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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
最終章 永遠の倖せという夢物語
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第四十七話:再生の神デラ



 ああ…だから…だから殺しておきたかったのよ…


 新たな破壊神の創造に失敗し、喪心状態だった創造神様に対して、理想像からどれだけ外れたのか、そして破壊の能力は持つのか…なんて、詳しく聞けるはずがなかった。

「みーちゃん早くこっちに…!」

 慈悲の神と共に現れた男が娘に向かい叫ぶ。その横には私の神獣がいた。

 懐柔されたか…

 私がソレを見て舌打ちすると、神獣が私を見て直ぐに慈悲の神の後ろに隠れた。

 

 ティモスが神力を竜巻の如く自身に囲い、目も開けられぬ程の暴風を放つ。 

 ――神力の暴走だ。

 恐らく今まで抑制されていた神力が解放されたことにより、コントロールが困難になっている…

 引き金(トリガー)は激しい怒りって所かしら…

 私は破壊の力を無造作に放ち、辺り一帯を消し去るティモスを見て、顔を酷く顰めた。


 やはり彼女は破壊の力を持っていたのね…


 ティモスの攻撃が飛び火し、私の腕と耳が無くなる。

「っ…」

 再生の力が無ければ危なかった…

 それにしても彼女は破壊の力を持ちながら、今の今までその力を行使したと言う情報は無かった。

 何より本人も己の力に気づいていない様子だったわ。

 ――力を制御されていた…?

 だがそれらしき媒体は…

「…」

 私は先程から己の腐敗(はかい)の力が上手く発動しないことに気づいた。

 どんどん能力が出しずらくなる…それに神力も…

 六個もの神珠を吸収したのに何故…?


 ――ティモスは自分の神珠を無くしてから破壊の力を発現させた。

 ――私は彼女の神珠を吸収してから神力と腐敗(はかい)の力が弱まった。

 その二つが示唆する事実は…

 

「能力を抑えつけていた媒体は…彼女の神珠…」


 だとすれば一刻も早くこの体内から彼女の神珠を取り出さねば…!

 既に完全にこの身体に吸収されてしまったから、一度身体を腐らせて、新しい身体に再生させる…

 大丈夫…核さえあれば私は何度でも蘇られる。

 姿形は…今とまったく異なるものになってしまうが…

 私が躊躇していると、先程の人間の小娘が神力の風を正面から受けながら、苦しげに唸るティモスの元へ歩いて行く姿が見えた。


 あの娘…何をする気だ… 


「操ちゃん駄目です!」

 慈悲の神が止める声を無視して少女がティモスの元へ近づく。

 …無駄だ。彼女は神力の暴走により自我をかろうじて保っている状態…人間がどうにかできるものではない。

 だが流石は破壊神に成るべくして生まれた者…神力が暴走しているとは言え、本能で殺してはならない者を避けている…現に小娘には傷一つついていない。

「神楽…様…っ」

 娘は両手を顔の前に出して吹き付ける風に抗う。

 無意味…阿呆だ…命を無駄に散らすだけだとなぜ気づかない…


『貴女の存在こそ要らないです…!創造神だってきっと本心では貴女を信頼していないでしょう!』


 ふと、小娘に言われた言葉を思い出した。

 ああ…駄目だ… 

 私は破壊の力を正面から受ける寸前だった娘の首を掴み、ティモスから距離を取った。

「ぐぅっ…」

 私が娘の首を絞め上げ、娘の足が地から離れる。

「…駄目だ…お前だけは私が殺さねば気が済まない…お前は私がこの五百年、この世界においてどれだけ重要な存在であったか…何も分かっていないようだな。私が要らない存在?創造神様から信頼されていない?人間風情が分かったような口を…!」

 私は娘の首を更に強く絞めつけた。娘は私の手首を掴み、もがき苦しむ。

「…それ…でも……私の大切なひとを…殺そうとした…そして…失敗作だと…侮辱した…」

 まだ話す余裕があるか…ならばこのまま喉を潰して…

 そう思った直後、私の右腕が一瞬で消え去った。そして娘が地面に落とされ、首を押さえて咳をする。

 娘の首を絞めていた腕が消し飛んだ…

 私が振り向くと、そこには青白い顔で胸を抑えて私を睨むティモスの姿があった。

 神力の暴走は未だに収まっていないが、本人は自我を保てている…それに、偶然だとしても今の完璧な力のコントロール…

 なんて適応力…

「ゲホッ…たとえ…今私が生きているのが貴女のお陰だとしても…私は貴女のしようとした事を許さない…」

 膝をついて私を鋭く睨み上げる小娘を見て、全身からどうしようも無い怒りが湧き上がった。

 

