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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
最終章 永遠の倖せという夢物語
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最終話:感情の神ティモスは悲しみを知らない



「「はぁぁぁ…」」

 ヌースとカロンがげっそりと疲れ果てた顔で伊勢神宮に戻ると、その場にいる創造神を見て言葉にならない叫び声を上げた。

 

「「そっそそそ創造神様!?何故ここに!」」


 相変わらず息がピッタリだ。

「ああ…これで六大神全柱が揃ったな」

 二柱の驚く声をガン無視して創造神が指をひょいと上げると、私以外の六大神皆に新しい神珠が与えられた。

 因みに私の神珠の色が濃くなったのは、創造神が神力と破壊の力の制御力を更に強くしたかららしい。だから私以外の六大神の神珠は前とそっくりそのままだ。

「…やっぱり創造神様の神力は落ち着くわね」

「ですねぇ〜あ、オントまた瞳の中に埋め込むつもりですか?」

「うん、絶対に無くさないしそれが一番落ち着くんだ」

 穏やかに話すフィリアとエレオス、オントとは対照的に、ヌースとカロンが再生の神を見て絶句する。

 

「操!神楽!怪我あらへんか!?」

「みたま様!」

 そして天界から戻ったみたまも境内に降りてきて、私と操を抱き締めた。その包容力に、みたまが聖母になったかのような錯覚に陥る。

「みたま様はご無事ですか…!?」

「ああ、再生の神が殺すまではしなかったさかい、父上達も無事や。ほんでこの状況は?」

 みたまがのうのうと私達の輪に混ざっている再生の神を鋭い眼光で睨んだ。

「最終的に、創造神が再生の神を最高神の三柱目に任命することで落ち着いたんだよ」

 私が苛立ちながら説明する。

 結局私ら下の者達は巻き込まれるだけ巻き込まれて終わりかよ…

 ――そして、思った。

 …破壊神が言った理不尽とは、こういう身分による落差も含まれてたのか、と。

 

 すると私達の元に再生の神が近づいてきた。 

「…何や?やっぱり殺しときゃよかった思うとるん?」

 みたまが噛み付く。

「……違うわ。私は自分のした事を後悔していないから謝罪はしない。ただ、私を信じられないのなら、()()()の名を借りて誓おうと思って」

 そう言って再生の神がその黄金の瞳で私達を見た。


「私は、破壊神カタストロフィ様の遺志を継ぐ」

 

 その姿は、認めたくはないが既に最高神そのものだった。

 まぁ、五百年創造神の代わりをしていたわけだから実質もう最高神の器なのか…

 それより遺志を継ぐってことは――

「…破壊神が試みたように、因果律を壊すってことか?でもそしたらまた堕ち神の二の舞に」

 再生の神がため息で私の話を遮る。

「前にも言ったけど、私の能力は破壊の力と創造の力の複合。そして私が目指すのは因果律の〝改変〟よ。因果律の規律は世界の為に存在する。だから、下界や人間の存在の価値を、天界の神々と同程度まで上げればいい。人間が世界にもたらす影響を強めればいい……長い道のりになるでしょうけど、絶対にやり遂げてみせる」

 どうやら破壊神信者の再生の神には、操の考えは響かなかったらしい。操が眉間に皺を寄せている。

「…あの」

 案の定、操が再生の神に物申したいと言わんばかりの顔で話しかけた。

 再生の神と操が睨み合う。

「本当にそれが可能だと思いますか?仮に貴女の思想を実現するとすれば、私と貴女は対等…ということになりますよね。なら――」

 操が腕を組んで首を少し横に傾けた。目も細めていて二重(ふたえ)が際立つ。

 初めて見る操のその態度に、私は思わず二度見した。


「私を傷つけたこと、心から謝罪してください。今、ここで」


 その言葉を聞いた伊勢神宮の宮司と朱里、陽太郎の顔が青ざめ、アマテラスは扇子で口元を隠し、みたまが必死に笑いをこらえる。

 隣にいた私も目をかっぴらいて操を凝視した。操が横目で私に「神楽様ならこう言うでしょう?」と言って目を細めた為、なんとも言えない気持ちになる。

 

 再生の神は操を見て少し考える素振りを見せると、口を開いた。

「……確かに、挑発に乗ってお前を殺しかけたのは私の落ち度だ。しかし小娘、私とてお前に言われた言葉を許すつもりはない。お互い様だろう。形だけの謝罪に意味はあるか?」


 ()()()()

 

「…」

 お前が受けたのはただの批難。

 操が受けたのは死の恐怖と痛み、苦しみ。


 ……どこがお互い様だって?


 少しも悪びれる様子のない再生の神を見て、私は目を見開いてわなわなと震えた。

「何なんだよその上から目線は…お前は操を殺しかけたんだぞ!?土下座しろ!地面に額を擦り付けて許しを乞え!!」

 私は再生の神に怒鳴りつける。その勢いで殴りかかろうとすると、操が慌てて私の身体を押さえ込んだ。

 

「そもそもお前!心の隅では人間を見下してるだろ!感情で分かるんだよ!そんな奴が下界に関する規律を改変する?人間の価値を上げる?出来るわけないだろ!何百、何千年も生きている私達神が、そう簡単に根底にこびり付いた考えを変えられるわけがないんだよ!」

 私がそう叫ぶと、再生の神が再び俯いた。

 私にもブーメランだが、事実だと腹を括って再生の神を睨む。

 

 するとその様子を見ていた創造神が、私達の元へゆっくりと近づいて来た。

「……デラ、理想を高く持つことは悪いことではない。だが、カタストロフィでさえ失敗したのだ…それくらい因果律への干渉は困難を極める。私はこれから創っていく、偏見や差別意識の薄い神々に任せる事も一つの手だと考えている」

