第四十八話:創造神の力の強さ、心の弱さ
胸が痛い…張り裂けそうだ…苦しい…
神力が制御出来ない絶望感の中、私の前に見知らぬ者が現れたのが分かった。そしてその指を私の額に当てる。
意識も朦朧としていた為されるがままだったが、驚くべき事に触れられた瞬間、胸の激痛が治まったのだ。
神力の状態も元に戻っている…
まるで乱れた糸を丁寧にボビンに巻き戻す様な…そんな感覚だった。
苦しくない…助かった…
「だ…れ…」
私を救ってくれた者の顔を見たかったが、強烈な眠気に襲われ、そのまま気を失ってしまった。
* * *
……そして気がつくと、私の頭は操の膝の上にあった。
「神楽様!よかった…!」
操が目覚めた私を涙目で抱き締める。
「ふふ、まさか気を失って数秒後に目覚めるなんて…貴女本当にタフなのねぇ…」
アマテラスは扇で口を隠して私を嘲笑した。だが安堵の感情が伝わってくる。
そしてよかったと泣きじゃくるエレオスと、それを慰めるオント、操につられて涙目の陽太郎に、何より寝返った神獣を見て苦々しい笑みを浮かべた。
いやいや…待て…
私はこの目に入る謎に消え去った敷石や木々、ボロボロの建物を見て顔を青くした。
「これ…私がやったのか…?」
「そうよ。修理費用は全額石上神宮に請求するわね」
アマテラスの冗談に操が絶句する。
私は頭の中を整理しようと目を瞑った。
…確か神力が有り得ないほど増えて…操が再生の神に殺されそうになって…それで…
断片的な記憶を頭に浮かべた。
「あ…」
私は気を失う前に見た手を思い出す。
「私を助けてくれた奴は?」
格式高い神か、どこぞの優秀な祓い師か…どちらにせよ礼を言いたい。
そう思って操達を見ると、全員が複雑そうな顔で一点を見つめた。
私が不思議に思いながらも皆と同じ方向に顔を向ける。するとそこにはフィリアと再生の神、そして初めて見る神の姿があった。
あの神か…?でも、どこか知っているような…
すると、私の拳の中に奪われたはずの六宝神珠があることに気がついた。
「何で私の神珠が…あれ…?」
大きさや形は同じだが、よく見ると以前より色が濃くなっているように感じる。
「あ、そうだ…肌身離さず持つよう伝えて欲しいとあの方が…」
操がフィリアの斜め前に立っている、長い金髪と、アマテラスを容易に超える神力を持つ神に視線を向けた。
………そして、ようやく理解する。
私の神力を鎮めることができて、新しい神珠を創れて、その上フィリアの前に立つことが出来る者…
「創造神…!」
私が衝動的に創造神達の元へ走ろうとすると、操に羽交い締めをキメられ、強制的に膝の上に寝かされた。
身体を起こそうにも頭を押さえつけられ、動かない。
「………操?」
「まだ安静にしていてください。ここからでも会話は聞こえるでしょう?」
操は先程の涙が嘘だったかのように怒った顔をしている。
私は渋々操の膝に横たわりながら創造神達の会話を聞くことにした。
「――私は最高神でいることを諦めないことに決めた。君には五百年間、大変な気苦労をかけてしまい本当に申し訳なかった…」
すると早々、創造神の口から爆弾発言が飛んできた。
は…?
待て待て…そもそも創造神は創造神を辞めようとしてた…?しかも自分の意思で…!?
私が驚愕していると、再生の神から物凄い熱量の怒りが伝わってきた。
「私が!私が今までどんな思いで貴方を支えてきたと思ってるんですか!?私とて最初は貴方の心の回復を強く望んでいた!でもそれが叶わないと分かったから、右も左も分からないのに私が代わりを務めなきゃって思って沢山思い悩んで…!やっと最高神になる覚悟を決めたのに!愛の神に優しく慰められてハイ回復しましたって!?私の今までの苦労は…!?私を何だと思って…っ…」
『創造神は疲れてる、だから代わりに自分が最高神なる』だなんて、根っからのデタラメだと思ってたのに事実だった。
だとしたら再生の神は…
再生の神の悲痛な叫び声が静かな境内に響き渡った直後、創造神を見るとその瞳に涙を浮かべて口を動かし出した。
泣きじゃくりながら話していた為、内容は聞こえなかったが、私はそれが酷く不快だった。
そして頭を深く下げた創造神に対して、言葉をぐっと呑み込んだ再生の神を見て我慢出来なくなり、私は操を見る。
彼女には操を殺されかけた上失敗作だと罵られたが、今はそんな事どうでも良かった。操が無事だったことが大きいのだろう。
私の気持ちが伝わったのか、はたまた私と同じ気持ちだったのか、頑固な操がすんなり解放してくれた。
涙の雫を地面に落とす創造神の前に、私が立ちはだかる。
そして、私は力の限り強く創造神の頬を叩いた。
パシッという空気を割く音と共に、私の右の手のひらがヒリヒリと熱を帯びた。
この状況を見ていたアマテラス達や目の前のフィリアが呆然と創造神を見る。
創造神は目を見開き、叩かれた衝撃から若干顔が右を向いている。
私は大きく息を吐いた。
「……別にさ…誰が悪いとか、誰が被害者だとか決める必要はないと思う…だって私からすればお前らふたり共加害者だから。でも…」
私は両手拳を強く握り締めて創造神を睨む。
「今、創造神がムカいたから一発殴った。ただそれだけだ。あと、もし操が死んでたら…再生の神は殴るだけじゃ済まなかったから」
私は低い声でそう言い放ち、創造神と再生の神を冷淡な目つきで睨みつける。
すると創造神が呆けた顔のまま、滝のように涙を流し出した。
「は…!?」
こいつ…また泣き出した…どんだけ涙脆いんだよ…
私が目を泳がせていると、創造神がその高貴な衣で何度も涙を拭い、滝のような号泣が雨粒程度まで収まった。
「コホン、それで創造神様〜、再生の神の処分はどうするおつもりですかぁ?」
エレオスが安全だと判断したのか、操達と共に私の近くまで歩いて来る。
〝処分〟という言葉を聞いた再生の神の肩が僅かに揺れた。
…再生の神は創造神が最高神を辞めないことを宣言した途端、嘘のように静かになった…私を殺そうとする意思も感じられない。本当に創造神の為だけに動いていたのか…
「…とにかく、まずは私の神力が暴走した理由を詳しく説明してくれ。話はそれからだ」




