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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
第三章 救済、そして深まる絆
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第十九話:禊守定例会議



 私と操は今、伊勢神宮の御殿入口にいる。

「だーかーらー!」

 そして、警備の奴に入場を止められている。

「私達が奈良代表だっつってんだろ!」

「奈良代表の方は年配の男性と聞いております」

「こいつ!こいつがその年配の男性の孫!」

 私が手をキラキラさせて操を立てるが、警備員は頑なに通さない。

「ですから会員証が無いとですね…」

 私達は二人して禊守会の会員証を忘れたため、身分証明が出来ないでいたのだ。

「…何でこの日に限って会員証忘れてんだよ」

「神楽様だって、先月は毎日の様に他人に見せびらかしてたくせに、何で持ってないんですか…」


  * * *

 

 ――時は遡り、数時間前――

 

「おじいちゃん、大丈夫…?」

「大丈夫…やないな…」

 操の祖父が倒れた。この極暑の中外にいた為、熱中症になったのだ。

「今日の定例会出れそう?」

 定例会とは、年に四回、禊守会の各都道府県代表の祓い師が集まり情報交換を行う集会らしい。奈良代表が祖父であるため、操が困り果てていた。

「…操…代わりを頼めるか?」

 その言葉を聞いた操の心拍が上がる。

「え…でも私…まだ神職でもないし、石上神宮の禰宜さんとかに頼んだ方が…」

「何、禊守会において神主の階級は関係あらへん。操は祓い師としては立派や。それにわしとていつまでも現役というわけやない。いつかは操が跡を継ぐさかい…不安なら神楽様と一緒に…ゴホッゴホッ…」 

「…」

 不安そうな顔の操を見て、私は言った。

「操、行くぞ」

 ――と。


  * * *

 

 そして現在に至る。

「ちなみに私は神だ」

「は…?」

 

「どうかしましたか?」


 まるで静かな水面に一滴の雫を落としたような、どこか聞き覚えのある澄んだ声が耳に入った。

「あ…如月(きさらぎ)さん…!」

 その女性は伊勢神宮の朱里と同じくらいの年格好で右目に涙ボクロがあり、目尻が垂れている美女だった。会うのは初めてなのに、どうにも毎日聞いているような声をしている。

「えっと…神様が何故こちらに?」

 私を見て不思議そうに首を傾げる。そのか弱そうな瞳とは裏腹に、私の正体に一瞬で気づいた。その上今まで出会った人間の中で一番神力が高い。それこそ下位の神に匹敵するほどだ…

「……操、誰?」

「申し遅れました神様。私は島根の出雲大社代表、如月伊織(きさらぎいおり)です」

 そう言って女が柔らかく微笑む。

 出雲大社…確か式神の…

 

「ああ!式神の声!」

 

 思い出してやっと胸がスッキリする。そういえば全国にあの高性能の式神を何千とバラまいてるんだった…化け物と言っても神でさえ納得するだろう。

「あら、気づかれちゃいましたか。ふふ、式神達の声と私の声、同じでしょう?」

 如月伊織が自分の唇に人差し指を当て、片目を閉じた。どこか色気を感じる人間だ。

「警備さんも暑い中お疲れ様です」

 そう言って如月が会員証を見せた。

「いえ、仕事ですから」

 警備員がデレているのに気づいたので私が睨みつけると、その顔がキリリとしたものに戻った。

「この子達は奈良代表で間違いないですよ。入れてあげてくださいな」

「は…!」 

 如月のおかげで御殿に入ることが出来た。 

 

 用意された座布団に座り一息つこうとしたが、祓い師達の視線が全身に刺さって痛かったため、操の膝の上で猫のように丸まった。

 操もどうやら緊張しているようで、無意識に私の服の裾を強く掴んでいた。

 前に会った伊勢神宮の宮司達は、主催者として前に座り、会場の様子を見ている。朱里が操に気づくと笑顔で手を振り、私には丁寧にお辞儀をした。

 

 全員が集まったのを確認すると、宮司が立ち上がる。

「さて…今月の禊守定例会を始めましょうか。今月もいつものように各県の瘴気と妖怪の出現情報を…」

 すると、如月が朱里の元へ行き、何かを耳打ちすると、朱里が急いで宮司へと情報を伝えた。宮司の表情はアマテラスにあしらわれた時よりも遥かに動揺している。

「と…いつもなら互いに交流して頂くのですが…島根代表の如月さんから話が…あります…」

 真っ青な顔でそう言い切ると、宮司が額に手を当ててため息をついた。

 その宮司を横目で見て憂いながら、如月が祓い師達に強い眼差しを向け、前に立つ。

「出雲大社の権宮司、如月伊織です。まずは皆様がご健勝であること、大変嬉しく思います。今回は式神が重大な情報を感知しましたので、それを皆様にお伝え致します」

 如月が大きく息を吸う。その声は言葉の抑揚が拙い式神が進化したようなモノだった。

 

