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出会いは衝撃と共に

すでにお気に入り入れてくださっている方がいてぶるぶるしつつうれしいです。ちなみにこの話の視点は脇役さんではありません。

 


 ごく近くで、爆発が起きた。


 耳元を(つんざ)く破裂音と、右頬に受けた強い衝撃から、彼はそう判断した。


 多くの園児たちで見えなかった真っ青な空はほんわりとひつじ雲を浮かべて視界いっぱいに映りこみ、残暑を孕んだ秋風の精霊たちが数瞬、重力から解放された彼をからかって離れていく。

 どさり、と地に着いた背中と後頭部が痛みを訴え、衝撃を受けた右頬はじんじんと痺れ、口の中に広がる鉄の味はどこか切ったせいか。


ええと……何が、起きた?


 誰もが褒め称える琥珀を濃くしたように美しいあめ色の瞳がぱちくりと愛らしく瞬き、突然の出来事に停止していた彼の優秀な頭脳が機能を働かせ始めたのは、現実を許容しきれず意識を手放した一人の職員が立ったまま気絶し、傍にいた別の職員があわてて支え、呆然としていた園児たちが火をつけたように泣き始め、その声に気づいたほかの職員が駆け寄って落ち着かせようと動き始め、園長らしき細身の婦人が金切り声でわめき、保健士がこちらに駆け寄ってくるのを見たころ。


「おばかさん、すこしはめがさめたかしら?」


 のろのろと上体を起こした彼は泣きじゃくる園児達の中でひとり、まっすぐな怒りにきらきらと瞳を輝かせ、凛と胸を張り、こちらを見据えている幼女を確認。

 『目が合ったその瞬間近寄ってきて、何も言わず拳を振りかぶった彼女に殴られた』ことを認めて、そして、


「うん」


 ひどくうれしそうに、無しかなかったその顔に笑みを乗せて、頷いた。










 彼は、己は、生れ落ちたそのときから『特別』だった。

 当時世界最強の大魔術士として勇者と共に魔王を倒したという『ラフェンヌ・シーラ・ローフェス』の血を受け継ぐローフェス家。

 父親のオーレン・シン・ローフェス男爵は穏やかな性格の家族想いな人格者だが、そこらへんの三流ぐらいならば指先ひとつで殲滅できるほど優秀な魔術師であり、またその聡明さは長年の親友である宰相カッフェに匹敵すると言われている。

 対照的に軍人として華々しい戦歴を残しているのは、ダランシア・ローズ・ローフェス男爵夫人。

 わずか16にして女性としては異例の入隊を果たし、18には騎士団長を勤める実父ガルセロを実力で打ち破り、20年前の隣国との最終決戦では当時婚約者であったローフェス男爵と申し訳程度の護衛数騎で敵兵の中に突っ込み、大将の首を持ち帰るという偉業を成し遂げ、一躍時の人となった。

 現在は退役し、領地の兵士たちに訓練をつける教官として暮らしているが、その腕前はいまだ衰えていないと聞く。

 そんな彼らの跡継ぎとして申し分ない父親似の長男オルフェ、および最年少の時期魔術師長と呼び名も高い母親似の長女セイーシャに負けず劣らず彼、次男ファルベロ・ラン・ローフェスは(よわい)二歳にして大人を負かすほど弁が立ち、魔力はやや少ないもののそれを補って余りある繊細なコントロールと深い知識により古代魔術書の解読に成功。

 現在ではやせ衰えていた領地の手入れや、魔術に頼らずとも汚水と生活用水の汲み分けを徹底することによって病気にかかりにくくなると言うレポートを出し、そのための上下水道を完備させ、また火山の近くから『オンセン』という温かい湯を用いて湯治場を作り、体が楽になった、寒かった手足が暖かくなってよく眠れるようになった、などと口コミで広がったその場所は、今や王族ですら入りにくるほど盛況しているという。

 そしてその下にいる双子の次女チェリオッタと三男ラーズは一歳。まだ才の片鱗を見せていないが、その愛らしさから将来は引く手あまただろうと囁かれている。


 そんな彼は愛情深い両親とすこし年の離れた兄姉とかわいらしい双子の弟妹に挟まれ、何不自由なくくらしていた。

 いつの間にかあふれ出てくる知識に、赤子だった体が許容しきれず幾度も高熱を出しては産婆も勤めてくれた医者がすっ飛んできて、無表情ながらやさしく見つめてくれる父を慌てふためかせ、豪快に笑いながら頭を撫でてくれる母が真っ青になり、当時両親を獲られたと少々不貞腐(ふてくさ)れていた兄姉がその思いを吹き飛ばすほど心配になったくらいだといわれた。

 そのためか、家族は少々過保護気味であり、彼が突然奇行(当初はそのようにしか思えなかったらしい)に走ってもただ見守っていてくれるだけであり、それもまた愛情とわかっていても、どこか夢の中のようにふわふわとその意識はどこか遠くをただよっていた。



 だが、そんなことを言っても彼は所詮6歳児。つまり10にも満たないこどもである。知識はあっても経験がない、いわゆる『頭でっかち』とでも言おうか。

 故に『突然殴られる』というアクシデントに対応しきれず、フリーズしてしまうが、それは彼が確かに手のかからない、親の手にかからないようにしていた、聡明な子供であったことも理由にあげられる。

 だがしかし、彼はその時その衝撃によって、ようやく現実を『識』った。


 己がここに『在』ること。

 己がこの世界に『生』まれたこと。

 己がここで『生』きていること。

 己が家族を『得』られたこと。

 己がずっと何かを『求』めていたこと。

 己がここに『在』ってもいいのだと、理解したこと。


 己が、この『世界』を受け入れたこと。



 それらすべてをその一瞬で、その一撃で、否応もなくわからされた彼はだから笑うしかなかった。

 頷くしかなかった。

 自分が探していた『何か』を知っているだろう、彼女の怒りに。


「まったく、せわかけるんじゃないわよ」

「そうだね」

「いつまでもむかえにこないとおもったら、こんなところにいるんだもの」

「ごめん」

「ばーか。ばかばかばかばかばーか」

「ごめんね」

「わらったって、ゆるさないんだからね!!」

「いひゃいいひゃいっ」

「ほら、いくわよ!!ずぅっと、まってたんだから」

「…うん」


 記憶にないのにどこか『懐かしい』彼女にもう一度頷いて、高鳴る鼓動をきゅ、とまだもみじよりも小さい手で押さえ込んだ。


 けれど、その前に怒りでぷるぷる震えている園長と、丁度迎えに来たらしい小首をかしげている美貌の兄と姉へ事情を説明しなくてはならないだろうけれど。



 結局、彼ファルベロが肝心の『何か』…つまり恋人である『彼』に会えたのはたっぷり10日後。

 ヒステリックな園長と事情があったとはいえ怒りは収まらない兄姉と両親に必死で説得をしたファルベロの根気強さにより、ようやく実現したのだった。



 

うーむ、説明がくどすぎてわかりづらい。すみません。

身分って伯爵>侯爵>男爵でしたっけ?細かいのがわからないです。

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