第三十六話:みたまの血縁
わては〝みたま〟言う可愛らしい愛称で呼ばれとるさかい、たまに天界にいた頃の名を忘れることがある。実際さっきまで忘れとったしな。
――だから、父上はわての最も尊敬する方なんや。
「スパティ!?何故天界に…!」
スパティ…自分ですら忘れていた名を、父上は覚えとってくださっとった。
しかしわての名を呼んだその瞬間も、再生の神デラから目を離さないその姿勢…流石ですわ父上。でもあない傷だらけになってまでおひとりで戦って…わても早う助太刀せな…!
そう思うて愛刀、布都御魂剣を構えたその時、同じ様に真横で分厚い盾を構える神の姿が横目に入った。
その神と目が合う。
「姉上!」
「あんたも来てんかスクトゥム!」
互いに目を見開いて驚いたが、すぐに前を向き、敵の位置を把握した。
弟である盾の神スクトゥムと、わて…剣の神スパティ。剣と盾なだけあって戦いの相性は抜群や。
「姉上、フォーメーションβは如何でしょう?」
「いや…βは接近戦の中でもかなり間合いを詰めなあかん。父上を見てみ。最も接近戦を得意とする父上が一定の距離をとって剣を振っとる。きっと何かあるんや。ここはフォーメーションαとγを組み合わせた遠距離瞬間火力型で勝負や」
「了解」
そしてわて達はタイミングを見計らって、父上と再生の神の間に割って入った。
「お前達…!今すぐ戻れ!」
「あら父上、愛娘がわざわざ助けに来た言うのに帰れだなんて、随分酷い物言いやないです?」
「そうですよ父上、姉上と私が加われば勝機はあります!」
わてとスクトゥムの言葉に感化されたのか、父上がニヤリに笑い、我々の士気が上がる。
「スパティ、スクトゥム、突っ走るなよ」
「「はい」」
* * *
わてら親子の息切れが、戦場となっている創造神様の宮殿内に響き渡る。
父上と共に代わる代わる再生の神と剣を交え、回避が遅れた攻撃はスクトゥムが盾で防ぐ。それを何度も繰り返した。
なんやこいつ…神力の限界無いんか…?
わての剣やスクトゥムの盾は、状態異常に耐性があって腐らんですんどるけど、父上は何度も武器を変えとる…これじゃ神力も体力も持たへん。
父上とわてが攻撃を止めず逃走不可能な状況を作ることで、何とか再生の神をこの場に足止めしとったが…それも限界が近づいてきた。
「父上…神力が…」
「創造神様が…いらっしゃるまで、持ち堪えるつもりだったのだがな…」
そう言うて父上が力無く苦笑する。わてらの神力が底をついた。
「もう気が済んだ?いい加減折れてくれないかしら」
「…そうだな。もう終わりにしよう」
次の瞬間、父上が再生の神に勢いよく突っ込み、背後から彼女の首を絞めてその場に拘束した。
「父上!?」
わては思わず父の正気を疑った。神力が無くなったから言うて腐敗を恐れず絞め技をきめるなんて…
「流石です父上!姉上、私達も…!」
父上に倣ったかのように、自分や他人の命までもを簡単に捨てようとする弟を見て、流石に恐怖した。
え…何、父上とスクトゥムは命を賭ける気で戦いに来たん…?
わては死にとうないで…
下界の…石上神宮には、透や操、神楽が待っとる…操はただでさえ両親を亡くしとるんや…わてまで死んでまったら心が持たんやろ…
父上とスクトゥムの身体を見ると、再生の神に触れている手、腕、頬がどんどん黒く腐っていくのが分かった。
嘘やろ…このままじゃ…
汗を流し動揺するわてを見て、父上が途切れ途切れの声で話し出した。
「…スパティ、お前は…逃げなさい」
「父上!お願いだから再生の神から離れてください!」
再生の神が酷く暴れても、父上とスクトゥムは決して拘束を止めなかった。
「はぁっ…!」
直後、父上が再生の神の胸元目掛けて剣を突き刺した。そして何かが割れる音と共に、暴れていた再生の神の動きがピタリと止まる。
「え…」
目を丸くしていると、父上とスクトゥムが再生の神と共に床に倒れ込んだ。
「父上…!」
「再生の神の核を壊した…これで大丈夫だ…」
父上が半分腐りかけた口を動かし、弟のスクトゥムと共に歯を見せて笑った。
ほんと心臓…いや核に悪いわ…
わてはホッと胸を撫で下ろす。
でもこれで――
「神獣…おいで…」
再生の神が一筋縄ではないことは分かっとったが、その声を聞いた瞬間、身体の芯からそれを感じた。
狐の神獣が再生の神の目の前に現れ、再生の神がそれに何かを伝えるとすぐに消え去る。
「あんた、何で生きとるん…核は…?」
私が目を見張りながら問うと、再生の神がゆっくりと口を動かした。
「…武の神が壊したのは…核ではなく神石……破壊された影響でまだ口しか動かないけど、いずれ回復する…」
神石…神力の量が許容量を超える神特有に現れる神力の塊…そして第二の核とも言われとる…
「化けもんやん…」
下界に降りたと思われる神獣が気がかりやが、父上達を…何より再生の神を放っては行けん。
わては操達の無事を祈りながら、再生の神と向き合った。




