15.革命前夜
鬼に魔法を撃ちながらレオルドは気を失ってしまった。
目が覚めるとそこは見知らぬ天井……ではなくよく見る天井が目の前にはあった。
「う……うう……」
(いったいどうなったんだっけ……)
確か、迷宮に遺物を取りに行くことになって……
何とか宝物庫まで行くことができて……
ボスがいないと思ったらいて……
俺の油断でリヒトがやられて……
そうだ。
思い出してきた。
俺、鬼に魔法を放ちながら気を失ったんだ……
皆はどうなったんだ?リヒトは……ゾフは無事か?鬼は……
「いてっ……」
状況を確認するために立ち上がろうとすると全身に痛みが走った。
俺は立ち上がれずベットにすわりこんだ。
「当たり前だよ……あれだけボロボロだったんだから。」
ソファーに寝転んでいたレミィが俺の声に反応してそう言った。
「レミィ!!よかった無事で!!鬼は?リヒトさんは……?みんなは無事……?」
「鬼は倒したよ。リヒトは……」
レミィはうつむき暗い表情をしている。
(レミィの表情……まさか、やっぱり助けられなかったのか……?
また……また俺は失ったのか……?)
「きついだろうが、すまねえ。その話も含めて頭から話があるから一緒に来てくれ……」
そう言ってレミィは俺を立たせ、俺はレミィの肩を借りながらアジトへと向かった。
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「頭……来たぜ……」
レミィの力ない声とともに俺らはアジトの中へと入った。
「ああ、レミィ、レオルド、来たか……」
アジトの中はいつものような活気のある雰囲気はなく、皆下を向きお通夜のような感じだった。
しかし俺はそんなことを気にしている余裕は1ミリもなかった。
「お頭さん!ゾフは……リヒトは無事なんですか!?」
俺は入ってすぐお頭に問いかけた。
とにかく2人の安否を早く確認したかったのだ。
「焦るなレオルド……今話す。とにかくついてこい。」
焦る俺を頭は諫め、頭は奥の部屋へと歩き始めた。
俺とレミィはできるだけ焦る気持ちを抑えながら頭の後について行った。
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頭について行き、奥の部屋の中に入るとそこには包帯を巻かれベットに横たわるリヒトがいた。
「リヒトさん!!」
俺はリヒトを見るなり、抑えていたものがあふれ出るように急いでリヒトの元へと走り出した。
しかしリヒトはそれに気づかないかのようにレオが近づいても目を開けることはなかった。
「リヒトさん!リヒトさん……!」
どれだけ呼んでもリヒトはびくともしない。
俺はそれでも必死に呼びかける。
聞こえてないだけで呼んでいればいつかは気づいて目を覚ますと信じて……
しかしそんな思いとは裏腹にリヒトは少しも動くことはなかった。
(そんな……嘘だ……嘘だ嘘だ……)
「レオルド……」
そんな俺の肩にレミィはそっと手を置く。
俺は絶望していた。
また自分の弱さのせいで大切な人が犠牲になったからだ。
もう、同じ過ちは繰り返さないと誓ったばかりだったのに、俺はやってしまったのだ。
(くそどうしてどうして……)
俺は自分を責めるように下を向き、そして涙を流した。
皆もそんな俺を見て同じように肩を下ろした。
「おいぃ……勝手に殺してんじゃねえぞぉ。レオぉ。」
いきなり聞こえた後ろから声に、俺は驚きながらも振り返った。
そこには、同じく包帯をぐるぐるに巻いた巨体……ゾフがいた。
「ゾフさん!無事だったんですね……!よかったあ。」
「当たり前だぁ!このくらいで死んでたまるかぁよぉ」
そう言ってゾフは包帯まみれな手を大きく上げた。
(よかった……ゾフは無事だった……全員失ったわけじゃなかった……)
俺は少しだけ安心して、胸をなでおろした。
「バカ!ゾフ!アンタも別に軽傷ってわけじゃないんだ!!おとなしくしてな!」
そう言って、大きく手を上げるゾフに頭は怒った顔でひっぱたいた。
「すまねぇ……頭あ」
ゾフは怒られて子犬のようにしょぼんとうつむいた。
「でもほんとにゾフさんだけでも無事でよかった……ゾフさんまで死んでたら俺……おれ……」
そう言いながら俺はまた涙があふれだしていた。
ゾフの元気な姿を見て改めてリヒトの死を実感してしまったからだ……
俺はそのまままた嗚咽を吐きながら泣き始めた。
「死んでねえぇ……」
「え?」
「まだ死んでねえぇ……勝手に殺すなぁ」
ゾフの言葉を俺はすぐに理解できなかった。
(死んでない?死んでない。え?なに、どういうこと?)
