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愛しきあなたへ

作者: 駒城亜樹

その手紙は亡くなった祖母の化粧箱の中にあった


所々が微かに焦げていて


文面の言い回しも古いのを見ると

祖母が戦時中書いたのか

または戦時中に貰ったものかと思う。


何故なら文頭には

[愛しきあなたへ]とあり

文末は誰かが消したのか、墨のような物で塗り潰されていたからだ。


祖母宛なのか?はたまた祖母が誰かに充てたのか?

幼い私にはわからなかった。


記憶にあるのは、いつだったか祖母が化粧箱からこの手紙をそっと出し

愛しげにまた悲しげに眺めていたことだけだった。


月日は流れ 数十年後


知り合いのお祖父様が亡くなったと聞き

私は葬式に参列した。


焼香を済ませ

帰路に着こうとした際に知り合いに呼び止められた。

「是非、見て貰いたいものがある」と


知り合いのお祖父様が使っていた部屋に通され

しばらく待つと

彼女が現れた。手には錆び付いた缶がある。


「この中に入っていたのよ」

おもむろに蓋を開けると大量の手紙と、この屋敷の庭のけやきの下で撮影されたであろう若い男女の写真があった。


開くと

[スズエさんへ]の書き出しがあった。


そう、私の祖母の名前だ

私は驚きながら読み進めた。


内容は身分違いで添い遂げられず、見合いで結婚したお祖父様の謝罪と胸の内が何通も、何通も、綴られていた。


「お爺ちゃん、この土地の大地主だったから結婚は名家の方としか許されなかったって言っていたわ」


その言葉にようやく祖母の表情の意味を理解した。


[実を結ばれなくても、ずっと想い続けていた恋]を


後日、私はもう一度訪ねる為に知り合いの自宅に行くことにした。


祖母のあの化粧箱を持って。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 秋の公式企画から拝読させていただきました。 悲恋の描写を孫娘の視点から行うことで、輪郭が鮮明になっています。 読ませていただきありがとうございます。
[良い点] 家の都合で実らなかった恋とは、何とも切ないですね。 しかしながら、もしも視点人物の祖母と知り合いの御祖父様が結ばれていたら、視点人物もこの世に生を受けていない訳ですし、運命の巡り合わせとは…
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