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第三十五話:五百年前の真実



 破壊神は〝誰も殺していない〟…

 その言葉を聞いた私達六大神は大きく目を見張り驚愕した。そして互いに目を見合わせる。

「でもフィリアが…堕ち神の正体は破壊神様だって…」

「ええ、それは事実よ。でも破壊神様は堕ち神になっても他者から神力を奪うことはしなかったわ」

 

 未だに信じられないでいるヌースとカロン、そして私を見たエレオスが、オントの肩を軽く叩いた。

「オント…どうですか…?」

 オントがアマテラスを凝視して、頷く。

「みんな、僕の慧眼によると彼女は嘘をついていない。真実だよ」

 オントの慧眼…その目は嘘を見抜く。だとするとアマテラスの話は真実…

 フィリアは誤った情報を掴んでいたのか…早く教えてあげたい。

「破壊神じゃないなら一体誰が下界の神や人間を虐殺したんだ?」

 私は破壊神と面識がなかった為、安堵する皆を横目に冷静にそう問うた。

 

「…今、祓い師が人手不足であることは、ティモスも身をもって感じたでしょう…?それに妖怪自体も、昔とは比べ物にならない程弱い」

 アマテラスが急に、破壊神と全く関係ない話をし出す。

「昔は妖怪による人害が絶えなかったから祓い師も多かったし、その存在もよく知られていた」

 何で今この話をするんだ…?

 アマテラスをよく観察すると、不安の感情が伝わってきた。その目も珍しく視線が定まらないようで、瞬きの回数が多く、泳いでいる。

 

「…どんな話が飛んできても、私はアマテラスに失望したりしない」

 

 私が真っ直ぐアマテラスを見ると、彼女が私の名を小さく呟いて深呼吸をした。そして重い口を開く。

「五百年前、名だたる妖怪共が一夜にして一掃されたわ。酒呑童子(しゅてんどうじ)玉藻前(たまものまえ)大嶽丸(おおたけまる)大天狗(おおてんぐ)(ぬえ)大蛇(おろち)など…現代にまで伝わる悪名高い妖怪をすべてね…」

「わぁ!五百年前っていうと、破壊神様が堕ち神になったのと同じ時期ですね〜!」

「そうだな……というか、大妖怪達を祓ったのは他でもない君、天照大御神だろう?何故そんな他人事のように…」

 そう言いかけて、ヌースがハッと目を見開いた。

 私は何を言っているのか理解出来ず、頭の上にはてなマークを浮かべる。

「妖怪こそ残忍非道…破壊神様には敵わないと悟った途端、最後に己の生きた爪痕を残そうと無差別に神や神力持ちの人間を殺害し始めたの。だから、五百年前の殺戮は、破壊神様ではなく妖怪共が起こした事件なのよ」

 それを聞いたカロンがその目を丸くした。 

「待って…つまり同じ時期どころか、破壊神様が堕ち神になった日と、アマテラスが妖怪退治で英雄になったのは同じ日…!?まさか…」

 まさか…その大妖怪達を祓ったのは…

 

「ええ…妖怪共を祓ったのは、わたくしではなく破壊神様よ」

 

 その言葉を聞いた皆の時が一瞬止まった。

 私が何故それを告げなかったのか問うと、アマテラスが苦虫を噛み潰したような顔をした。

「妖怪共が暴れて神々を殺し回っている時、わたくしが何をしていたと思う…?」

 アマテラスのその声音から、良い話ではないことを悟る。

「…隠れていたのよ」

 私達の反応を待ってられない程に早く言ってしまいたかったのか、アマテラスがそう話すと自嘲の笑みを浮かべた。

 私は己の身を守るのは当たり前だし、悪いことでは無いと思ったが、以前みたまから聞いたアマテラスの性格を思い出した。

 神としてのプライドが高い上、この国の人間を守ることへの責任感が異常に強い。そのクセ完璧主義で人間嫌い……何だか色々面倒臭くて生きづらそうな性格をしている。

 それなら言いづらいのも納得だな、と思っていると、アマテラスが続きを語り出した。

 

「当時の伊勢神宮の宮司が命を賭して私を山奥の社へ逃がした後、情けない事に夜明けまでずっと息を殺していた…私の神力は日本全土に結界を張って余所者の侵入を防ぐことに殆どを費やしているから、戦う余力は持ってていなかったの。今考えれば言い訳がましいわね。そして日が昇って…気づけば全国の大妖怪達の気配が一斉に消えていた。町に戻ると、そこには全身が妖怪の返り血で真っ黒に染まった破壊神様のお姿があった。きっと一晩中妖怪を破壊して回ったのか激しく息切れしていて、神力も底をついていたわ」

