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終わりは始まりと同時に

そして『私』は私になる。

 



覚えているだろうか、そなたたちは。


そなたたちが捕まえ犯して弄んで利用して価値がなくなった瞬間使い捨ての道具と共に殺した、あの人のことを。


生れ落ちたその時からあふれ出したあまりに強い力に化け物と呼ばれ石を投げられ村を追われた、あの人のことを。


親からもきょうだいからも情け容赦なく拳をふるわれ文字も教われず押さえつけられて育った、あの人のことを。


荒野の真中で短剣ひとつ与えられず着の身着のまま放り出され、我らの力なくしては生きていかれなかった、あの人のことを。


そのような扱いを受けても尚、人が嫌いになれないのだとはにかんで笑う、あの人のことを。


結界の中に作った森で、ひそやかに生きて、そしてただ静かに暮らしていた、あの人のことを。


深い傷を負って倒れていたかの者を助け、治癒し、世話をして、そして少しづつ心通わせるようになった、あの人のことを。


心が痛いのだと震える吐息で囁いて大きな上着を抱きしめる、匂いたつほどの美しさを(よう)して頬を染めた、あの人のことを。


言葉もなく、赤い顔をそらしあいながら目もあわせていないのに、ひどくしあわせそうに歩き続ける、あの人のことを。


清らかな泉のそばで歌い、草の茂る広場で踊り、汗を拭きながら畑を耕し、多くの動物たちとかの者に囲まれて笑っていた、あの人のことを。


ただ、力があるというだけで人間ではないと結界を壊し、森を焼き、動物たちを虐殺し、精霊たちを捕らえ、そして手にした、あの人のことを。


抗うあの者と、泣き叫ぶ精霊たちを前に毅然と顔を上げて、声ひとつもらさず隷属と狂気の印を刻まれそしてごめんねと、最後の正気のまなざしではじめて涙をこぼした、あの人のことを。


そなたたちが命じるままにかの者を殺させ、心を壊し、力をふるわせ、恐怖におびえる国々から思う存分搾取させ、できなければ腕の一振り、指先だけで多くの人々を建物を文化を消させた、あの人のことを。


そなたたちが、顔に出さないまま泣き叫ぶその心に気づこうともせず、嗤いながら犯し続けたあの人のことを。


何百年もの間、ひたすら死を開放を願い続けて、心をすり減らしていった、あの人のことを。


そしてようやく、そなたたちからの支配から解放された、満面の笑みを浮かべて逝った、あの人のことを。




………あの方は、唯一我ら精霊を統べられるお方であった。

この世界を真実愛し許し見守るお方であった。

故にどのような狂気に浸されようともあのお方に従ったのはわれらの意思。

あのお方が心底|救い(死)を願ったからこそ、我らはあの若者に力を貸した。


あのお方亡くしては我らは存在することができないとわかっていても、あのお方が願うならば我らは叶えるのみであったゆえな。


……わが名は『     』。かのお方の側近にして精霊の長を勤めし者。


まあ、もうすぐそれも終わる。


かの方亡き今、水は枯れ、大地はひび割れ、緑は萎れ、風は止み、火は無くなり、日は潜まり、闇が世界を支配し、砂と石だけが転がる死の世界になるであろう。

人々は恐怖と絶望に気が狂い、人同士での争いは絶えず、ありとあらゆるモノを喰らい、そして絶えるであろう。


そう、そなたらが操って殺したかの方がいなくなったが故に、の


ふん、今更許しを請おうとも遅すぎる。


我はかの方の側近ではあるが見守りし者…見守ることしか許されていないもの。教え導く者ではない。


……おお、そういえば、あなたたちが願ったのは不老不死であったな。



ほれ、その姿ならば老いもせず、死にもせん。ただし、すべてが石でできている故指一本動かすことなどできまいが、な。


ああ無論、たとえなにがあっても(・・・・・・・)決して(・・・)壊れんし狂わんように術をかけておいたから長い時を快適に(・・・)過ごすことができるように尽力しておいた。


……うむ?いらんじゃと?元に戻せ?


ほほほほ。そのような謙遜は今更不要じゃ。なんといっても、我のかけたそれ(・・)は、一度かけたら我単体ではもちろん、我らが力を貸したあの者であっても解くことは決して(・・・)できん。

解くにはこの世界すべての精霊の許可が必要じゃ。…まあ、かの方が再び復活するまでは数千年程度じゃし、そのぐらいならば耐えられるであろう?許しが得られるかはともかくの。


ああ、そろそろ我も眠くなってきたのう。


ふああ………せいぜいうぬらが犯した罪を感じながらそこで突っ立っておるとよい。


この程度では気がすまないが…時が足りぬゆえ、かの方と共に我らがまた起きた時に(・・・・・・・)遊んでやるからの(・・・・・・・・)。楽しみにしておるとよい。



では、な。




世界を恐怖に陥れていた魔王を勇者レーオン・ミャージェキ一行が倒した瞬間、精霊たちは深い眠りについた。

世界中から水が消え、大地が陥没し、緑があっという間に枯れ果て、活火山が死火山に姿を変え、日は沈んだまま出てこなくなり、すべては闇の帳に包まれた。

『魔王の呪い』と呼ばれたその現象と、数少ない資源を争った人々の動乱は、後の精霊王イルフィスが生まれるまで続いたという。


 

史実の中に消された真実を私は『私』から知る。


今度こそ愛したい。護りたい。引き止めたい。


だから、私は『私』になり、『私』は私になった。



ただ、それだけ。


 




9/30、小説をいくらか加筆修正しました。読みやすくなってればいいな…。

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