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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
第一章 人間初心者
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第七話:祓い師の初任務



 初めて下界で越す夜、私は用意された部屋で客用の布団に寝転がっていた。

「…」

 何度も布団を掛け直し、寝返りを打つ。

 私は我慢出来ずに起き上がり、隣の部屋のドアを開けた。


「…おい、おい」

 そして、寝息をたてて熟睡している(みさお)に声を掛ける。

「……どうされましたか?」

 操が眠そうに目を半分開けた。

「床が硬くて眠れない。あとあの部屋カビ臭いんだけど」

 操が面倒臭そうな目で私を見る。

「……では私の部屋のベッドで寝ますか?私は布団でも構いませんので」

 私はコクリと頷いた。


  * * *


 深夜、操が布団で、私がベッドで寝静まっていた時――

「伝令、伝令。和楽橋付近デ妖怪ノ出現情報アリ。至急祓エ」

 人型(ひとがた)に切り抜かれた小さな白紙が部屋に舞い込み、紙とは思えない澄んだ声で告げた。

「くわぁぁ、何だこの薄っぺらいのは」

 〝伝令〟を繰り返す紙に私は半強制的に起こされ、欠伸をする。

 重い瞼を上げて操を見てみると、既に寝間着から巫女服に着替えていた。その動きの速さに思わず目を見張る。

「これは式神です。私は現場に向かいます」

「は?式神?なんだそれ……っておい…!」

 操は入口に立てかけていた薙刀を手に取ると、勢いよくドアを開け、部屋から飛び出した。

「おじいちゃん、私が行くから寝てて大丈夫だよ!」

「おお…すまんなぁ、頼んだで」

 疲れた顔で廊下に出てきた祖父に、操は先程よりワントーン高い声で優しく声をかけ、木製の廊下をドタバタと走って勢いよく玄関の扉を開く。

「は!?おい!」

 再び部屋に戻って窓を開けると、操は私の声など聞こえない様子で自転車に乗り、そのまま立ち漕ぎして式神を追いかけていった。

 何なんだよまったく…

 そして再び廊下に出た瞬間、


 ――操祖父と目が合った。

 

「どういう状況か説明しろ」

 私が滑り落ちるように階段を下りて詰め寄ると、祖父が居間の障子を開けてノロノロと中に入った。

 そしてノロノロとちゃぶ台の奥に回って座り、向かい側の座布団へ手を伸ばして私にも座るよう促す。

 渋々祖父と向き合ってあぐらをかいた。

「操が祓い師なのはご存知で?」

「ああ、聞いたし見た」

「ほな話が早い。祓い師ちゅう生業は、神職の役職や階級に関係無く、神力(しんりき)を持つ者なら誰でもなることが出来ます。神職出身の者がほとんどですが、それに属さない一般の祓い師も最近は増えとるんですよ。まぁ、それでも人手不足は永続的な課題なんですがな…」

 急に黙り込んだ祖父を不思議に思って、私が「それで?」と聞くと嬉しそうに微笑んだ。

 ()められた…

 感情の神のプライドに少々傷がついたが、咳払いをして平然を装う。

 そんな私を見て嬉々としている祖父が話を続けた。

「ですからより効率的に仕事をこなすため、禊守会(みそぎもりかい)…簡単に言うと、祓い師が属する組織が存在します。こらぁ有名な神道政治連盟だったり神社本庁などと言うた表向きの組織ではなく、世間的にもあまり知られておりまへん」

 祖父が懐から禊守会の会員証を出して私に見せた。そこには奈良代表と書かれている。

「総指揮は三重の伊勢神宮。ほんで大量の式神を全国に撒いて瘴気や悪霊、妖怪の出現を監視する出雲大社。式神による監視と総指揮による采配により、祓い師達は合理的に動かれるんですよ」

 やはり人間の集団行動力は類を見ないな…

 私が真剣に聞き入ってると、祖父が笑顔で話を続けた。

「そして、祓い師が祓うものは大きゅうわけて二つです。一つ目が瘴気。こら人の負の感情が黒い煙のようになって現れる人体に有害なもの。二つ目が妖怪。妖怪は人の魂を喰らう。ほんで一番厄介なのも妖怪。高い身体能力を持ち、上位の物は知能も備わってます」 

「…それで、娘が祓いにいったのは」

「妖怪ですなぁ…」

 祖父が穏やかに笑う。

 笑ってる場合かよ…

「…まぁでも、今日あの娘が妖怪をいとも簡単に祓う姿を見た。神力も強力だし、あれなら大丈夫だろう」

 私は昼間見た操の斬撃を思い出した。

 練り上げられた一撃だった。きっと日頃から鍛錬してるんだろうな…感情を読み取ることしか能がない私はあの一閃で一発 K.O.だろう。

「……………そうならええんですが」

「何だその間は!?」

 私は思わず祖父に突っ込む。

「いいや…ただ絶対などあらせんぞ、と言いたいだけです。今夜は特に、嫌な空気や」

 私は窓の外を見た。確かに月が雲で隠れていて暗く、窓に反射した自分の顔しか見えない。でも別に窓を開けて外の空気を肺に入れても嫌な感じはしない。

 それに、私が行ってもただ眺めてるだけになるだろうし…

 わざわざ私が行くことはないだろ――


「神様が行かへんのやったら、わしが行ってきますさかい」 

 その言葉を聞いて咄嗟に立ち上がった。

「おやおや…」

 この爺さんは只者ではない。だから多分、何かがあるんだ。多分。

「場所はどこだ?」

 祖父は私を見て、再び穏やかに笑った。

「この式神が案内してくれます」

 

 私はペラペラして頼りない式神に「ツイテ来イ」と言われ、後を追う。

「お、自転車だ」

 すると置いてあった自転車を見つけたので、ラッキーと思ってまたがった。

 ――が。

 

 ガシャンッ!!

 ……転んだ。

「何だよこれ!全然バランスがとれないじゃないか!あいつは何軽々と乗ってんだ!!」

 私は自転車にキレ散らかす。

 天界で人間を観察してた時は全員楽に乗ってたのに…!人間に出来て(わたし)に出来ない!?何で!?

『走るしかないわティモス!』

『走れティモス!二足歩行こそが原点にして頂点だ』

 ヌースとカロン、そしてすぐ破れそうなクセに偉そうな式神から催促される。

「っ…!くそぉぉぉ!」

 ――私は走った。


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