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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
第一章 人間初心者
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第二話:運命を変える者



 宮殿の広い丸テーブルに、私、カロン、ヌースの三柱が向かい合う。

 ただし六つある椅子のうち、半分は空席だ。 

「ティモスが悲哀を感じない。このことは皆承知の事実よね」

 カロンが前に垂れてきた金の長髪を、邪魔だと言わんばかりの勢いで後ろに戻した。

「ああ、ティモスが生まれて早五百年。悲しんでるところも泣いているところも見たことがない。その上叱れば逆ギレするし…」

 

 三人で私の行動・言動を振り返る。

「…ティモスが悲しみを知らないのは五百年前生まれてからずっとよ?それは創造神様もご存知のはず…なのに何で今更破壊だなんて」

 カロンの言う通りだ。ほんとに何で今更…

 私は顔を顰めながら額を両手で覆った。

「とにかく、一年以内にティモスは悲しみを知らなければならないわ。占導の神!」

 カロンが重い空気を斬り裂くように手を叩くと、水晶に乗る幼女の姿をした神が現れた。

「はいデス!お呼びでしょうか!」

「ティモスが悲しみを知る方法を占ってくれる?」

「承知デス!」 


 ――そこからは、流れるように事が進んだ。

「ふむふむ…ティモス様は下界にいるデス…」

「下界に!?」

「はい…下界で人間と関わる必要があるようデス」

 占導の神が目を瞑り、眉間に皺を寄せながら呟く。

 占導の神などと聞こえの良い名前をしているが、結局は占い。胡散臭い事に変わりは無い。 

「確かに…天界にいた所で意味は無いわね…」

「それなら話は早い。ティモス、下界に降りろ」

 ヌースが真剣な顔で私にそう言い放った。

「は!?」

 あまりの唐突な発言に声が裏返る。

 私が助けを乞うようにカロンを見ると、彼女は顎に手を当てて私を凝視していた。嫌な予感が全身を駆け巡る。 

「……そうね。それじゃあどの国にするか決めましょう、また占ってくれる?」

 案の定、カロンもヌースの意見に賛成した。

「カロンまで…!嫌だよ下界なんて!私をドブに捨てる気か!?」

 私は下界に降りた経験は無いが、天界の神々の噂話から良いイメージが無い。何より面倒臭い。

「あなたね、自分の命がかかってるのよ?このまま何も抵抗せず破壊されたいの?」

 カロンから諭すようにお叱りを受け、私は黙った。

「じゃあ占導の神、続けて」

「了解デス!えっと…海に囲まれていますね…この形は…」

 占導の神が眉をひそめて集中する。身の丈に合わないブカブカの衣を身にまとっている為その手元は(そで)に隠れているが、上下に揺れる袖口からこめかみに指を当ててぐるぐる回していることが分かった。

「日本デスね!」

 

 その後、私が所々にブーイングを入れながらも話し合いは進んでいった。

 途中から二柱(ふたり)が本気で私の未来を案じてくれている事が分かったので、文句を言う回数を減らした。

「ああそれと…神の姿は普通の人間には見えないから、人の姿になる必要があるな…」

「なら私がティモスの器を人間の身体に変えるわ。元の姿に戻りたい時は私に言ってちょうだいね」

 上機嫌のカロンが右腕を振りかざすと、前に見た映画の魔法少女みたいに全身が光り輝き、主に身体の内部が人間を模したものへと変化した。 

 ふむ…神の身体とあんまり変わらな――

 そう思った瞬間、左胸あたりの鼓動の不安定さに気づいた。

 ドク、ドキドキ、ドックン、バクバク、ドドド…

 何と表現したらいいのか分からないが、どうやらこの胸で動いているのが心臓らしい。神の身体にも心臓に似た心核はあるが、こんな風に振動しない。いつ止まるやも分からぬ恐怖…人間はよくこんな身体で生きていけるな…と思わず身震いする。


 そして次に、カロンが私の長い髪やら光沢のある聖なる衣を、人間らしいものへと変えてくれた。

「いいじゃない!どこからどう見ても女子高生だわ!」

 声高々で息が荒い、興奮気味のカロン。そして私を頭のてっぺんからつま先まで食い入るように見て、下品な笑い声を上げ満足そうに親指を立てるヌース。

 私はそんな六大神の二柱の頭をベシッと叩く。

 呆れてため息をつきながら改めて自分の姿を鏡で見ると、腰まであったウェーブがかかった純白の髪が、肩までのボブヘアに変わっていることに気づいた。

 それに装いも日本の学生服へと変わっている。呆れて出た溜息が感嘆の溜息へと変わった。

 ヌースによると、この装いはセーラー服と言うらしい。ゴワゴワしていて動きずらいが、この独特な大きな襟と白いスカーフ、濃紺色の生地が斬新で気に入った。

 

 私が右足を軸に一回転し、スカートをフワッと広げて遊んでいると、知とヌースとカロンがまた別の話題を引っ張り出してきた。

「そう言えば〝ティモス〟じゃ日本人っぽくないから、下界用の名前も考えないとな」

 そう言って二名が名付けで盛り上がる。

 私は大きくため息をつき、困り顔でソワソワしている占導の神と顔を合わせ、帰っていいぞと苦笑した。


  * * *


「行ってらっしゃいティモス。他の六大神には、私達から伝えておくから」

「できるだけ多くの人間と関わるんだぞ。人間の身体は脆いから怪我に気をつけろ」

 下界へと繋がる扉の前で、カロンとヌースが驚異のシンクロ率で私に手を振った。そしてお前らは親かと突っ込みたくなる程に憂いた瞳で私を見つめている。

「行ってくる」 

 私は不安と面倒臭さを感じながらも知と美に心の中で感謝し、その扉の中へ身を投げた。


 

 …ん?


「ふー、ふー…」

 生暖かい鼻息が私の顔にかかる。

「うわっ!」

 気がつくと、目の前に鹿の顔があった。

「何だ鹿か…」

 私は小さくため息をつく。

「どこだ…?ここ…」

 どうやら私は初めての転移で気絶していたらしく、立ち上がってスカートに付いた芝生を払った。そして鹿にせんべいをあげる人間達を横目に、背筋をぐっと伸ばす。

『ティモス、無事着いたかしら?』

 すると、六大神間の連絡や会話用に皆で取り揃えている通信用ピアスからカロンの声が聞こえ、ほんの少し安堵した。

「ああ、着いた。ここどこだ?」

『奈良公園だ。鹿がいるだろ?』

 鹿と目を合わせると頭を押しつけられた。そして周りにいる角ありから子鹿まで寄ってきて私は埋もれる。

「………めっちゃいる」

『占導の神によると、芝浜高校という場所に運命を変えるモノがあるそうだ。取り敢えずそこに向かうといい』


 運命を変えるもの…?

 

 私はその言葉で自分がセーラー服姿である理由が分かり、ほんの少しの期待を抱きながらその高校へ向かった。

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