第3話平民と貴族
「ごきげんよう、ガーネット様」 「ごきげんようですわ、ガーネット様」
二人の少女が、ぴたりと息を合わせて挨拶する。
水色の髪に小柄な体格の少女――アクア。
深い青の髪を揺らす、ガーネットと同じくらいの背丈の少女――マリン。
どちらも伯爵家の令嬢であり、ガーネットの取り巻きだ。
なお、フレンメ家は公爵家。
彼女たちが従うのも、当然といえば当然だった。
「ごきげんよう、アクア様。マリン様」
にこやかに挨拶を返す。
「まあ……本日も麗しゅうございますわ」 「まるで宝石のような輝きです」
「ありがとう。そう言っていただけると嬉しいですわ」
柔らかく微笑むと――
二人は、わずかに目を見開いた。
「……どうかなさいましたの?」
「い、いいえ……その……」 「いつものガーネット様とは、まるで別人のようでしたので……」
「も、もしかして何かおかしな物を召し上がって……?」
(うわ、めちゃくちゃ疑われてる……)
内心で苦笑する。
これまでのガーネットなら、不機嫌に鼻で笑うか、愚痴の一つでもこぼしていたはずだ。
(でも、ここで優しすぎるのも不自然か……)
少しだけ“悪役令嬢らしさ”を意識する。
「……そんなわけ、ありませんでしょう?」
にこり、と――冷ややかな微笑みを浮かべる。
「わたくしは至って健康ですわ。妙なものなど口にしておりません」
「あ、ああ……それもそうですわね……」 「ガーネット様は無遅刻無欠席の皆勤賞でいらっしゃいますもの」
ほっとしたように頷く二人。
だが次の瞬間、マリンが声を潜めて言った。
「そういえば、お聞きになりまして? ガーネット様」 「あの平民の娘、また学年成績2位だったそうですわ」
(平民の娘……ルビーのことだな)
努力でその地位を掴み取った少女の姿が、脳裏に浮かぶ。
「……それが、どうかしましたの?」
静かに問い返す。
「生意気ではありませんか!」 「わたくしたち伯爵家、そしてガーネット様のような公爵家の令嬢が、平民に遅れを取るなど……貴族の威厳に関わりますわ!」
「そうですわ。この際、立場というものを教えて差し上げるべきかと――」
(……ああ、本当に)
(人って、こういうところが醜いんだよな)
胸の奥で、冷たいものが広がる。
だが――それ以上に。
“ガーネット”として、それは見過ごせなかった。
「――お黙りなさい」
ピシッ、と。
静かだが、鋭く言い放つ。
空気が、一瞬で張り詰めた。
二人の肩がびくりと震える。
「よろしいですか?」
ゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「あの方は、自らの努力で学年成績2位まで上り詰めましたのよ」
「……っ」
「それの、どこに不満がございますの?」
「で、ですが……あの方は平民で――」
「平民であろうと、貴族であろうと関係ありません」
きっぱりと遮る。
そして――
「それとも何かしら?」
すっと目を細めた。
「貴女は……わたくしの考えに、不満でもおありですの?」
ピシッ――と、その言葉を言い切る。
静かなのに、逆らえない圧が場を支配した。
二人は顔を青ざめさせ、ただ震えるように口を閉ざす。
――完全な沈黙が、その場に落ちた。




