序話 希代の悪女メリッサ(7)
侍女達の目を盗んで渡されたので、流石にコレは極秘だと思い、体調が思わしくないからという大義名分をつけて、寝台に横になったアリシアは、掛け布団に隠しながらレオからの紙を開いた。
『処方された薬は飲むふりをして飲まない事
明日はテッドが、お茶を持って部屋に行くので、何か言付けがあれば、こっそり彼に渡す事
そして自分からの紙は読んだら燃やす事』
紙切れには走り書きでそう書かれていた。
書かれていた通りの事をアリシアは実行した。
流石にこの時期に暖炉はないので、夕方蝋燭が灯される時刻になってから、蝋燭の火で紙は燃やした。
次の日の昼、レオの小姓のテッドがお茶をワゴンに乗せてやって来た。
彼は、アリシアからこっそり渡された手紙を受け取ると、
「茶器はあとで取りにまいります。あとはこちらの侍女の方に…それではごゆっくり堪能くださいませ。私はこれで」
と一礼して部屋を出ていった。
テッドがレオの部屋に戻ると、聖女メリッサが何故か、部屋にいた。
部屋の空気がピリついていた。
何か深刻なやり取りをしていたようで、
場の空気を読んで、テッドは下がろうとしたが
「いいよテッド、お客様はもうお帰りだ」
とレオは言った。
メリッサは、まだ何か言いたげではあったが、レオがこれ以上聞く耳を持たない素振りであったので、引き下がった。
だが、
「レオ王子、私とて、言いたくはないのですよ。でもノア国王を悲しませるような事だけはしないで頂きたいものです」
と出ていく直前にレオの方を振り返り、鋭い眼光で、そういった。
「ご忠告肝に命じておくよ」
メリッサが部屋を出ていくと、
「レオ様」
と、テッドがレオの近くに参じた。
「ん…釘を刺しに来られた。色々嗅ぎ回ってるのがバレたらしい。まぁバレたからってどうってことないが…邪魔だてされるのは厄介だな」
としばらく考えこんでいるようだったが
「邪魔される前に決行することにするか!」
と机の上で紙に何やら書き始めた。
そして書いた紙をテッドに渡し、
「茶器を取りに言ったら、姉様にこの紙を渡して。それからテッド、明日決行だ」
と不敵に笑った。