序話 希代の悪女メリッサ(5)
アリシアは、留め立てする女官長を振り切って、勢いよく政務室の扉を開けた。
政務室にいた人達の視線が、一斉にアリシアに集まる。
政務室の御前会議のメンバーの顔ぶれに違和感があったが、今はそれどころではないアリシアは、その事について深く考えなかった。
彼女は、正面に席に鎮座する国王の元まで歩み寄ると、
「お父様、どういう事ですの?」と怒鳴った。
いきなり喧嘩腰の物言いはしたくなかったが、父王の顔を見た瞬間、我慢ならなかった。
「一国の王女様ともあろうお方が、なんて無作法な振る舞い」
と正面に鎮座する国王から見て、左側の一番前の上席に座っていた聖女メリッサが言った。
続けて彼女は
「そういえば、アリシア王女様は、ユーリスを親代わりとして慕ってらしたとか?!礼儀をわきまえないのは、親代わりの方のご教訓の賜物なのでしょうか?」
と言い終わるとまるで人を小馬鹿にしたように、口の端を上げた。
「なんですって!!無礼なのは貴方だわ。聖女であり、伯爵夫人でもあるユーリス様を呼び捨てるとは」
「聖女、聖女ねぇ…なんの能力もない人が聖女」
何がおかしいのか?メリッサは、ふふふっと笑った。
「何がおかしいの?」
「たかだか慈善活動で、世間から聖女扱いされた。ただの凡人ですわよね、ユーリスは。そんな方が聖女として陛下に仕えて、何か特別な事がありました?奇跡でも起きたのかしら?…
聖女としてなんの働きもみせず、長年に渡って聖女の地位にあぐらをかいてた金食い虫、国賊ですわよね」
アリシアはわなわなと震えた。
ここまで言われるいわれがあろうか?
「お父様!!何か仰って」
さっきから何も言わない父王に助けを求めた。
だが
「申し訳ないメリッサよ」
と国王は聖女メリッサに頭を下げたのだ。
「お父様なんで、この無礼な女に頭を下げてるの?」
「黙りなさい!無礼なのはお前の方だ、アリシア。聖女メリッサに謝りなさい」
と言われ、アリシアは、信じられず父王の顔をマジマジと見た。
「いいのですよ…嫁ぎ先が決まり、少しばかり精神が不安定なのですわ。あとで私が処方したお薬をお渡しします。それまで自室で安静になさったほうがよろしいかと存じますわ」
と言うと
先程から成り行きを政務室の扉付近で、呆然と見ていた女官長に鋭い視線を向け、
「女官長、アリシア様を自室にお連れして!」
嫌がるアリシアを護衛の衛兵が引きづるようにして、女官長と共に自室へと連れて行った。