 創造神がその父なる声で言い聞かせ、再生の神が渋々頷く。

 私はそんな再生の神にガンを飛ばし続けたのだった。


  * * *


 数日後、この間の騒動が嘘だったかのように私達は日常に戻っていた。

 ただ、以前と違うことは一つ――


 私はあの日、操を抱えて神生で初めて泣いた事を思い出す。

 …涙は出た。でもあの時悲しかったのかと聞かれたら、上手く説明できない。

 操が死にかけたあの瞬間、胸の奥がひどく軋んで、呼吸の仕方すら分からなくなった。

 そして同時に感じたのは、悔しさと無力さと怒り、そして不安…あとは嫌悪とか憎悪とかそんな感じ…

 その集合体が〝悲しみ〟…?

 いや、そもそも悲しいって何だ?涙が出たら悲しんだってカウントされるのか?

 私の感情に関する膨大な知識量が逆に仇となり、考えれば考えるほど〝悲しみ〟が分からなくなる。

 

 創造神によると、今まで思い込んでいた私の悲しみの感情に対する推理(私の悲嘆エネルギーは怒りや動揺に変換されて表れる)は、部分的に合っていたらしい。

 というのも、そもそも私は悲しみが完全に欠如しているわけではなかったのだ。

 ただ、悲しみや切なさ、哀れみやら無力感などの絶望的な感情を外へ放出する際に使われる精神的負荷があまりにも半端ない体質の為、身体が自己防衛としてそれらを怒りに変えることが多かったんじゃないかと言われた。

 しかしそれもそのはずで、創造神が私を創った時期はちょうど、破壊神を失ったショックで「悲しみなんて存在しければいい」と強く感じていた時だったらしい。

 相手の心が読める神・何者にも屈しない鋼の精神・悲しみの感情だけを感じない神・自分を凌ぐ程の神力と破壊の力・オマケに破壊神カタストロフィを思い出さない見た目と性格……創造神は五百年前、そんな最高神を求めて私を創造したらしい。

「いやいや…」

 私はため息混じりにヤレヤレと首を振る。

 欲張りにもそんな超越した力をギュッと一つにまとめようとすれば、創造に関して素人の私からも見ても大失敗するのは目に見えて分かるっての…

 創造神は自分で、『あの時の私は周りがまるで見えていなかった』と言っていた。

 そういう次元の問題では無いと思う。

  

 とにかく私の感情を説明するならば、以前操に言われた、私の中の〝悲しみの引き出し〟はものすごく重い…という言い方が一番しっくりくる。

 つまり私はアミークスが消えて操が死にかけた時、怒りや動揺だけでは感情の発散が出来ず、身体が仕方なくその重ーい引き出しを開いたってことだ。

 でも一度開いたからと言って、引き出しの接触部分が円滑になるわけもなく、悲しみを感じにくい体質なのは変わらない。


  * * *


 でも私が一番気がかりなのは、『口実』だ。

 悲しみを知る為に下界に降りたという口実。

 下界で暮らす為操の家を借りているという口実。

 悲しみが理解できるまで祓い師をやるという口実。


 操や六大神達に私が涙した姿を見られた以上、天界に戻れと言われるかもしれない…

 だから私は考えた。新たなる『口実』を。

 ――それが苦し紛れの逃げだと分かっていても、今はそれでいいんだ。


「操」

 私が声を掛けると、操が不思議そうな顔をして振り向いた。

「…あのさ、アマテラス達が私が泣いてたって言ってたじゃん?」

 私は指同士をくっつけてクネクネと回し、己の挙動不審さを誤魔化す。

「はい、ガッツリ泣いてましたよ」

 私はう…と口をモニョモニョした。

「その事なんだけどさ、実はまるっきり覚えてないんだよなー」

 本当はまるっきり覚えているが、こめかみに指を当てて目線を斜め上に向けて、忘れているフリをする。

 操はそんな私を見て呆けていた。

「何か意識も曖昧だったし…?神力も暴走してたし…だから別に悲しみを完璧に理解したとかじゃないんだ」

 半分本当の話を挟むことで罪悪感を薄める。

「…そうだったんですか」

「そう。下界に来た目的は破壊を防ぐ為だったじゃん?もうその必要は無くなったけど、でも感情の神としてちゃんと悲嘆の感情を知っておくべきかなって思い始めてさ…だから…」

「ふふっ…」

 必死に言葉を探していると、操がそんな私を見て笑った。

「な…何…」

「実は、もしかしたら神楽様は天界に帰ってしまうのではないかと不安だったんです…でもまだ一緒にいられそうで安心しました。神楽様の中で涙を流す行為が悲しみ判定にならないのなら、多分ずっと下界にいるようですね」

 何だか少々茶化されている気もするが、これでまたいつも通り操と過ごせると安堵した。


  

 ――また、下界での日々を楽しめる。

「操は放っておくとすぐ危険な橋渡ろうとするから危なっかしいんだよ」

「それはこっちのセリフですよ…」

 

 何千、何万と生きる神にとって、数十年など瞬きほどの時間なのに、人間にとっては人生そのもの。

 

 でも、それでも…

 ――あと数十年だけ…彼女の傍にいたい。

「じゃあ改めて、これからもよろしくお願いします。神楽様」

 操が無邪気に笑った。

 

 ――みたまみたいに、上手く乗り越えられないかもしれないけど…でも…

「よろしく。操」

 

 きっと、感情を司る者として成長できるはずだから。

 

 ――これからも私は、悲しみを知らない。

 


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