凶器な彼女と魔法のえんぴつ
この作品は、「第4回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞」の応募作です。
テーマは「えんぴつ」。
主人公は女に包丁を突き付けられていた。何とかする為に「魔法のえんぴつ」で望みの物を何でも出すと言って女の興味を引こうとするが…。
「こ、これは魔法のえんぴつなんだ!」
声を引き攣らせて、俺は何とかその言葉を発した。
しかし目の前にいる包丁を持った女は、何それ、と関心無さそうに呟く。
「これで描いたものは具現化するんだ。つまり何でも手に入るって事だよ!」
俺は興味を引こうと必死になった。
既に一度切りつけられている。左腕で傷も浅かったが、そのショックで体が固まり思うように動かない。この状態では隙をついて逃げる事もできないだろう。
「何か欲しいものはない?何でも描くよ!」
俺は刺されないように精一杯の努力をする。
「お金。」
女は誰でも思い付きそうなひと事を言った。
「金は無理…」
言葉を濁すと女が睨む。
「やってみたんだけどダメだったんだ!」
俺はすぐに弁解した。
「壱万円札を描いたんだけどオモチャのお札にしかならなくて…」
しかし女が険しい目付きのまま近付いてくるので慌てて付け加える。
「宝石なら出せるよ!」
小粒の輝く塊を放り投げると、女は少し興味を示し、それを拾い上げた。
「人物画は得意だから、装飾品や服なら何とかなるんだ。」
俺はスマホを取り出す。
「それで好きなものを探してよ。画像があれば描けるから。」
女は口だけ笑い、包丁を持ったままスマホを手に取った。
少し余裕が出来た俺は、座り直すふりをして机の下に落ちていた『切り札』を手に入れ、素早く隠す。女は気付いていない。
(良し!)
「じゃあ、これ。」
女が気に入った服を見つけ、スマホを渡してきた。
「分かった。あ…スケッチブックを取ってくれるかな?」
俺は緊張しながら女に頼む。スケッチブックは女の後ろだ。その隙を突ければ…。
(何で黙るんだ)
女が動かないので、俺の心臓はドクドクと激しくなる。
「あの…」
もう一度頼もうとした時、女が後ろを向いた。
(今だ!)
俺は先程手に入れた『女が描かれている紙』を破った。
「ギャーー!」
女から凄まじい悲鳴がしたが、破って破って破りまくる。
「消えろ!消えろ!消えろ!」
女がバラバラになった後、破った紙を集めてコンロで燃やすと、女は目の前で消えていった。
「ハアハア…」
俺はやっと息を吸えるようになると、落ちていたえんぴつを拾う。
「理想の彼女を描いたはずなのに、何で殺人鬼が出てくるんだよ…」
俺は大きな溜息を吐いて、魔法のえんぴつをゴミ箱へ捨てた。
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