第二十九話:堕ち神【壱】
「なーんでこの国はこんなに神が多いんだよ!」
俺はアデルフォス。双子の神だ。因みに妹の名はアデルフィ。こいつも双子の神だ。
「もう随分探してるのに、まだ見つからないわよ…」
「でもラッキーだよなぁ、ティモスの六宝神珠を持って帰るだけで神に戻してくれる上に破壊もされないなんて」
そう、俺達はティモスにパシリとして仕事を押し付けられたり、ティモスがやらかした事の濡れ衣を着せられたり、ティモスの代わりに六大神様方に怒られたり、ティモスに…(以下略)
つまり、長年の恨みからティモスへの仕打ちとして、アイツの友達である友愛の神アミークスにティモスを天界で孤立させることを提案したのだが――
『断る』
『何でだよ、お前もティモスに対して不満の一つや二つあるだろ?』
『仮にあったとしても、俺は彼女に直接伝える。そんな陰湿な真似はしない。この話はティモスにも報告しておくぞ。残念だ、双子の神』
俺達より歳若い友愛の神に舐められた態度をとられ、つい逆上して…
『お前らは生意気なんだよ…!舐めやがって!』
思わずそう怒鳴ってアイツの背中に向かって一撃を入れたんだ。
普通は核が埋まっている胸元や背中を思い切り殴ったとしても、神の核が破壊されるわけが無い。有り得ないはずだった。
でもあいつの核は疲労から脆くなっていたんだ。今思えば神力も無くなる寸前だった。
そう…友愛の神は俺に殴られた後、パタリと倒れて粉雪のようにハラリハラリと消えてしまったのだ。
これが本当の〝殺すつもりはなかった〟だ。
そして流れるように因果律に堕ち神の烙印を押され、下界に放り出されて今に至る。
破壊神カタストロフィ様はそんな俺達を哀れみ、感情の神から六宝神珠を回収すれば破壊しないと約束してくださった。
「そもそもさぁ、ティモスが全部悪いのよねー」
「ほんとだよな。最近生まれたばっかの癖に六大神だからって威張り散らしてよぉ」
俺達はティモスの悪口で盛り上がる。
「ねぇ兄さん、それより神力がどんどん減ってる。そろそろ見つけないと私達消滅しちゃうわ。もう神じゃないから私たちの体で神力は作られなくなったし」
そう、問題は神力だ。これが底をつけば俺達は自然消滅する…だから他者から神力を奪って補給しないといけない。
「社を持ってる神は何か護衛がついてるっぽいしな…とりあえずそこら辺にいる野良の神でも殺して神力奪うか」
「そうね。あ、ちょうどいい所に」
目の前の人型の石像に小さな神が宿っていることに気がついた。
「悪く思うなよ」
「ピイイイ!!」
手を出した次の瞬間、神の悲鳴と共に背後から神力を持つ人間に刀で斬られかけた。
「…は!?何で俺らの居場所バレて」
「応援要請!応援要請!堕ち神二体が動き出しました!」
人間が通信機と思われる機械を持って仲間に連絡する。
「兄さんあれ!」
アデルフィが指さした方向を見ると、恐らく人間が作ったと思われる紙の式神が俺達を見つめていた。
「くそっ!!」
この一ヶ月、ずっと監視されてたのかよ!この俺らが人間如きに…!
捕まる焦りよりも先に、舐められた怒りが身体を支配する。
「どうするの兄さん!」
「とりあえず逃げるぞ!急げ!」
俺とアデルフィは残り僅かの神力を使って、音速程度の速度で人間達から距離を取った。
* * *
「兄さんもう神力が限界だよ!」
「くそっ、仕方ない…一か八か、ここから一番近い社…あそこに降りるぞ!」
俺がその社を指し、アデルフィが不安そうに頷く。
――凄まじい轟音と共に、俺の身体に衝撃が響いた。高速で地面に衝突したため尻もちをついた場所は地割れしている。土煙で周りの状況は分からなかったが、近くに物凄い神力の塊が四つあることに気がつき、絶望した。
「嘘だろ…何だよこの強力な神力の集まりは…!」
「兄さんここどこ…?」
その上、土煙の中から神力を持つソイツらの内の一人が俺達に近づいてくる。
やべぇ…ティモスの六宝神珠を奪う前に死にそうだ…
「ようよう堕ち神さん、死ぬ準備は出来てるか?」
芯からビビって汗を流していると、五百年間毎日のように聞いていた悪魔の声が俺の耳に入った。そして俺の顔がサァァと青ざめる。
土煙がある程度和らぐと、その顔が徐々に明らかになった。人間の姿をしているが、この白髪とこの顔は…間違いなく…
「ここに落ちたのが運の尽きだな」
ティモスだァァ……