「いや、え?一体どういう……」
困惑する俺に頭は一息ついてから言った。
「言葉通りだ。まだ死んでねえんだよ。リヒトは。」
「いやでも、死んだって……」
(いや、よく考えると誰も言ってないような……?)
「誰も言ってねえよ。お前が勝手に想像して泣き出しただけで……」
確かによくよく考えると俺が勝手に決めつけてただけだった。
勘違いだったのだ。恥ずかしい。
「そうですか……勘違い……そっか、それならよかったあ……」
そう、間違って恥ずかしい思いはしたが、でもリヒトは生きていたのだ
勘違いだったのだ
本当に良かった……
「まあ、でもそんなに間違ってはないじゃないか。」
そんな安堵の気持ちを消し飛ばすようにレミィは言葉を放った。
「え。いや、どういう……?え?勘違いだったんですよね?生きてるんですよね?」
(頭がこんがらがってきたぞ……)
「まあそうだな……生きてるが、レミィの言う通り勘違いでもないってことだ。」
「どういうことですか。」
「まあ、端的に言うと『仮死状態』なんだ。仮死状態のリヒトを時間停止の遺物で何とか生かしてる状態。」
「仮死……」
なるほどそういうことか。
事実何とか生きてはいるがもう限界。
ほとんど死んでるのと変わらないってわけか……
それに時間停止の遺物……そんなものまであったのか……すごいな。
「でも、それじゃあ。もう死んでるのと変わらないんじゃ……」
「まあそうだな……」
頭とレミィは肩を下ろす。
(そんな……)
俺も希望が絶望に代わりうつむくことしかできなかった。
「だからまだ死んでねえぇよぉ……」
「ゾフ……!」
「俺はあきらめねぇぞぉ。頭ぁ……!」
「そんなこと言ったってどうしようもないだろ!」
レミィはそんなゾフの胸ぐらをつかみ大きな声で怒鳴りつける。
「みんな諦めたくねえんだよ!リヒトを失いたくないのはみんな同じだ!!……でもどうしよもないんだよ……」
レミィは手を放しまたうつむく。
「どうしよもなくなんてねぇぇ。龍の血さえあればぁ……あれさえ手に入れればぁ、リヒトは助けられるんだぁ……」
「竜の血……?」
竜の血ってなんだ?
あの竜か?あの父を殺したあの竜の血か?
でもそれが何の……?
「竜の血だって……?飲めば寿命が延び、傷にかければたちまち治るって言うあの……?」
「そうだぁ……」
「何を馬鹿な事言ってんだよ。竜の血なんて絵本の中の迷信だろ……?」
レミィは小ばかにしたように返す。
(迷信……?
いやでも、竜自体はほんとにいたし……
実際竜の血は存在するんじゃ……?)
「迷信じゃないよ……竜の血は本当にある遺物さ……」
レミィの問いに頭がそう返す
「ほんとかい……でも実在するとしても場所が分からなきゃ意味がないだろう?探すにしても、そんな時間もないだろうし……」
確かにその通りである。
リヒトは仮死状態……
え、でも……
「え?でも、遺物て時間を止めてるんじゃ……?」
「そんな永遠に止められるなんて便利なものでもないのさ……あの遺物『停止時計』は貯めた魔力分の時間だけ指定した1つの物の時間を自由に止めることができるものだ。魔力が尽きればそこで解除されてしまい、その時点でまた貯めなおさなきゃただの時計に成り下がる。」
「なるほど……じゃあどのくらい持つんですか?」
「そうだねぇ……あたいの魔力量は平均値の約2倍の魔力量で6年貯め続けたんだけど……平均的な魔力量の人が全魔力で1年貯め続けてやっと大体2時間分たまるくらいだから……まあ大体24時間ってとこだ……7時間前には使ってるからあと17時間ってとこか……」
「17時間……」
(かなり短いな……)
少なくともここから探して……は現実的ではない。
やはりきついか……
「ほらね……やっぱり無理だよ……」
レミィはそう言って近くの椅子にドカッと座りこんだ。
「無理じゃぁねぇ……」
ゾフはそれでもあきらめない様子だった。
(いや、さすがに……)
俺だって諦めたくはない
でも、これは……
「だから、無理だってんだよ!わかんねえほど馬鹿じゃねえだろ??」
レミィはいらいらしながらゾフに返した。レミィの怒りもすでに限界まで到達しかけていた。
「だから無理じゃぁねえんだよぉ!場所は分かってんだぁ!」
ゾフは興奮しながら大きな声で叫んだ。
「は?そんな……でたらめ言うんじゃ……第一分かってたらすぐに取りに行ったはずだろ、取りに行かねえってことはなんか無理な理由があるからじゃねえのか?」
「その通りだ。レミィ。取りに行けるような場所じゃねえんだ。少なくとも今はな……」
(今は……?)
