第二十話:修学旅行【操の幼馴染】
「とーきょー、来たでえええ!!」
美玖が両手を天に掲げ、テンション高々にそう叫んだ。そう、今日から一泊二日の修学旅行なのだ。
「ビル高…!人多い…」
未緒は、はしゃいで走り回っている親友とは対照的に、建物を見上げて口を大きく開いている。
「つーか…」
「「暑っつ!!」」
私と美玖の声が重なった。
「ヒートアイランド舐めてたわ…東京暑っ!」
「まぁでも、室内は冷房効いてるやろから…」
「それより…」
私が黒いフリルの日傘を差して手持ち扇風機の風を浴びている、ショートヘアのクラスメイトを睨みつける。
「なんでお前がうちの班におるんや!!」
美玖達の関西弁が移ってつい完璧な方言が出てしまった。ただし反応は無い。
「はぁ…ただでさえ暑いのに大声ださんでくれる?クラスで班わけ決めたやろ?」
『五人班って、うちらのグループ六人やから、一人余ってまうやん』
『しかもだれかが天宮さん達と同じ班にならなあかんなんて…!』
『う、うちは嫌やで!』
『私も嫌や!』
そんな中――
『なら私が向こうの班入るよ』
姫が立ち上がった――
『え!?姫が!?』
『うん、うち天宮と仲ええし』
『さすが姫やな…』
『じゃあ、ごめんけど姫、うちらと別の班でよろしくな』
『うん♪』
姫は嬉々として班を移動した──
「だから!何でお前なんだよ!!」
「あーうるさい。蝉が何や喋っとるわー」
そう言って姫が冷感スプレーを己の制服に吹きかける。
「誰がセミじゃ!!」
「あはは!真中さんおもろいなぁ!教室での感じと全然ちゃうやん!」
「うん、自然体な方が私達も話しやすいな」
美玖と未緒に笑顔を向けられた姫は慌てて後ろを向き、耳を赤くした。
「お?何だお前、照れてんの?照れてんの?あだっ」
私が煽ると、姫が懐に隠していた扇子で私の額を突いた。相変わらず天邪鬼な上、日傘に小型扇風機、冷感スプレーと扇子って…どんだけ暑がりなんだよこいつ。
私が馬鹿にしていたのがバレたのか、姫が私の顔めがけてスプレーを噴射した。
「は!?お前何す――」
すると火照っていた顔がひんやりとした為、思わずおぉ…と呟く。
「肌に直接使えるタイプ。すぐ熱くなるアンタにちぴったりなんとちゃう?」
「アアン?何やとこの猫かぶり姫」
私達がいつものように睨み合っていると、美玖が私と姫の肩に勢いよく腕を回した。
「せっかくやしみんなで写真撮ろーや!」
しかし操一人だけ反応が無く、まさに心ここに在らずの状態だった。
「…操?」
私が操に近いて下から顔を覗き込むと、肩をぴくりとさせて私に気づいた。
「お、戻ってきた。どうせ堕ち神のことでも考えてたんだろ?」
「神楽様…」
私は思い切り操の腕を引っ張る。
「行こう!みたまが大丈夫だって言ってんだ、今は観光楽しむぞ!」
そう言うと、操の表情が和らいだ。
「はい…!」
* * *
「そういえば操ちゃんの前の家、東京やったよね?この近くやったりするん?」
未緒がスマホの地図を見ながら操に聞いた。
「あ…うん、家はもう取り壊されちゃったけど、私の父方の家系が管理してたお社ならまだあるはず…」
「操の父親も神社の家系だったのか?」
「いえ、お社と言っても大層なものじゃないですよ。形だけで神様も祀られてなかったですし…」
「じゃあスカイツリーの前にそこ寄っていかへん?」
未緒がそう提案すると、操以外は皆賛同した。
「ほんとに何も無いよ…?観光名所でもないし…」
「…でも、思い出の場所なんやろ」
姫の実直な言葉を聞き、珍しくオドオドしていた操がコクリと頷いた。
「――え、じゃあお前祓い師歴たった三年?」
「いえ、東京に住んでた時は日枝神社で修行をしていて…」
操と世間話をしながら、東京にしては田舎臭い道を歩いていた直後、右半身が通行人とぶつかり、体のバランスが崩れた。操の表情を観察しながら歩いていたため注意散漫になっていたようだ。
やばっ…倒れる…
そう思って目を瞑り受け身の姿勢に転じたが、数秒経っても体への衝撃は感じなかった。それどころか、背中を誰かに支えられている。
操か…
「悪い、前見てなかった…」
そう言いながらゆっくりと瞼を上げると、知らない男と目が合った。思わずうわっ、と声が出る。
「大丈夫ですか?」
男の感情はその優しげな笑顔とは裏腹に、腹黒いという言葉がピッタリ合うほど真っ暗だった。あまりの負の感情のぐるぐる巻きにドン引く。
何を思ってるかまでは分からんが、こいつ、姫の百倍裏表激しいぞ…
「…」
私は眉をひそめ、その男の手を払った。
「失礼、貴女が転びそうなものでしたから」
心做しか男の背後にキラキラとした後光が見えた。
「神楽様、大丈夫ですか?」
操の声を聞いた男の目が大きく見開き、感情が高ぶるのを感じる。
「……みーちゃん?」
男が呟くと、操がそれに反応して目を丸くした。
「ようちゃん!?」
操のその明るい声と同時に、男の腹に渦巻いていた黒い感情が綺麗にパンパンポンッ♪と弾け飛び、喜びと高揚の感情でいっぱいになった。
は…
私はそんな男を見て瞼をピクピク痙攣させる。
「何や何や、操ちん、このイケメンさんと知り合いなん!?」
美玖が鼻息を荒くして食いついた。
「知り合いというか…」
「わー久しぶりぃ!!」
男が思い切り抱きつこうとするが、操が片手で男の顔を潰し、それを止める。
「……幼馴染です」




