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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

矛盾

作者: つきみ
掲載日:2024/12/07

「……そうですね。

これから話す事に、絶対に同情も否定もしないと、約束してくれますか?」

目の前の女性が少し困りながらも、笑みを浮かべて言った。

あれ、僕はここで何をしていたんだったっけ。

何度か来た事のあるカフェなのに、先程まで微睡んでいた様に、今この瞬間までの記憶が無く、この女性の事も知らない。

しかし僕はさっきまで確実に微睡んでなどいない。

本来ならばかなり不思議な筈だが、そんな事よりも、目の前のこの人の問いに答えなければ。

その気持ちが勝ったのもかなり不思議だが、もう僕の意思の届く範囲ではないと分かってしまっているので全部を一旦見送った。

「約束します。必ず」

「必ず。お願いしますね」


 親にちゃんと愛された人間には絶対に分からない苦しみ……まあそういうよくある前置きです。

勉強は出来ても部屋の片付けは出来なかったり、家事が出来なかったり、弟に優しくできなかったり。

父親はそれに怒りました。

罵詈雑言を浴びせ怒鳴る、殴る、蹴る、一定の時間立たせ笑いながら動画を撮る。

ああ、虐待ですね。

そう分類してくれる方もいらっしゃるとは思いますが、でも自分ではグレーゾーンのような気がしています。

虐待ってしつけと称して、親が悪い事をしていない子の生命や心を侵害する行為でしょう。

私の場合一応、悪い事をした時だけだったので。

まあそれが、子供なら仕方ないと許容されるような些細な事だったかもしれませんが、どうしても虐待としてしまうには少し抵抗があります。

虐待と言うには軽い……しかししつけにしては何というのでしょう、過度だと、そう思う位は許してほしいのですが……。

すみません、遠回りをしました。

それは実家にいる間はずっと続きました。大学生になってもです。

定期的に父親に人格を否定され、泣きながら、どん底の気持ちで寝る。

そしてその日の夜か翌朝には謝られ、お前の為だって言われるんですよ、ええ、そうです。

デートDVと全く同じですよね。

DVの話を聞いた時には全く同じだと笑ってしまいました。

繰り返しになりますが、それが定期的に続いたんですね。

どこかで心を壊していても良かったんでしょうけど、ちゃんとは壊れてはくれませんでした。

確かにもう直せないところまで壊れることは、気の遠くなるくらいの回数繰り返したんですが、ちゃんと壊れてはくれなかった。

普通の人と足並みを揃えられるくらいには自分でばらばらになった心を修復できてしまったんですよ、多分ね。

私が思うには、ですけどね。

そういうわけで、私は碌な人間でないと自分で思いますし実際そうだと思います、他の人を見ていると。

ああ今、父親のせいにしたって思いませんでしたね、あなた。

ありがとうございます。

いるんですよ、ここで親のせいにして、だとか、生まれつき欠損しているんだろう、だとか言う方が……。

羨ましい限りです、そう言える人は幸せですよ……。

私の人格が欠損しているのは父親のせいだと私は信じて疑いませんし、それを否定する権利はこの世の誰にもないと私は思います、傲慢ですが。

父親が私の心を壊したことと、私の人格が欠損している事が相関していないだなんて、有り得ないと思わせてくださいな。

そもそも、親のせいにするくらい追い詰められたのだと、そういう解釈もしています。

父親のせいにすることで、心を守っていたとも。

ひどく矛盾していますが、苦しむことに依存してしまうんです、子供のころから苦しむことを繰り返していると。

むしろ就職してようやく一人暮らしを始められた時、苦しいことがないことに逆に苦しんだんですよ。

滑稽ですよね。

苦しいことが却って精神安定剤だなんて。

でも父親に苦しめられることだけはもう嫌ですよ。

他の苦しみでなんとか立っていました……。


話を戻しますが、それで父親とは良好な関係を築けなかった。

それを父親はもちろん、母親と弟にもよく責められました。

あちらには、家族だからという大義名分があり、絶対的に父親とは良好な関係を築く方が正しいという圧倒的な後ろ盾がありましたから、きっと私を責めるのが正しいんでしょうね。

私もこちら側の地獄を知らなかったら、そうしていたでしょうし。

でも私には無理でした。

父親とこんな関係のままでは、父が死んでから後悔するかも。

そんなのは散々聞いてましたよ。

でも無理なんですよ。

どうしても。

嫌いだから。

あんなに人格を否定しておいて。

というか、大学生になってからも続けておいて。

何が仲良くしろだ。

教師がいじめられていた子に、いじめっ子と仲良くしろと言うと糾弾されるのに、親という生まれた時から絶対的に信頼している人間に心を壊されておいてなお、優しくできない私が間違っているのかと……。

自分でもこちらが悪い気がして何度も苦しみましたが、もうその時期は終わりました。

もう諦めてくれと思います。

無理なので。

消せないので。

これまで何度も壊された事実は。

私なんかよりも辛い思いをした方なんて数多いますから、と責める方もいますがあなたは違ってよかったです。


ああ、心療内科か精神科で病名を診断してもらえ……。

それが正しいんでしょうけど、普通を偽れている今、残念ですが私には不要です。

今後もし他の理由でも苦しめられてなら、他の方よりは可能性はあるなとは思いますがまだその程度です。

だから今こうしてお話しているんですよ。

否定も同情も求めないくせにお話しているのは、人に聞いてもらってぎりぎり乗り切れることなので、なんです。

ああ、そんなに頷いていただいて、ありがとうございます。

すみませんね、こんな話を最後まで聞いていただいて。

お礼にもなりませんがお支払いくらいはさせてくださいね。

ええ、では、さようなら。

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