 破壊神は妖怪を道ずれにしたのか…余程人間が好きだったのか、あるいは世界の秩序を正したかったのか…どちらにせよ堕ち神になっても尚、他者の為に動こうと思えるのは、相当なお人好しだったんだろうな。

 

「…そして辺りに舞う妖怪の蒸発した黒い煙と共に、呆気なく破壊神様は消えて無くなった。破壊神様は堕ち神として消滅する前に、残りの神力を全て使って問題視されながらも人間に任せるべきだと放置されていた、規格外の大妖怪達を破壊してくださったのだと気づいたわ。そこからは流れるように私は英雄扱いされ、より一層崇められた。偶然わたくしが破壊神様の近くに居たのと、人間達の願望が組み合わさって嘘の事実が作られた。『天照大御神様が慈悲を施して妖怪共を殲滅してくださった』ってね。結局私の必死な否定は盲信的な信仰心に掻き消され、人間達は天照伝説などというふざけた書物を書き上げて、皆がその内容を信じた。現に、今の伊勢神宮の宮司達もそれを信じているしね」

 そう言ってアマテラスは、操と共にこちらの様子を気にしている宮司達を一瞥した。

 

「ええっとぉ…つまり?」

 エレオスが頬に指を当てて首を傾げた。正直私も情報量が多くて処理しきれていない。

「つまり時系列順にまとめると、破壊神様が堕ち神になり、最期の神力で妖怪を祓い始める→敵わないと気づいた妖怪達が腹いせに人間と神々を殺す→破壊神様が大量の妖怪を祓った後、神力が尽きて消滅する→それが全て天照大御神の手柄になる→現在一連の流れは、『正体不明の堕ち神の下界殺戮』と『天照大御神の妖怪退治』という全く別の物語に分かれて後世に伝わっている…ということか」

 ヌースの説明はいつも分かりやすい。

 しかし、〝盲信的な信仰〟か…やはり人間の宗教…神への信仰心には恐怖すら覚える。守るべき戒律だとか禁忌だとか、挙句の果てには生贄まで…私だったらあなたの為に死にますって言わてもクレイジーだとしか言えないぞ…


「それで、アマテラスは何故今になって話そうと思ったんだ?」

「……いつかは言うべきだと思っていたわ。ただそのいつかが今になっただけよ」

「…あのさ、宮司達にだけでも話しといたら?少しはそのどでかい罪悪感も楽になるんじゃないか?」

 あまりにアマテラスが感じている罪悪感が強かった為そう提案すると、その顔が曇った。

「あの者達は完璧な日本の神を望んで崇めているのよ。わたくしの逸話が嘘だと知れば、きっと幻滅するわ」

 いやいや…

 私は苦笑する。だって聞くまでも無くそんなことないと分かっていたから。

「そんなの話してみなきゃ分かんないだろ。おーい!」

 私が遠くでこちらを見ていた操や宮司達を手招きする。

 私の声に気づくと、全員瞬きする間にこっちにやって来た。


  * * *

 

「アマテラスから話があるって」

 私が第一声にそう言うと、アマテラスの顔が青ざめる。暫くしてその表情が決意の籠ったものへと変わった。

「……五百年前の…俗に言う妖怪退治は、私がしたものではないわ」

 アマテラスが言ってしまったと言わんばかりの表情でため息をつく。

 すると、宮司と朱里が目を見合せた。

「妖怪退治…ですかな…?ええと…何百年か前の…」

「確か天照大御神様の武勇伝ですよね…?恥ずかしながら私共、あまり詳しくなくて…」

 そう、五百年前など、人間にとっては先祖のまた先祖の時代。過去の記憶は昔話から神話へと変わり、人間の記憶から薄れていくものだ。

 だから――

「お前達がアマテラスに仕える理由は?」

「え…?そらぁ勿論、日々己の神力を使うて二十四時間三六五日、日本全土に結界を張り、海外の悪魔やら吸血鬼やらの侵入を防いでくださっとるその偉大さを尊び、それでいて気品溢れる仕草やその美しさに皆が惹かれておるからで」

「お父さん熱狂的すぎやて…ち、父の言う通りです。我々が天照大御神様に仕える理由は、その愛国心とストイックさでこの国を神話の時代から守り続けてくださっているそのお姿に心から感謝しているからでございます…!」

 

 ――宮司達は〝現在(いま)の〟アマテラスを敬い、祀り上げているのだ。誰も過去など見てはいない。

 

 宮司と朱里は、アマテラスを恐る恐る見上げてその瞳を輝かせている。まるで純粋な子供の尊敬の眼差しだ。

 その様子を見たアマテラスは呆れたような、安心したような笑みを浮かべたのだった。

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