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第二十一話:修学旅行【操の両親】



「それよりみーちゃん何で東京いるの!?もしかして僕に会いに」

「修学旅行で来てるの。ようちゃんこそ何でこんなとこに――」

 そう言いかけて、操が目の前の石造りの古い鳥居の奥に建つ、小さな(やしろ)を見た。

「もしかして、お社に?」

「うん、今日は学校も休みだし掃除しに来たんだ」

「そうだったんだ…ありがとう」

 操が男に笑顔を向けると、男の感情の百パーセントが幸せで満ちた。

「ゴホンッ!」

 私がわざとらしく二人の間に入って咳払いをする。

「…お前も祓い師?」

「はい。日枝(ひえ)神社の九条陽太郎と申します、麗しい神様。彼女とは幼馴染で、祓い師の修行仲間なんです」 

「ふぅん…」

 私が半目で男を睨むと、男が私を見てヘラりと笑った。

「恐ろしいほどに美しい神様が下界に舞い降りたと、祓い師の間で噂になっているんですよ!あ…噂だなんてお気を悪くさせますよね…」

「んや、くるしゅうない」

 美しい神様というワードに、少し気分が良くなる。

「…そうだみーちゃん、おじさんのお墓参り行かない?ほら、おばさんのお墓は奈良で別々だからなかなか来づらいでしょ?」

 おじさん…というのは恐らく操の父親だろう。夫婦で墓が別なのか…珍しいな。

 操は目を伏せ、少し考えると幼馴染を見た。

「……うん。行く。みんな、悪いけど」

「うちらも行くに決まっとるやろ!」

 美玖の言葉に続き、未緒と姫が頷く。私は当然一緒に行くつもりだったが、三人に合わせて頷いた。


  * * *

 

「操、もしかしてお前の両親、そんな仲良くなかったのか?」

 墓が別…という事実から、多いとは言えない私の人間知識の中から導き出された結論を口に出す。

「いいえ、仲良しでしたよ…すごく。お墓が別なのは…」

 操が少し言い淀んで、口を開いた。

「お父さんとお母さんは、ほぼ駆け落ちみたいなものだったんです。お母さんはおじいちゃんや禊守会の人達の反対を押し切ってお父さんと結婚したから…」

 祖父が反対…?あのいつも優しい感じからは全然想像出来ない。

「…お前の祖父なら喜んで祝福しそうだけどな」

「石上神宮の跡継ぎはお母さんしかいなかったので、その子供…私には当然神力が求められました。祓い師は祓い師同士で結婚し、神力を持つ子供を産む。常に人手不足の祓い師達の中では暗黙の了解で、お母さんにはより強くそれが求められてたんです。でもお父さんは神力を持たないただの人間だったから、おじいちゃんや…みたま様も反対されたと聞きました」

 みたまも…

「それに、反対されたのはお父さんが神力を持たないからだけじゃなくて――」

「なぁ!操ちんはどう思う!?」

 すると、後ろから美玖が操の肩を叩いた。

「美玖…!二人話してるやろ…大事そうな話…」

「あ…!ごめん、うちの悪い癖や…」

「大丈夫よ。何の話?」

 美玖が申し訳なさそうな顔をすると、操が微笑んだ。

「今姫ちゃんのあだ名考えてたんや。うちはお姫がええんちゃう?って言ったんやけど」

「まぁ…好きに呼び」

「あ!照れとる照れとる!」

 美玖達の笑い声が遠くから響く。

 …神力を持たないからだけじゃない?

 私はその続きが気になったが、操がすっかり美玖達と話し込んでいたため、操の幼馴染に聞くことにした。

「…なぁ」

「は…!?昨日入れてくれるって言ったじゃんコイツ…!飛ぶとかマジありえねぇ…」

 幼馴染はスマホの画面を見て怒りに震えながら爪を噛み、小声でボソボソと呟いていた。

「…」

 私は目を瞑ってゆっくりと息を吸う。

 ああ…こいつの真っ黒い感情はこれか…と私は理解した。そして、コイツを信用している操のため私は目を逸らし、全てを見なかったことにする。私もこれくらいの気は遣えるようになったのだ。

 弱味を握ってて悪いこともないしな!


  

 そして私達が操の父の墓につくと、幼馴染は用があると言って帰って行った。おそらく怒りの矛先にいる奴の元へ行ったのだろう。 

「お父さん…三年間ずっとお墓参りできなくてごめんね…」

 操がそう言って父親の墓の前で目を瞑って手を合わせる。美玖と未緒、姫も同じように黙祷を捧げていた。

 これが日本の神道か…この墓に眠っているのはただの死体で、父親の魂がある訳でもないのに…

 私は三人が線香をあげ、墓を掃除し、丁寧に花を飾るその行動が理解できなかった。

「…神楽様、馬鹿らしいって思ってるでしょう?」

 突如、私の心を読んだかのように背後から操がそう言った。私が驚いた顔をすると、操は目を細めた。

「いいんです。宗教は人の心を救うためのものですから。嘘だと分かっていても、人間はそれに縋り付きたくなるんですよ…」

 嘘にすがる…か。

「やっぱ人間は一生理解出来る気がしないな…」

 私がそう言うと、操が少し寂しそうに笑った。

 

「――ねぇ、そういえば時間大丈夫なん?」

 操父の墓の前で談笑していると、不意に姫がそう言い放った。その言葉を聞いて青ざめた未緒が、慌てて時間を確認する。

「ああ!!集合時間過ぎとる!」

「え!嘘!」

「急いで!」

 ホテルに戻ると、待ち構えていた教師陣が鬼の形相で私達を睨んだ。担任は毎度の事ながらもう嫌だと嘆き、泣いている。

 しかし怒られる寸前で姫が、「ごめんなさい…私が途中で体調が悪くなって…みんなが介抱してくれたんです…」と涙ながらにそう言うと、教師陣営は混乱しながらも、「真中が言うなら、そうなんだろうな…」と言って説教を免れた。人望だけが無駄に厚い奴と思っていたが、無駄ではなかった。


  * * *

 

「畳やー!!布団やー!!」

 風呂から上がり部屋に戻ると、真っ先に美玖が布団に飛び込んだ。

「神楽様、髪よく絞ってください。今乾かすので」

「んー」

 私は目を瞑り、リラックスしながら操に髪を乾かしてもらう。その様子を見ていた美玖が不思議そうな顔をして私達をガン見した。 

「……なぁ、むっちゃ今更やけど、二人ってどういう関係?何で操ちんは神楽っちに敬語なの?」

 鋭い質問を投げかけられた。

「あ、それ私も気になっとった」

「あと妖怪って何やねん」

 未緒と姫も美玖に便乗する。美玖は「妖怪?」と目を点にしていた。


「伝令、伝令。妖怪出現」


 嫌な声が耳に入った。空耳かと思い声の方向を見るが、いつもの白いヤツがいた。 

「おい…旅行に来てまで仕事かよ…」

「仕方ないですよ、祓い師ですから」

 操が薙刀を背負い、私が渋々立ち上がると、美玖達がキョトンとした顔で私達を見た。

「何?急にどしたん?」

「えっと、帰ったら話すから」  

 そう言って操が二階の窓から飛び降り、私もそれに続く。

「ちょっ!え!?ええー!!」

 美玖の叫び声を最後に聞き、私達は走って現場に向かった。

 

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