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第三十一話:堕ち神【参】



 私は街並みの中に潜む神力に目を凝らしながら、六宝神珠とアデルフォスを探して飛び続けた。

 人間の身体から神の身体に戻った為、神力を持たぬ者は私を目視できない。 

 …最初こそ煩わしく思っていた心音も、いざ聞こえなくなると何だか変な気持ちになる。最初は重くて不自由に感じていた人間の身体も、いつの間にか慣れていて、逆に神の身体が軽い羽のように感じた。

 たった半年人間に化けていただけなのに…不思議だな…

 

 そんな事を考えながら飛翔していると、見覚えのあるツインテールの少女が友人と共に歩いている姿が目に入った。

「そうそう!何か酔ってて…?あんま記憶なんいやけどぉ、堕天使てホストの人の熱烈な視線感じてん!きっとウチに見惚れてたんよ!」

「あはは!アホな子おるなぁ思うて見てただけなんやないのー」

 私は半目でその二人を見てため息をついた。

 何だ杏樹か…この辺から神力を感じたんだけどな…

 見ると、すぐ近くに神社があることに気づく。

「…神社からの神力?いや、これは」

 よく目を凝らして社を見ると、アデルフォスが社の中を除いている姿を発見した。

 

 ――見つけた。


 私は両手拳をぐっと握り締め、すぐにその神社に降りる。

「ひっ、ティモス…!」

 アデルフォスの顔が青ざめた。真っ先にその手を見たが、六宝神珠は持っていない。

 次の瞬間、正面から風が吹き付け、神力を持つ狐が社の中から飛び出した。

 今のは神獣…か?

 社の中にこの神社の主神は居らず、アデルフォスが焦った顔でこちらを見ていた。

「……双子の神」

「は、はい…」

 私は何度も落ち着け、と心の中で自分に言い聞かせ、頭を掻きむしった。

 

「お前ら…さ…私に恨みが…あったなら…私を攻撃しろよ…何で…何で関係ないアミークスを…巻き込んだんだよ…」

 

 自分でも分かるほど、私の声は怒りで震えている。拳を強く握りすぎて、手のひらに爪の痕がついた。

「こ…殺すつもりはなかったんです…!も…元々神力を使い切っていて弱っていたらしく…すぐに核が壊れて…」 

「はっ…殺すつもりはなかったって…殺さない程度の暴行をしようとしたんだろ…?」

 私が皮肉めいた顔で睨みを利かせると、アデルフォスが目を逸らした。

「目を背けるな…私から…自分の犯した罪から…!アミークスが弱っていたのはな!毎日多いとは言えない自分の神力を、底がつくまで人間共に使って!加護を与えていたからだ!それをお前らは…っ…!」

 その直後、何かがこみ上げてきそうになり、ソレを押し戻した瞬間喉の奥がぎゅっと締まり、熱がこもった鈍痛を感じた。初めて感じる感覚に驚き喉を触ると、徐々にソレが消える。

 何だ…今の…

 だが、驚いたお陰で怒りに支配されていた頭が冷えた。

 

「いいか、お前のその腐った頭に叩き込め。双子の神は感情の神である私と…アミークスと親しい数多の神々を怒らせた。お前とお前の妹には、絶対にアミークスが受けた痛み以上の罰を受けさせる。それがお前が起こした因果だ」 


 私はどす黒い怒りを腹に収め、低く唸るような声でアデルフォスに告げる。

 するとその直後、眩しい光と共に、天界から見覚えのある神達が次々に私達の周りを囲った。

 

 え…?

 

 同時にアデルフォスが拘束され、私の目の前で跪かせられる。 

 何だ…こいつら…神…?

「双子の神々には、我、懲罰の神を筆頭に、天界の聖なる(かみ)がこやつらの消滅するまでの間、正当な罰を受けさせよう」

 周りの神々がその言葉に対し、大きな(とき)の声を上げる。

 急に何なんだ、こんなに大勢…十や二十程度じゃないぞ。

 

 私が驚き、暫く目を丸くして固まっていると、懲罰の神と名乗った者が私の元へ歩いてきた。

「先の貴女の言葉は、なかなか六大神として相応しいものでしたな。これからも精進すると良いですぞ」

 老人のような見た目の懲罰の神が長い髭を撫でながら明らかな上から目線で私にそう言ち、周りに神数名も頷いた。

 

 この、絹衣一枚の質素な見た目とは真逆のお高くとまった態度……天界の中でも特に位の高い者達の住処、理想郷(アルカディア)で暮らす神々か。

 下界に降りた神達を見下し、馬鹿にする者も多いと聞く。

「へぇ。何で天界の箱入りぼんぼん達がこぞって下界に?」 

 先程の発言…今までは私を六大神として認めていなかったと言わんばかりの言い草がムカついた為、こちらも皮肉を返す。

 その上、ここぞとばかりに見計らったタイミングで現れて…目立ちたがりもここに極まれりだな。

 

「……情報を得たのです。アミークスが双子の神に殺されたと。ここにいる者は皆、アミークスと特に親交が深かった友一同です。皆、双子の神を憎んでいます」

 神々の私への不快感とは別に、深い悲しみと怒りの感情が伝わってきた。憎んでいるのは本当らしい。

 アミークスは本当に、多くの者から好かれていたんだな…

 私と違ってお前は、皆に必要とされる存在だった…

 それを、私のせいで――

 負の感情に支配されそうになった瞬間、ハッとした。

 大きく息を吸って、ゆっくり吐き出す。

 

 ――目的を忘れるな。


 強く自分の心に言い聞かせた。 

 …後ろを向くのは全てが終わってからだ。

「…分かった。双子の処理はお前達に任せる」


  

 私は静寂の中にある神社にて、鋭い眼光でアデルフォスを見下ろす。 

「アデルフォス、私の六宝神珠を返せ」 

 私はできるだけ冷静を装ってアデルフォスの前に手を差し出した。

 だがアデルフォスが汗を流して私と目を合わせない。

 嫌な予感がじんわりと心を侵食して行く。

「……おい…持ってるんだよな?」

 アデルフォスが目をぎゅっと瞑る。

「……俺は堕ち神なので天界には二度と戻れません…なので下界に落ちる前、六宝神珠を回収したらここに来るよう命じられ、先程破壊神様の使者に六宝神珠を渡してしまいました…」

 さっき私の横を走り去った狐の姿が頭をよぎった。

 あの狐か…!

「くそっ!」

 私は後悔と悔しさのあまり地面を強く蹴った。

 今から追いかけても間に合わない…

「っ…!フィリア!」 

 私は不甲斐なさを感じながらも、通信用ピアスを起動させた。

 

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