第三十七話:奪われた六宝神珠
「そう言えばみたま様…大丈夫でしょうか…」
アマテラスの話の後、宮司達も輪に加わってこれからどうするかについて話し合っていると、操が小さく不安を漏らした。
「待ってればケロッと戻ってくるだろ、そんな心配するな」
「コン」
コン…?
何だかわざとらしい発音と共に突如、見覚えのある狐が私の真後ろに現れた。
「狐……ですね」
――この真っ白な毛並み…
「美人さんね。裏山に住んでる狐かしら?」
――所々に滲み出る品の良さ…
「わぁっ!それにしても人懐っこい子ですねぇ、どこかで飼われてるんでしょうか?」
狐がエレオスに撫でられながら私を横目で見ると、フンッと鼻を鳴らした。
まるで笑われているかのように錯覚する。
――間違いない…コイツは…!
「再生の神の神獣だ!捕まえろ!」
私がそう叫んだ瞬間、狐がエレオスの腕からスルリと抜け出した。
「え?神獣?あの子が?」
「エレオスおま…!神珠のイヤリング!」
私が指摘すると、エレオスが慌てて右耳を触った。そして青ざめる。
「ぎゃああ!私の六宝神珠がぁ!」
「落ち着け、狐が咥えてる!」
「狐さん返してくださいぃ!」
私とエレオスが狐を追いかけていると、その先に操が薙刀を持って待ち構えていた。
「ナイス操!斬れ!」
操が図太い声と共に、薙刀を振って狐の首を一太刀で斬る。
なんだ、案外弱い…
私がホッとしていると、狐の頭と胴体がウネウネと粘土のように動き出し、新しい狐の神獣が二体現れた。
「は!?分裂した!?」
「こんなの初めて見る!まさか不死身なのか!?」
ヌースが好奇心を抑えきれない様子で目を輝かせていると、背後を取った一体の狐に髪留めとして使っていた六宝神珠を奪われる。ヌースのハーフアップヘアが崩れ、髪も何本か抜かれた為ヌース自身も絶望して膝を崩した。
「捕まえたよ!」
そんな中オントが自慢げに狐の尻尾を掴むと、それがブチッとちぎれた。
「えっ」
「トカゲかよ!」
そして尻尾がちぎれた狐が痛そうな顔をしてカロンの元に駆け寄った。
「キュウゥゥゥ…!」
そしてカロンの膝の上で震えながら蹲る。
「…怖がってるじゃない。神獣は主に命令されて動いているだけよ」
カロンが狐を抱き上げた瞬間、額に下げていた神珠の飾りを引きちぎられた。
「え、ちょ…!」
そしてカロンが己の懐に隠していたフィリアの神珠まで奪う。
「…はは…騙されたわ…」
カロンの足元には、額飾りを自分好みにすべくデコレーションしたと思われる、神珠以外のキラキラ光る小さな宝石が多く転がっている。
そして計三体に増えた白狐は、エレオス、ヌース、カロンの神珠を奪ってそのまま消え去ってしまった。
一連の出来事の、あまりの速さに全員思考が追いついていない様子で呆ける。
「……全部盗られたな、六宝神珠…」
私が力の抜けた声で呟くと、ショックが大きかったのかヌースがパタリと倒れた。
* * *
「…早かったわね」
わてが父上達に神力を分け与えて応急処置をしとると、目と口だけが動かせる状態の再生の神の元に再び狐が戻ってきた。しかも三匹に増えとる。
「悪いけど今身体が動かないの。神珠を私の口に運んでちょうだい」
狐達が咥えとるの六宝神珠か…!
わてが剣を持って再生の神の元へ向かおうとすると、着物の裾を掴まれて止められた。
「父上…!意識が戻って」
「逃げろ、今すぐ…私達は置いていけ…」
直後、再生の神から巨大な神力が燃え上がる炎の様に溢れ出た。
そして彼女がゆっくりと立ち上がる。
――最高神並の…神力…
わてが汗を流して警戒していると、再生の神が身体を伸ばして尻尾を振る狐達を撫でた。
――せやけど…
絶対にわてらの存在に気づいとるのに、少しも攻撃してこないどころか無視されとる…?
「…あんた、自分に逆らった神々を殺す気無いん?」
心から感じた疑問を投げかけると、再生の神と目が合った。その圧倒的な神力を肌で感じて身体が勝手に震え出す。
「ええ、勿論。だって全ては創造神様への忠誠心故の行動でしょう?素晴らしいわ。それに六大神やあなた達みたいな上位の神を殺せば、天界も下界も不安定になる。私はあくまで創造神様の替え玉だから。私の自我は必要無い」
「ほんなら、創造神様を説得して自分を最高神にさせてもらえばええやん。わざわざ殺す必要は無いやろが」
そう反論すると、再生の神が両手を胸に当てて目を瞑った。そして哀しげな顔をする。
「…違う、私は創造神様に死という安らぎを与えたいの。私は心の底から創造神様を尊び、愛しているから、もうこれ以上苦しんで欲しくはない」
「………狂ってんな、あんた…」
絶句した後、唯一出た言葉だった。だがそれを聞いた再生の神は顔をしかめる。
「相手を想うなら当然よ。兎に角あなた達も死ぬ必要はないわ。暫くは眠っててもらうけど、傷は治してあげる」
そう言って再生の神が指を動かすと、色とりどりの痣は残ったが父上と弟の腐敗が消え去った。それと同時に彼女の手刀がわての首元に直撃し、身体が倒れる衝撃と共に瞼が落ちた。