 ――しかし次の瞬間、膨大な神力の持ち主が近くに現れた事を感知する。 

  

「デラ」


 そして同時に後ろから聞こえてきた声に、目を見開いた。

 勢いよく振り返ると、そこにはずっと自身の宮殿から出ようとしなかった尊い方がいた。

 何故…

「創造神…様…?」

 あまりの衝撃に声が上ずり、一歩後退る。

 あんなに虚ろで生気を欠いていた瞳が、嘘のように元に戻っている…

 私はその隣に立って私を見つめる愛の神に気づいた。

 彼女が説得した…?

 何で…私がいくら声をかけても、何を言っても意味がなかったのに…

「やはり…ティモスの神力だったか…乱れているな…」

 

 そう呟いた創造神様が一瞬でティモスの元へ移動し、その指二本を彼女の額に当てた。

 すると暴れていた神力が規則正しく彼女の額部分に集まり、創造神様が手を離すと、新たな神珠が彼女の手のひらに現れた。

「だ…れ…」

 そしてティモスが気を失うとそれを受け止め、駆けつけた人間の娘に身柄を渡した。

「…それが新しい神珠だ。ティモスに肌身離さず持つよう伝えてくれ」

 そう言ってティモスの頭を優しく撫でる創造神様を見た娘が、慌てて頭を低く下げる姿が目に入る。 

 そしてゆっくりと息を吐いた創造神様が、私の元へ歩いて来た。 

「……再生の神デラ…長い間君に全てを背負わせてしまい、本当にすまなかった」

 そう言って私に深く頭を下げた創造神様を見て、私の顔は酷く引きつった。

 何を…今更…


「デラ…私は最高神でいることを諦めないことに決めた。君には五百年間、大変な気苦労をかけてしまい本当に申し訳なかった…」

 

「――ざけるな…」

 ふざけるなよ…

 今までしてきた事を真っ向から否定された気がして、絶望感と憎悪が心に渦巻いた。

「私が!私が今までどんな思いで貴方を支えてきたと思ってるんですか!?私とて最初は貴方の心の回復を強く望んでいた!でもそれが叶わないと分かったから、右も左も分からないのに私が代わりを務めなきゃって思って沢山思い悩んで…!やっと最高神になる覚悟を決めたのに!愛の神に優しく慰められてハイ回復しましたって!?私の今までの苦労は…!?私を何だと思って…っ…」

 私の悲痛な叫び声が静かな境内に響き、恐る恐る創造神様を見上げると、その瞳に涙を浮かべていた。

「そんな…風に…思っていたのか……私はてっきり…君は最高神になることを望んでいるとばかり…」

 ――そんなこと…私がいつ言った?

 私は貴方を助けたい一心で行動してきたのに…

「…すまない…デラ…本当に……すまなかった…」

 ――このひとは…どこまでも…

「…最高神(あなた)に頭を下げされて…謝罪(それ)を蹴れる神がこの世にいると思いますか…?」

 ――最低だ。

 私は悔しさから涙を流し、顔を歪めた。

「……もういいです。貴方の為だと思ってしてきた事は、結局全部私の独りよがりだって事ですよね」

 私が皮肉混じりに創造神様を見つめた直後、気を失っていると思い注視していなかったティモスの背中が、急に目の前に現れた。

 

 ――そして次の瞬間、静かな境内の空気を切り裂くような、何かを叩きつけるような衝撃音が響き渡った。

 あまりの鋭い音に、同時に木の枝に止まっていた鳥たちが驚いて飛び立つ羽音が聞こえる。

「…」

 ティモスが創造神様の頬を叩いたのだ。

 そして彼女は右手を反対の手で抑えてゆっくりと下ろすと、声を含む大きなため息をついた。

  

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