。
「んー?」
リリィは飴に夢中で聞こえていない。
「なんでもない」
もう一度、クリスはため息をつくとフウリに向かう。
「んじゃ、そっちは頼んだ。こっちは、フウリさんマジ半端ねぇっす、って感じにしとくから」
フウリが呆れたように言う。
「たまには自分の手柄にすればいいじゃないですか。私は人間に尊敬されるのも畏怖されるのもどうということはないのですが。主が下に見られるのはあまり我慢できないんですよ?」
「ドラゴンキラーでお腹いっぱいなんだよ!あの時だって決闘申し込んでくる奴とか、闇討ちまがいに狙ってくる奴とかいて大変だったんだから・・・」
やたらプライドの高い王都の騎士団員が、新しいドラゴンキラーが冒険者だと聞いて闇討ちするも逃げられ、その数日後に逆に闇討ちされたとか・・・
精霊に対抗意識を燃やす人間はまずいないので、手柄をフウリのものにしたほうが波風が立たないとクリスは思っている。
「まぁ、いいでしょう、分かりました」
「助かるわ。さすが我が精霊さま、愛してるぜ」
「はいはい。それでは火精霊を運んできますので」
嬉しそうな顔をして、火精霊を抱えるフウリ。
「ほい、気をつけて」
「よし、こっちも行くぞー。森の入り口に村長たちがいるから、さっさと安心させてあげるぞー」
「ふぁーい」
飴を口にいれながら返事をするリリィ。
子供たちも、甘いものを食べて元気が戻ってきて、立ち上がって歩き出す。
「なぁなぁ兄ちゃん、その剣本物なのか!?」
「触らせてくれ!」
「あのお姉ちゃんたち大丈夫かな?」
「あ、あんな化け物、僕一人でも退治できたし!」
「お前泣いてリリィ姉ちゃんにしがみついてたくせにー!俺は泣かなかったぜ!」
「なんだとー!」
「ねぇねぇ、クリス君、飴玉もう一個頂戴?」
子供たちプラス1が騒ぎながら森を移動する。
「この剣は一応本物だぞー、ただ今抜くと呪われそうだから抜けないけど。あのお姉ちゃんたちは心配ないよ、家に帰って休めば良くなるんだと。あんな化け物一人で退治できるなんてすごいなー、けどこれから村長たちによる地獄のお説教大会で坊主が退治されちゃうかもなー。あとそっちの坊主は泣かなかったかもしれないけど、ズボンの染みをどうにかしような。そしてリリィ、再会して早々こんなこと言うのもなんだけど・・・」
子供たちの発言に律儀に答えたクリスは、最後にリリィのほうを真剣に見つめる。
「え、なに?告白?さすがに急すぎるよ?私困っちゃう」
「あー、うん。お前五年前と全然変わってないなー」
クリスは、リリィにあってからここまでの感想を率直にのべる。
「そ、それどういう意味?」
「可哀想に・・・」
哀れみの視線をリリィに送るクリス。
「え?え!?どうゆう意味さ!?」
リリィを無視してクリスが子供たちに視線を向ける。
「さーて、入り口が見えてきたぞー。坊主ども、しっかりこってり怒られてこいー。ついでにリリィも怒られろ!」
「わ、私怒られないよね?助けに行っただけだもんね!?」
「さぁなぁ。っと、村長ー!」
クリスは、前方に見えてきた武装した村人たちの先頭にいた村長に手を振る。
村人たちは急いでクリスたちのほうに駆けてくる。
「く、クリス!みんな無事か!?」
「うん、みんな怪我も無し。健康そのものなので、しっかり頼みまーす」
「うむ、引き受けよう。しかしとりあえず、村まで戻らんとな。子供たちの家族も心配してるしの」
村長先頭で、子供たちを囲うようにして村に戻る。
「これは久々に腕がなるぜ・・・!」
「初代以来の大仕事だな!」
「初代は更生できなかったからな、こいつらはあんなことにはさせない・・・!」
「もちろん、リリィも一緒に説教だな。あのお転婆娘が!」
「ローテーションは、いつも通りでいいか。まずは両親、次に村長、あとは順々にいこう」
等々、説教に妙なやる気を見せる大人たちに囲まれ、青い顔をする子供たち、プラス1。
「ね、ねぇ、クリス君。私も説教されそうなんだけど。た、助けてくれないかなーなんて」
「しっかり受けておいで。骨は拾ってやるから」
「み、見捨てないでよぉ」
リリィはクリスの袖を掴む。
「ま、命があっただけいいじゃないか!あれも慣れてくるとなかなか趣があるよ。俺はもう一生分受けたから全力でお断りだけど!」
「だ、だけど。一応私は、皆を助けに行ったんだよ!」
リリィは情状酌量の余地はあるのではないかと何故かクリスに訴える。
「結果、家族にも村のみんなにも心配かけたんだぞ」
しかしクリスは、正論を武器にリリィの発言を粉砕する。
「むぅ!クリス君だって、村出て行ったとき、家族にすごい心配かけたんだよ!私も心配したし!」
「残念。それはもう昨日、母親に殴り倒され、弟に絞め殺されそうになって清算されました」
「私の心配は!」
「今日助けたのでちゃらです」
「ぐぬぅ」
「ほら、飴やるから、元気だせって」
「わー!ありがとー!」
(なんというちょろさ。まぁどうせ、リリィも子供たちも夕飯食えないだろうしなー)
村の篝火が見えてくる。
そして、村の入り口にはお母様集団が待ちうけている。
魔法使いが旧友と親交を暖めている中、そのときは刻一刻と迫ってくるのだった。