第二十二話:修学旅行【歌舞伎町】
式神の後を追い、全く寝静まる気配のない東京の街中を走っていたが、操が急に立ち止まった。
「…もう終わったみたいですね」
どういうことかと操の目線の先を辿ると、思わずげっと声が出る。
暗い路地裏の中、全身返り血まみれの操の幼馴染、陽太郎が冷酷無比な表情で散り行く妖怪の死骸を見下ろしていたのだ。
私達に気づくと、その顔が嘘のように明るいものに変わる。
「あ!みーちゃんに神楽様!」
声も嘘のように明るい。
「…相変わらず惨い戦い方をするのね」
すると、陽太郎が笑顔で手をポキポキ鳴らした。
「妖怪は苦しませて苦しませて殺すものでしょ?操ちゃんに辛い思いをさせた『アイツ』と戦う時のための予行練習でもあるしね」
その言葉を聞いた操が顔を歪める。
操に辛い思いをさせた…
その言葉から導き出されたもの…それは『操の親の仇』
「…おいお前」
私が話しかけると、陽太郎が訝しげな顔でこちらを向いた。
「中々良い考えをするじゃないか。気に入った」
その言葉に対し、陽太郎が不敵に笑う。
「わぁ、こんなに美しい神様に褒めていただけるなんて光栄だなぁ」
そして私達は互いに目を合わせ、固い握手を交わした。私達の思考が完全一致した瞬間だ。
* * *
「…つまり、巴は神様で、悲しみを知るために天宮と一緒に妖怪退治してると」
部屋に戻って私と操について簡単に説明すると、ポッキーを口にくわえた姫が内容を簡潔にまとめた。
冷静に私を観察している姫とは逆に、美玖は目と口をかっぴらき、唖然としている。手に持っていた茶を落とすと、未緒が地面に触れる寸前でキャッチした。
「えっと…神様って聞いてこれからどう接すれば…」
「敬語使えってこと?」
未緒と姫は以前妖怪と遭遇した事もあり、おおよそ予想していたのか、私の正体を知ってもあまり驚かなかった。美玖はそんな二人の様子を見て震えている。
「今まで通りでいいし敬語もいらない。私らが急に居なくなっても気にすんなってことを言いたかっただけだから。な、操」
私がそう言うと、操が頷いた。
「えっと…これからもよろしくね」
すると、美玖が涙目で操に飛びついた。
「ビビったぁ…!不敬罪で神楽っちに首チョンパされるかと思ったよぉ!」
「は!?そんなことしないわ!」
本気で美玖から安堵の感情が伝わってくる。私を何だと思ってんだ。
「下界に降りたばかりの神楽様ならやりかねませんでしたよ」
否定できない私を見て、操が笑った。
「姫!姫姫姫姫ぇぇ!!」
すると部屋の扉が勢いよく開き、姫の友人二人が泣きながら部屋に入ってきた。
「え!?どしたん二人とも…」
「杏樹が!杏樹が歌舞伎町から戻らんの!!」
杏樹…と聞いて、最近覚えたクラスメイトの顔を思い出していく。そして頭に浮かべた顔と名前が完全に一致した。
田中杏樹…編入初日に私と口論して、みたまの手記を破ったあの田中か。
正直あいつがどうなろうとどうでもいいんだよな…
「は!?何、どゆこと!?あの子一人で夜の歌舞伎町行ったん!?」
しかし姫は汗を流して心配そうにしている。腐っても友達ってわけか。
「ううん、私達の班みんなでホテル抜け出したんやけど、先に戻ってるって連絡あったのに杏樹がどこにも居なくて…!」
姫がそれを聞いて頭を抱える。
「どうしよう姫…!先生に言ったら絶対怒られる!」
「んなこと言っとる場合か!!大人に言うしかないやろ…!」
すると、案の定操が動いた。
「待って、人探しなら式神の方が早いわ」
そう言ってお人好しな操が助け舟を出し、結局私達の班が田中杏樹を捜索する羽目になったのだった。




