第三十三話:愛の神と創造神
私はドレスの裾を持ち上げて、創造神宮の廊下を走った。
そして、宮殿に数多くある扉の中から、他に比べて古く、それでいて小さな扉の前で立ち止まる。
創造神様は何かに悩んでいる時、いつも――
私はゆっくりとその扉を開けた。古い故にギィ…と軋む音が伴う。
――書斎にいることが多い…
私は乱雑に置かれている山積みの本や書類を避けながら、書物で溢れかえる部屋の中を見渡す。
「いた…」
そして、本に埋もれて眠っている創造神様を見つけた。
「創造神様…!」
私が体を揺さぶって呼びかけると、創造神様がむくりと身体を起こす。それに伴って本の山が雪崩のように倒れ、埃が舞った。
「…フィリアか」
その目はこの前に会った時と同じで虚ろなままだった。でも以前と違って私を認識し、名前を呼んでくれた為少しだけ安堵する。
だがそれと同時に、今まで抑えてきた怒りがこみ上げてきた。
「…今、何が起きているのかご存知ですよね?」
私が責めるようにそう聞くと、創造神様が俯いた。
「ああ…カタストロフィが私に成り代わろうとしているようだな…」
その他人事の様な言葉を聞いて、思わず創造神様の頭に乗っていた本を叩き払う。
「本気で言っているのですか!?あれはカタストロフィ様ではありません!再生の神です!」
「…ああ、そうだったな」
そう呟いて窓の外をぼんやり眺める創造神様を見て、私の言葉が少しも届いてないことを理解した。
「っ…、目を覚ましてください創造神様!再生の神は我々から六宝神珠を奪って力をつけ、貴方を殺し!この世界の最高神になろうとしているのですよ!?」
私が怒鳴ると創造神様が小さく溜息をつき、額に手を当てた。
「…分かっている…だが私は…二度もカタストロフィを喪いたくないのだ…」
「ですからあれはカタストロフィ様ではありません!」
「分かっている!」
彼の急な大声に驚き、ビクッと肩が跳ねる。
「すまないフィリア、一人にしてくれ…」
嗚呼…
これ以上、話をしても無駄だと悟った。
「創造神様…現在貴方を護る為、アニュイが命懸けで再生の神と戦っています。暫く間を置いて、また来ますから」
そして涙を堪えながら足早に部屋を去ろうとした時、彼の消え入るような声が耳に入った。
すぐに振り向き、私は期待の視線を向ける。
「フィリア、私は―――」
……その言葉を聞いたら、泣くのを我慢することさえ虚しくなり、目を細めるとすぐに涙が頬を伝った。
私はそれ以上振り返ることなく書斎を去る。
そして自分の靴音だけが響き渡る廊下を歩いていると、創造神様の言葉が何度も頭の中で反芻した。
〝私はもう、疲れたんだ…〟
もうどうしようも無い…あの方はもう駄目だ…
「何で…?何で……っ…!」
昔の創造神様の笑顔が鮮明に蘇り、私はただ泣きながらその場に蹲るしかなかった。




