エピソード6 エルフ
今回は相談というより雑談に近い話です。
魔王領・亜人村
ここでは人間達によって迫害された亜人族・獣人族、そして孤児の人間達などが暮らす魔王が建設した村である。
無論、エヴォルは無理矢理いうことを聞かせたり、奴隷にしているわけではなく、本当にいく当てのない物達を保護するために作った保護区であり、これには魔族達は反対していたが、愛着が沸いているのか、たまに様子を見にきたり、食料を持っていく程を装って相談に乗っているなど、かなり気に入っている物達もいるようだ。
そして、今回は魔王自ら四天王の筆頭《鬼人・ガルム》と魔族最強格の魔王側近《双帝》の一人、《ベリアル》と共に視察に来たのだ。
「相も変わらず平和そのもののようですな」
「フンッ
居場所を失った亜人共と人間共を保護するための場所だ。平和でなければ、魔王様の苦労が水の泡だ
日々感謝に涙を浮かべながら頭を垂れていろ愚民共が」
「よさぬかベリアル
我も同じ《居場所無き異端児の魔族》であったがために人間だろうが、魔族だろうが、亜人だろうが、居場所を与えなくては気が済まむのだ、お前達にはすまぬとは思っているがな」
エヴォルはそういってベリアルを諌める。
ベリアルも本気ではないのか、申し訳なさそうな表情を浮かべており、それをフォローするようにガルムがエヴォルに言った。
「魔王様、ベリアル殿も本気で言っているわけではございません。
この方はつんでれ?という物らしく、本音とは別のことを言ってしまわれるのです」
「なっ!!?き、貴様何をいっているのだ!!
そ、そんなわけな、ななななななかろう!!」
「(すげえ動揺しているな……)」
ベリアルの様子を見て、エヴォルは心の中で呆れ返っていた。
「おや?ですが、三日前、この村に来てはこの村の子供や孤児院にお菓子などを持って────むぐぐぐ!!」
「い、いいいいいいいいいいいから黙れ!!!!」
顔を赤面させてベリアルはガルムの口を閉ざすが、エヴォルは知っていた。
イケメンクール系のベリアルの正体は……《大のお人よしであり、子供好き》であることを……
そして、保護区に孤児院を開き、そこに信頼のおける魔族や大人を置いて子供達を守るように進言したのもベリアルであるということを…
何よりもベリアルは仕事がない日はいつもこの村に来ている。
ほぼ毎日来て、この村の子供達と遊んでいる。
ベリアルは魔族最強の一角であり、はるか大昔、大魔王と呼ばれる存在がいるまでは《大魔王候補》として名を連ねた存在なのだ。
その性質上、子供は愚か、同じ魔族すらも近寄ろうとしなかった。
しかし、そんなベリアルをエヴォルが部下とし、彼への信頼と忠誠を得て、今の関係を築き上げている。
「ご、ゴホンッ
そ、それでは私は孤児院の方に視察に行って参ります。」
ベリアルは無理矢理話を終わらせると孤児院の方に向かっていった。
そんなベリアルを見てガルムはクスクスと笑っていき、魔王の方を見て「それでは私は人間達の方の視察にいきます。」といって向かっていく。
そして、エヴォルは森の方に足を向けていった。
エヴォルは森の方に着くとそこに弓を構えて矢を射ろうとする耳の長い美女がいた。
「………ふぅ……」
小さく深呼吸する。エヴォルはその集中力に感心していた。
そして、目を閉じていた目をゆっくり開け一点を見る美女はその矢を射った。
その矢はまっすぐ飛んでいくと遠くの的の真ん中にクリーンヒットした。
その命中精度を見たエヴォルは「ほう」っと感心した声を上げる。
その声に気が付いたのか、その美女は背後を見て、エヴォルを見た瞬間、すぐに跪き、エヴォルに挨拶をした。
「エヴォル様、このような場所までおいでいただきありがとうございます。」
「良い、そのおかげでいいものが見れた。腕を上げたなフローラ」
そのエルフはエルフとい種族の中でも最高峰の神の眷属とまで言われ、精霊族が持つ綺麗な羽と精霊にはない圧倒的な身体能力を持つエルフの融合種族である聖霊と言われる希少種であり、その存在は人間界でも魔族でもかなり珍しいとされている。
「そのようなお言葉、もったいなく思います。
私などまだまだでございます。」
「そのようなことはない。お前がこの村をここまでにしてくれていることは知っておる。」
「魔王様方のご尽力のお陰でございます。
そのおかげで村の者たちは安心して暮らしておられるのです。」
「森の聖霊と言われるお主に言われると嬉しいものだ。」
魔王はそう呟くとフローラは微笑みを浮かべている。
神の眷属と魔王は敵対関係、それは古代から続く因果だが、エヴォルは少し事情が違うらしく、敵対するなら、同じ魔族にすらも牙を向けたりしている。
そのため、フローラもエヴォルの対応には少し困っていたが、そんな時に彼から亜人たちや人間たちの居場所作りの管理者に選ばれたのだ。
その結果、フローラはエヴォルが真に敵対行動をしない限り、味方でいることを選んだという敬意を持っている。
「村の亜人たちは最初は警戒しておりましたが、獣人族などと交流を深めていき、共に共存できております。
ベリアル様が考案なされた孤児院も子供達が幸せに暮らせるようになっております。
この平和が少しでも続けば良いと思っておりますが、近頃、人間界の方では不穏なことがあると森が騒ぎ出しております。」
フローラはその性質上、この世界に存在する全ての森の状況を理解できる。
その上で、何かが起きると察知しているのだ。
「わかっている。助けた人間の姫も同じようなことを言っていたからな」
「他の魔王がどうなろうが知ったことではございませんが、エヴォル様だけは死んではダメです。
あなた様はこの世界に変革をもたらし、人間と魔族、亜人や獣人たちが幸せに暮らせる世界を作られると信じております。」
「…………我を信じすぎだ貴様は…」
エヴォルは少しだけ呆れたようにそういう。
そして、真剣な眼差しでフローラを見ていった。
「だが、我も目的を達成するまでは死ぬわけにはいかないのだ。
故に心配するな」
そういうエヴォルの顔を見て、フローラは安心したのか「そうですか」と微笑んだ。
「私もあなたが真の人類の敵とならぬよう影ながら見守っております。」
「神の眷属に守られる魔王というのも面白い存在なのかもしれないな」
エヴォルはそういって森のさざめきと風の音色、そして森の動物達が織りなす子守唄を聴きながらこれからのことを考えるのだった。
次回は誰になるかわかりませんがお楽しみに!