「堕ち神が二体、下界に…それも日本に降りてきたようです」

 

 その瞬間、今まで不規則に聞こえていた祓い師達の呼吸音が消え、広間が静まり返った。そして各都道府県の代表達の感情が不安と恐怖、混乱へと変わる。

「堕ち神…!?」

「まさか…あれは伝説では…!?」

 堕ち神?何だそれ。

 私が首を傾げて不思議がっていると、ピアスからカロン達の声が聞こえた。

『堕ち神…五百年前を思い出すわね…』

『ああ…あの惨い事件を彷彿とさせる…』

 カロンとヌースの声は低い。

 五百年前…私が生まれる前の話か…?

 私は如月の話に耳を傾けた。

「祓い師の家系ならば必ず語り継がれている話がありますよね。五百年前…堕ち神は神力を奪う為、多くの祓い師や神様を殺害しました。二度とあのような悲劇を繰り返してはなりません。ですからより一層用心し、なるべく複数人で行動するようにしてください。祓い師達には式神を通して最新情報をお伝えます。そして、各々の神社の神様を――」

 如月の表情が変わる。

 

「死守してください」

 

 その言葉で、祓い師達の空気が一瞬にして張り詰めたものへと変わった。

 

  * * *


「みたま様!!」

 帰宅早々、操は神宮の本殿にいるみたまの元へ向かった。

「操?どうしたんやそんな慌てて…」

 操が珍しく息を切らし、みたまの目の前でへたりこむ。みたまはその様子を見て心配そうに操の背中をさすった。

「堕ち神が…現れたそうです…」

 その言葉を聞くと、みたまが目を見開いた。

「…ほんまか?」

「はい…出雲大社の如月さんからの情報です」

 みたまが溜息をつき、髪をかきあげる。

「…堕ち神て…嫌なこと思い出させるやんか…」

 天井を見上げたみたまは、「もう見たないて…あんな地獄絵図…」と掠れる声で呟いた。その表情は今までに無く苦しそうに見える。一方、私は未だにその脅威にピンとこないでいた。

「でもさ、堕ち神が現れたって言うけどまだ被害はないんだろ?」

「せや、〝まだ〟な。堕ち神は規律を破った神に、因果律が押す烙印…二度と天界へは戻れない上、自らの体で神力が作れなくなるさかい、わてらの神力を奪いに来よる。動きが無いのは多分、まだ体の中に神力が残ってるからやと思うで」

 因果律…?初めて聞く言葉だ。

「因果律って何だ?」

 私が問うと、みたまが少し考えるように目線を斜め上に向けた。

「せやな…まず世界の規律は神なら分かるやろ?」

「ああ、優勝劣敗、適者生存…弱肉強食とかそういうやつ」

「その通り。因果律はその規律を守る存在。簡単に言えば理性の塊や。因果律が規律を縛って、規律が因果律を縛っとる。因果律は規律を破った者には罰を与えるんや。因果応報、自業自得…これら全てに因果律が関与しとる」

 それって実質世界を手中に収めてるってことだよな…

「ほんで?禊守会はどう対処するって?」

 みたまは私が理解したことを感じ取ると、直ぐに堕ち神の件の続きを操に問うた。

「…それが…何せ五百年振りの出来事で、私はみたま様から話を聞いたことがあったので知っていましたが、年配の祓い師でさえ堕ち神の存在は伝説だと思っていたそうです…なのでまだ何も…取り敢えず私達はみたま様の警護をします」

「警護なんて、そんなんせんでええよ」

「ですが…もしみたま様に何かあれば…」

「大丈夫や、わては五百年前のあの堕ち神騒動から生き延びたんやで?こう見えて戦えるさかい、心配せんで。それに今度修学旅行あるんやろ?たまには高校生らしく遊んでき」

 みたまが片目を閉じて笑みを浮かべた。


 …修学旅行。


「そうだ!修学旅行!!修学旅行!!」

 私は堕ち神のことなど一瞬にして忘れ、大興奮して叫ぶ。

「神楽様…今更ですけど何でそんなに楽しみなんですか?」

「わ…笑うなよ?」

 私はグネグネと身体をうねらせながら操を一瞥した。

「え?はい」

「………東京ディ○ニーランドに行きたくて…」

「それ千葉です」

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