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感情の神ティモスは悲しみを知らない  作者: 暁 有沙陽
第三章 救済、そして深まる絆
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第十七話:警察と祓い師


 

 私が下界へ降りてから、二ヶ月が過ぎた。

 いつものように自転車のペグの上に立ち、操の肩に掴まって登校する。少し湿気を含んだ風が全身に当たり、心地いい。

「神楽様、いい加減自分の自転車に乗ってくださいよ。補助輪付けたでしょう?」

 風で声がかき消されるため、操が普段より声を張って私に文句を垂れる。

「だってこないだ補助輪付きのチャリに乗ってたら近所のガキ共に笑われたんだぞ!?」

「だからって…道路交通法違反なので警察に見つかったら罰金ですよ?」

「見つかんなきゃいいんだろ!見つかんなきゃ!」

 ――曲がり角を曲がった直後、パトカーの警察官とバッチリ目が合った。


「まったく…あんな堂々と二人乗りしよる奴ら、初めて見たで」

 警官の男二人組が、呆れた顔で私と操を叱りつける。

「危険やから以後絶対せんように。分かった?」

「はい…すみません…」

 操が恥ずかしそうに深く頭を下げた。それを見て何故か男共に腹が立つ。

「あーあ、税金ドロボーが何やほざいとるわー」

 最近覚えた関西弁と最近覚えた単語で警官達を挑発した。ついでに変顔をして馬鹿にしてみる。

「何やて?」

 警官から微かな苛立ちを感じた。

「別にー?人の不幸で食べる飯はさぞ美味かろうなー」

「ほぉ…?何やお前、喧嘩売っとんのか?」

「……だったら?」

 警官野郎と私が睨み合う。

「ちょ、先輩…!」

「神楽様…!」

 先輩と呼ばれた男は部下に、私は操になだめられ、平常心を取り戻した。

「はぁ…お前ら学校やろ?遅刻すんで、はよ行き」

「え…でも罰金…」

「黒髪の嬢ちゃんに免じて今回は勘弁したる」

「はっ、チキったな」

「言っとけクソガキ」

 警官は私達にはよ行けと手を振ると、パトカーに乗って颯爽と消え去った。

「…今日は歩いていきましょうか」

「遅刻確定だな」

 

  * * *


 学校に着いたが、教室には誰も居なかった。

「あ、神楽様、私の机に紙が…」

『操ちゃんと神楽ちゃんへ。体育館で警察の人が交通安全指導やってるよ。早くおいで』

 未緒がメモを残してくれている。操は感動した様子でスマホを取り出し、それを写真に収めた。

「警察…」

「交通安全指導…」

 しかし、悪い予感が私と操の頭をよぎる。


「よぉ、今朝ぶりやな。重役出勤お疲れぃー」

 予想通り、今朝の警察官二人組がマイクを持ち、生徒達に交通安全指導をしていた。バレないように静かに入ってきたのに、その一言で全校生徒の視線を浴びる。

「うちの生徒とお知り合いで?」

 司会の教頭が二人に問う。

「ええ、今朝少し注意をしたら、白髪の方に黙れ税金泥棒!って言われちゃいましてね…」

 先輩野郎が悲しげに目を伏せた。

「はっ…!?うちの生徒が!?」 

 その場にいた教師生徒全員が私を見てざわめく。担任は顔を手で覆って天を仰ぎ、美玖と未緒は笑いを堪え、姫は私を一瞥して鼻で笑った。

「まぁ冗談はこの辺で、続きを説明しますねー」

 そう言って先輩が指導に戻る。

「あんの野郎…」

「神楽様、抑えてください」

 私は操に引きずられ、視線を浴びながら未緒と美玖の隣に座った。

「どんまいやで二人とも…!」

「っくく…!税金泥棒って…!!」

 未緒に励まされ、美玖に大笑いされていると、警官達の胸元からくぐもった声が聞こえた。

「警察無線ですね…」

 私が不思議がっているのを見て、操が小声で教えてくれる。

「こちら芝浜高校、どうぞ」

 先輩が説明を部下にバトンタッチし外に出た瞬間、生徒達から興奮と高揚の感情が伝わってきた。

 ……何がそんなにワクワクするんだか。

 すると先輩が教頭に何かを伝え、小走りで部下の元へ行き、「すみません、後は教頭先生から話を聞いてください」と言うと、急いで体育館を出て行った。その直後、何台かのパトカーのサイレンが高校を通り過ぎる。

「え?なになに?事件!?」

「かっけぇ…」

 生徒達はザワザワを通り越して大騒ぎしている。

 

「伝令、伝令」


 すると、いつもの澄んだ声が聞こえた。

「和楽橋ニ妖怪出現。人的被害アリ。直チニ祓イナサイ」

 私と操とは目を合わせ、立ち上がる。が、警官のせいで私の注目度が上がり、生徒達の視線を一身に受けた。

 まぁ、操を変な目で見られるよりはいいか。

「先生、少々お手洗いに行ってきます」

 担任の泣き声を最後に聞いて、私達は外に出る。

「神楽様、今回ばかりは仕方ないです。後ろ乗ってください」

 そして風を切る速さで現場へ向かった。 


  * * * 

 

 和楽橋に着くと、パトカーが三台停まっていて、警察官数名が魂を喰われた人間の心肺蘇生を行っていた。先輩警官もその内の一人で、心臓マッサージをしながらも私達に気づくと鬼の形相をする。

「お前ら何でおるんや!学校は!?」

 その言葉を無視して操と共にキープアウトテープをまたぐ。

「何勝手に入ってきとるんや!早く出ていきなさい!!」

 この中で最年長と思われる中年男性に怒鳴りつけられたが、操は毅然としていた。

「…これを」

 操が禊守会(みそぎもりかい)の会員証を見せる。その瞬間、男の目の色が変わった。

「警部、私が対応します」

「いや、待て」

 警部と呼ばれた男が部下を遠ざけ、複雑そうな顔でため息をつく。

「上から聞いていたが…こんな子供が…いや、失礼。こちらへどうぞ」

 態度が百八十度変わったのを見て、私もこの間発行された自分の会員証をヒラヒラと見せつけながら中に入る。

 

「心肺蘇生、止めてください」

「は?」

 AEDを準備し出した警官を見た操が静かにそう言った。

「……もう手遅れです」 

「そんなの分からへんやろ。そもそもお前ら何なんや。救急車が来るまで俺は止めねぇで」

「先輩…僕も手伝います…!」

 先輩警官と後輩警官が代わる代わる心臓マッサージを行う。

「操、魂を喰われたならその妖怪の胃をカッ捌けば出てくるんじゃないのか?」

「いえ…喰われた時点でその血肉に吸収されるので、もう…」 

「…ママとパパは…?」 

 すると、他の警官と話をしていた小さな子供が不安げな顔で操の近くへやって来た。どうやら倒れている二人の男女はこの幼女の両親のようだ。

 子供を見た操が珍しく動揺し、取り乱す。

「…どうした?知り合いか?」

「いえ…まったく知らない子です…」

 知らない子にしては動揺しすぎだろ…

「とりあえず、こいつらの魂喰った妖怪祓うぞ。場所把握してるか?」

「……はい。アレですね」

 操は低い声でそう呟くと、橋から勢いよく飛び降りた。

「は!?」

「飛び降り!?」

 警官達がこぞって橋の下を除く。

 まぁ操も気が立ってるようだし、任せるか。


『お困りですかぁ?ティモス〜』



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