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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
第一章 人間初心者
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第三話:出会いはゴミ袋から



 ヌースのガイド通りにバスを乗り継ぎ、やっとの思いで高校に着くと、待ってましたと言わんばかりに洗脳された教師達が私を出迎えた。最早ヌースの策略が怖く思える。

 そして担任と名乗る男に連れられ、現在扉の前で待機させられている。

「HRの前に編入生紹介するでー」

 淡い桃色の花弁が外で舞っている。木の名前が思い出せず頭を捻っていると、担任の「編入生」という単語を聞いた教室の中が祭りの如く騒ぎ出した。

 まったく人間は…仕方がないな…

 ヌースにはあまり目立ち過ぎるなと言われたが…

「フフ…」

 美を切望している生徒達の声を聞き、つい口角が上がった。そして私は堂々と扉を開ける。

 子供達は一瞬動きを止めて私に見惚れた後、すぐに歓喜の声で教室を包んだ。その様子を見て気分が良くなる。そして鼻高々に教卓の前まで歩いた。

 私は大きく息を吸い、肺を膨らませる。

 ヌースは言った。〝掴みは挨拶だ〟と。

 

「私は六大神が一柱、感情の神ティモスだ!この私と相まみえたことを光栄に思うと良い。さぁ、私にひれ伏せ、存分に崇め讃えよ!」


 沈黙が走る――

 電柱にとまっていたカラスが飛び立つ羽の音と、私に五月蝿いと言わんばかりに汚ならしく鳴く声が聞こえた。

 生徒達はというと声を引っ込め、目を丸くして私を見ている。

 予想の拍手喝采から程遠い反応に驚いた直後、カロンの怒号が右耳から左耳を突き抜けた。

『何言ってるのティモス!名前決めたでしょ!人間の名前!あとは……とりあえず敬語使って!』

 

「……巴神楽(ともえかぐら)……です」

 

 しばしの沈黙の後、人間達はコソコソと話し出し、異物を見るような目で私を見始めた。

 私はあまりに冷やかな反応の人間達を見て口を尖らせる。

 ……別にいいけど?

 私は自分にそう言い聞かせつつ、取り敢えず一通り教室を見渡す。すると神力(しんりき)の塊が目に止まった。しかも神力はただの塊として存在しているわけではなく、一人の少女に宿っていることに気づく。

 私はその少女を凝視した。周りとは私を見る目が違う。真剣な顔つきで、私を警戒している。

 アレは…恐らく私が神だと気づいているな…それに神力を持っている…

 私は思わぬ収穫に不敵な笑みを浮かべた。

「あ、えっと…(ともえ)の席は」

 頼りない担任が気まずそうにあたふたする。

「ここだ」

 私はその少女の隣の席に向かい、指差した。

「え…ここ僕の席…」

「変われ」

「えぇ…」

 

 そして私は颯爽と席に着き、笑顔で少女に挨拶する。

「よろしくな」

「…はい」

 少女は若干引き気味に私を見て汗を流した。

  

  * * *


 HRが終わると、数人の女子集団が私の机に大きな影を落とした。

「巴さんよろしくー自己紹介強烈やったなぁ」

「その綺麗な白髪地毛?アルビノ言うんやっけ?」

 その目に映っているのは私だったが、真に見ているのは私の容姿だとすぐに分かった。

 ヌースの言った通りだ。人間は自分より美しい者に群がるらしい。

 さっきは何も言わないで私に恥をかかせたクセに…

「…当たり前だろ?因みにカロンはもっと美しいぞ。あ、カロンって美の神のことな」

 でも私はこの子らの何倍も歳上だし寛大だから、一応返事をしてやる。

『やだティモスったら〜』

 耳に入るカロンの声色から、彼女が今満面の笑みであることが分かった。

 私は目線を隣の席の少女に移す。

 少女は己を凝視する私を一瞥すると、少々嫌そうな顔をして視線を手記へと戻した。今の時代の若者にそぐわない古びた日記帳だ。

「え…神とか、冗談じゃなかったん…?」

「ガチの厨二病やん、ウチ初めて見た」

 一方私を囲う女子達から困惑と嘲りの感情が伝わってくる。

 ……何か馬鹿にされてる?ムカつくな。

 私は彼女らに向けてシッシッと手を払った。

「もういいだろ?暑苦しいから離れろよ」

 私はイライラしながらも極力優しく対応する。

 しかし彼女達はそんな私に対し、顔を顰めてヒソヒソと何か言い合う。 

「まぁまぁ、そんな怒んないで!神楽ちゃん!せっかくやし話そー!」 

 すると突如、集団の中心にいた少女が甲高い声で重い空気を斬り裂いた。

「ちょ、姫…!?この状況で!?」

「あはは!さすが姫ちゃん、コミュ力の権化や」

 少女の一言で、集団は笑いに包まれた。

 しかし少女から感じたのは、苛立ち。

 感情と行動が矛盾してる…

 その思いを抱えている理由には興味無いが、何故その状態で笑えるのか、純粋な疑問で――

 

「……お前、何で笑ってんの?」

 

 と、指をさして聞いてしまった。

 そして返ってきたのは、集団の怒りと嫌悪。

「姫はあんたのこと気遣ってくれてんやで!あんた何様なん!?」

「神様だっつったじゃん。短気だなお前」

 私はイライラしながら頭を搔く。

「は!?もういいわ!馬鹿が移るさかい、姫行こ!」

 ……馬鹿?

「アアン?誰が馬鹿だって?」

「あんた以外誰がおるんや!」

 恐らく姫とやらを真似て髪を二つにくくっている女と私が、互いに赤い火花を散らして睨み合った。

 

「何や何や?」

「転校生が姫ちゃん達ともめてるっぽい」

「ああ、自己紹介もやばかったもんなーなんやっけ?感情の神?」

 騒ぎに乗じて男子が笑い声を上げ、場が更にざわつく。

 怒り、嘲笑、好奇心、嫌悪…

 全て私に対する感情だ。

 コイツら私を苛つかせるのが随分上手だな…

『ティモス!手出しちゃダメよ!?』

 カロンの声が聞こえた。タイミング的に、多分通信ピアスだけでは我慢できなくなって宮殿にある水鏡で下界の様子を目視しているのだろう。

 

 しばらく睨み合いを続けていると、気づけば教室は静まり返っていた。全員が私を注視して…

 ……いや、私じゃない?

 人間共の目線が左から右にゆっくりと動いている。私の元に向かって歩いてくる奴がいるんだ。足音も聞こえる。

 後ろを振り向こうとした直後、ドサッという軽い衝撃音と共に、睨み合っていた女の頭に大量のゴミが降りかかった。


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