9 冒険者として仕事をしよう
試験官とともにギルドの受付に戻る。
「エルサ! こいつCランクで処理してくれ」
試験官が受付嬢に指示する。それを聞いた冒険者が一斉にざわついた。
冒険者の数人が試験官に詰め寄った。
「新人がCなんて聞いたことねぇよ!」
「ありえねぇだろうが! おっさん色仕掛けにでも落ちたかぁ!?」
ギルド内にいた冒険者らが試験官に胡乱な目を向ける。
「不正はねぇ! これは俺の目で見て決めたことだ。テメェらギルドを疑うのか?」
ギルドを疑うということは自らの土台を疑うようなものだ。
試験官は散れ散れと手を振りながら美波の方を向く。
「いくら攻撃力が高くても、ソロだと不意打ちや素早い魔物には対応しきれない。しかもこの分だとパーティのお誘いがひっきりなしに来て大変なことになるだろうな。おい、黒の!」
試験官はギルドの端でこの騒ぎを眺めていた、黒い装備が印象的な美丈夫に声をかけた。
「お前、こいつとパーティ組んでやれ。って、おいおい、そう睨むな。なにもずっと組めとは言わん。数カ月もしたらほとぼりも冷めるだろう。それまででいい」
「……ったく、しゃあねぇな。お前、名前は?」
彼は初めて美波と目を合わせた。
(30歳前後くらいだろうか。黒髪にサファイアの瞳、それに日本人好みのめちゃくちゃイケメン。でも、この人とこれから一緒に行動しないといけないなんて、どんな拷問!?)
「ミナミ・カイベです。よろしくお願いします」
無意識でキッチリ30度の礼をする。
「ルークだ。それで? なんか依頼受けんのか?」
「そうですね、お金持ってないので、とりあえず何か仕事しないと」
「マジかよ……。今までどこで何して……ってまぁいい。それなら掲示板で受ける依頼見てこい」
雑に美波を追い払う。
「おい、あいつ新人でCランクって、お前何考えてんだ?」
ルークが試験官を睨む。
「俺だって悩んださ。でもなぁ、あんな巨大な火球を作っても魔力切れする様子もないし、発動時間も精度も申し分ない。あれで新人はねーよ」
試験官が頭を掻きながら苦い顔を作る。
「無理矢理パーティ組まされたんだ。足さえ引っ張ってくれなけりゃいいか」
ルークは深く追求せず話を切った。
「あぁ? Aランクの『黒の騎士』サマの足を引っ張るなってそりゃ無茶だろ」
「南部都市のセレゥ領へ行く商隊護衛依頼を受けようと思うのですが、いいですか?」
美波がルークにCランク想定と書かれた依頼書を見せて確認を取る。
「俺はなんでもいい。一応説明しておくが、お前がCランク、俺がAだから依頼はBまで受けられるが、しばらくBはやめとけ。B以上は難易度が跳ね上がる。新人にすぐ死なれちゃ寝覚が悪い」
言いながらルークは依頼書をひったくって受付嬢に渡す。
「セレゥ行きの護衛依頼ですね。受ける人がいなくて商隊が出発できず困っているみたいですよ。今からでも宿に行ってあげてください」
受付嬢がほっとした顔で受注処理を行う。
「行き先セレゥかよ! よりにもよって面倒くせぇとこ選びやがったな」
ルークが思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をした。
「セレゥは今、疫病が流行ってるって噂があんだよ」
初依頼から早くも暗雲が立ち込めた。
メインキャラのルークが初登場