第四十六話:創造神の思い
「……フィリア、私の話を聞いてくれないか…世界の話でも神々の話でも、未来の話でもない…私自身の事について。誰かに……話を聞いて欲しいんだ」
私のことを対等に見て、扱ってくれる者はカタストロフィだけだと思っていた。
だから彼が消滅した時、もう誰にも頼れないと悟った。この世界の全てを私が完璧に管理しなければならないと…
だが、ずっと誰かにこの不安な気持ちを吐き出したかった。私の一挙手一投足が与える世界への影響…そのどうしようも無い恐怖を、分かって欲しかった。
私が去り際のフィリアの腕を掴んで引き止めると、彼女は静かに私の隣に座った。
「…」
私と私の片割れが初めて創造した愛を司る神…
初めての私の子供…いや…もう立派な六大神の一柱だ…
* * *
「……カタストロフィと共に世界を管理していた時は、己が無敵だと思っていた。私と彼…創造神と破壊神…二つで一つだったからだ。だが、私の半分が無くなった瞬間、その万能感が粉々に砕け散った。私だけでどうすればいいのかと不安だった…しかし当たり前だがそんな弱音は誰にも話せない。私は世界の最高神だから…」
フィリアは前を向いたまま相槌を打つこともなく、ただ一つ頷いた。
この距離感が今は心地いい。
「…そんな不安定な中、カタストロフィの側近だった再生の神が現れ、新しい破壊神を創造する事を提案された」
彼女は私よりも遥かにカタストロフィを慕っていた故、その言葉に酷く驚いた。だが…
…私に会いに来た時、彼女は赤く腫れた目で、涙を必死に堪えていた。
再生の神デラは、悲しみも癒えぬ中前を向き、未来を案じていたんだ。私は彼女ほど真面目でひたむきで、自分に厳しい神を他に知らない。
「破壊神はカタストロフィ以外に考えられない…最初こそそう思っていたが、日が経つにつれ破壊神の存在が不可欠であることを、否が応でも分からせられた」
あの時の無力感と情けなさ、そして羞恥心は今でもはっきり覚えている。
「…カタストロフィは良い意味で神々に重圧感や緊張感を与えていたんだ。わざと神々に厳しく接し、嫌われ役を演じることで、天界において上下関係が崩れることを防いでいた。それに気づいた時、神々に破壊神が不在であることが知られれば、天界の均衡が崩れる事を察した。だから…創ることを決めたんだ。新しい破壊神を…」
いつもは失言を避ける為に一言一言に意識を向け、尚且つ理解しやすい説明を心掛けている。
だが今はそんな事は考えず、思い浮かんだ記憶と感情をすぐに言葉に乗せた。
「私は次の破壊神に〝完璧〟を求めた。時代が進むにつれ……神が、生物が増えるにつれ、統率は難しくなる。だから最高神として、新しい破壊神には不自由がないよう、自分が欲した能力を与えたかった。膨大な神力、何者にも屈しない鋼の精神、他者の感情を読み取れる力、そして全知全能…。だが、完璧を求めすぎたあまり創造は困難を極めて失敗し、破壊と感情の力を合わせ持った、悲しみを知らぬ稀有な神が生まれた――」
「それってまさか…」
ずっと静かに私の話を聞いてくれていたフィリアが、信じられないと言わんばかりの声で呟いた。
ずっとこの件は自分の汚点だと思い、隠していた。
だがそれは、彼女に対してこの上なく失礼な行為である…
私の真の名誉はカタストロフィが死んだ日、彼と共に塵になって消えているのだ。
それに誇りも自尊心も、偽りの殻に守られていては育まれない。
「――ティモスは、元々は私が破壊神にするために創った神だ。だがその能力の不均一さと感情の起伏の激しさから、あの子は最高神に向かないと判断した。だから〝感情の神を創った〟ことにして、失態を誤魔化したんだ…」
そして彼女には、一生その事実を知ること無く穏やかに生きて欲しかった…
「だから彼女の神珠には、君達六大神と同じ神力増幅の力ではなく、破壊の力と巨大な神力を抑える特殊な加工を施したんだ」
その言葉を聞いたフィリアの目つきが変わる。
「抑えていて私達と同じくらいの神力量って…それじゃあティモスの本来の神力は…」
「ああ…彼女は私と同程度の神力を持っている」
――暫くの間、宮殿内が静寂に包まれた。
「すまない……」
話すべき事はこの事実のみだったのかもしれない。
私の感情論など聞きたくなかったかもしれない。
だが私は…
「…!」
――次の瞬間、下界にて巨大な神力を感知した。
額に汗が流れる。
これは…
「創造神様、一先ず謝罪は受け取ります。ですが現在滝のように溢れ出している神力…これはまさか…」
「…ああ、彼女のものだ」
天界にまで届くほどの膨大な神力…しかも暴走を起こしている…
「行きましょう、創造神様」
フィリアが強い瞳で私に手を差し伸べる。
私は彼女の手を取り、立ち上がった。




