序話 希代の悪女メリッサ(3)
アリシア王女の結婚の話が本格化したのだ。
これまでにも嫁ぎ先候補の話は色々あったが、本決まりにはならなかった。
一国の王女である以上恋愛結婚等は夢のまた夢で、ある程度の覚悟はアリシアにもあった。
だが、嫁ぎ先になるローゼン王国とフリンゲールは長年に渡り、敵対国である事
ローゼン王国のローゼス14世陛下とアリシアの年の差が20も離れている事
そして、何よりローゼス14世陛下の評判が芳しくなかった。
国王として政務に全く関心がなく、狩りと女遊びが趣味という、無能を絵に書いたような人なのだ。
数日ぶりに顔を出したシェリルを誘い、アリシアは、宮殿の中庭を散歩していた。
宮殿に咲く薔薇の花が見頃を迎え、気分転換になると思ったのだが、アリシアは少しも気が晴れなかった。
何時もなら面白可笑しい話を饒舌にお喋りするのに、あきらかに様子がおかしい事に気づき、
「ねぇ、少しここで休憩しましょう?」
と、シェリルは東屋で休憩することを提案した。
二人は、東屋にあるベンチに並んで腰をかけしばらくは無言で薔薇の花を眺めていたが、
「アリシアどうしたの?なんだか塞ぎこんでいるみたいだけど」
と、シェリルから切り出した。
母である聖女ユーリスが任をとかれてからというもの、宮殿だけでなく他の貴族の屋敷にも足が遠のき、そういったたぐいの噂話と言う名の情報に疎くなっていた、シェリルは、アリシアの結婚が持ち上がっている事をこの時、ようやく知ったのだ。
「大丈夫よ、アリシア」
と親友を励ます為にシェリルは言った。
「何が大丈夫なの?」
何時ものように戯けた口調ではなく、少しばかり険のある口調でアリシアは言った。
「それは……」と言い淀む。
大丈夫と言って見たものの何が大丈夫なのだろうか?言ったシェリルにも分からなかった。
「大丈夫なわけないわ。全然大丈夫じゃあない!」
と言うと立ち上がって、シェリルを見上げるような位置で更に次の言葉も吐き続けた。
「20も年が離れている上に、人柄も褒められた人ではないのよ、そんな人をどうやって愛せるの?」
どう言っていいのか分からず、シェリルは俯いた。
「シェリルはいいわよね、相思相愛の人がいて」
そう毒づかれてシェリルは顔を上げた。
流石に親友とはいえ、こんな言い方をされるのは我慢出来なかった。
だが、怒りとも苦痛ともとれる表情で、薄っすらと涙を浮かべているアリシアの顔を見て、言葉を飲み込んだ。
「私だって愛し愛されたかった。それがかなわないならせめて、フリンゲールに残りたかった」
アリシアは泣き崩れた。