第1話百合オタ悪役令嬢に転生する
まさか、こんなことになるなんて思いもしなかった。
――2026年4月12日。
その日、ひとりの男子高校生は上機嫌だった。
理由は単純。
大好きな百合漫画の新刊が、ついに発売されたからだ。
彼は筋金入りの百合好きである。
放課後、一直線に本屋へ向かい、目当ての新刊を手に取った瞬間、思わず頬が緩んだ。
「ついに買っちゃった……!」
大事そうに本を抱え、レジを済ませる。
「早く帰って読まなきゃ」
胸の高鳴りを抑えきれず、彼は駆け足で店を飛び出した。
――そのときだった。
キキィィィィ――――ッ!
耳をつんざくブレーキ音。
次の瞬間、
ガシャンッ!!
視界が白く弾けた。
信号無視のトラックが、猛スピードで突っ込んできたのだ。
避ける暇なんて、なかった。
――そして、彼の人生はあっけなく幕を閉じた。
* * *
「お嬢様、起きてください」
どこかで声がする。
「……うぅん、あと30分……」
「いけません。早く起きないと、奥様に叱られてしまいます」
やけに現実的な声に引き戻される。
重たいまぶたをゆっくりと開けると――
見知らぬ天井が視界に飛び込んできた。
(……ここ、どこ?)
ぼんやりとした意識のまま首を動かす。
すると、すぐそばにメイド服の女性が立っていた。
「おはようございます。ガーネットお嬢様」
「おはよう……」
反射的に返事をして――
「……って、は?」
思考が、完全に停止した。
「ちょっと待て……僕がお嬢様? 何かの冗談だよね……?」
混乱したままそう呟くと、目の前のメイドは首をかしげた。
「何をおっしゃっているのですか。冗談ではございません。ご自身の姿を、鏡でご確認ください」
そう言って、手鏡を差し出される。
恐る恐る受け取り――ゆっくりと覗き込んだ。
そこに映っていたのは、
赤く艶やかな長い髪。
宝石のように澄んだ青い瞳。
透き通るように白い肌と、華奢な腕。
どう見ても、美少女だった。
「うわあああああああっ!?」
思わず、絶叫する。
(な、なんだこれ……!? 誰だよこの美少女……いや、僕か!?)
脳が現実を拒否する中、ひとつの記憶がフラッシュバックする。
――ガーネット・フレンメ。
大人気乙女ゲーム『宝石姫の恋』に登場する、悪役令嬢の名前だ。
主人公に嫉妬し、数々の嫌がらせを行い――
最後には全ての悪事が暴かれ、婚約破棄の末に処刑される。
(ってことは……僕、あの悪役令嬢に転生したってことかよ!?)
顔から血の気が引いていく。
最悪の未来が、はっきりと脳裏に浮かんだ。
(わがままで傲慢で、人を見下す最悪の性格……そして最後は処刑エンド……)
ぞくり、と背筋が冷える。
「……何としても、回避するしかない」
小さく、しかし確かな決意を口にした。