「頭、なんだよその言い方!濁すんじゃねえ!一体どこにあるってんだよ!」
「王城だよ。竜の血は王が所有してる遺物……つまり国宝だよ。」
「は?」
国宝……
竜の血は国宝だった……
そりゃ、取りに行けるわけないわな
「それじゃあ。結局無理じゃねえか……」
「無理じゃねえぇ。」
「無理なんだよ!」
ゾフとレミィはお互い怒鳴り合いにらみ合っている。
そうしてしばらく沈黙が続いた。
「なあぁ頭ぁ……今じゃねえのかぁ?革命するならよぉ。ここで動かねえならいつ動くんだぁ……?」
最初に声を出したのはゾフだった。
「リヒトはよぉ……誰よりも俺らや頭のために動いてたぁ。みんなが住みやすい世界にするために賊にまでなってよぉ。そのリヒトの熱意に動かされてついてきたやつだってたくさんいるぅ。リヒトはこの一家や世界のために必死こいてたんだぁ。」
「ゾフさん……」
「なのにぃ、俺らはそいつがピンチの時に必死こかねえのかぁ?まだ準備できてねえからって頑張ってくれてた仲間をぉ見捨てんのかぁ?それじゃあ、今の国のやつらとなんもかわりゃあしねぇだろうがぁ!」
「ゾフ……」
「だから俺はぁ一人でも行くぜぇ……俺はぁ見捨てねえ。俺はぁぜってえ曲がらねえ……あいつとぉ革命を起こして最高な国にしようってぇ約束したからなぁ!」
そう言ってゾフはドアのほうへ歩いて行った。
「くそっ……あいつの言う通りじゃないか……何を早々に諦めてんだ俺は……」
レミィもそう言って強く拳を握りしめて、ドアのほうへ走っていった。
部屋の中には横たわるリヒトと頭と俺だけが残った。
「レオルドよお……あたいはだめな頭だねぇ……」
頭は今にも泣きそうな顔で俺にそう尋ねてきた。
「お頭さん……」
「そりゃぁ……あたいだってリヒトを助けるために今すぐ国へ乗り込みたいさ……でも、主力のリヒトとゾフは満身創痍……遺物も集まってない……こんな状態で全員の命なんか掛けられないさ……」
そう言い残して、頭もドアのほうへと歩いて行った。
みんな誰かしらのことを思って行動していて、でもその思いがぶつかり合って……
うまくかみ合わなくて……
難しいもんだな……
そんなことを考えながら俺もドアに向かって歩いていく。
ドアを開けると立ち尽くすレミィと頭がいた。
「どうしたんです……?」
そう言ってあたりを見渡すと一瞬でその意味が分かった。
100名前後の一家全員が武装を整えドアの前に集まっていたのだ。
「な……あんたらいったいどうして……」
頭は驚きながらそう言った。
「頭ぁ!全部聞こえてやしたよ!」
「みんなで国落としましょう!」
「リヒトさん助けましょう!!」
「あきらめるなんて柄じゃないっすよ!」
「俺らはいつでも準備できてますから!」
「ゾフにだけかっこなんてつけさせねえよ!」
「頭ぁ!やりましょう!」
みんなそれぞれ頭に向かって声を上げた。
「ふふふっ……はっはっはっはっ……」
それを聞いた頭はいきなり大きな声で笑いだした。
そして俺のほうを振り返って一言言った。
「レオルドよぉ……!ほんっとにあたいはだめな頭だねぇ……!」
そう言って頭はみんなのほうを向きなおし声を上げた。
「お前らぁ!」
その声にアジト内は静まり返る。
「やるよ……革命だぁ!!」
こうしてとうとう革命は始まった。
長くなってしまいましたが、次の話より王国との戦争編です。




