コミカライズ3話公開記念SS
時系列は新兵訓練期間中です。
コミカライズ版もよろしくお願いします!
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「やっと休み、ようやく休み……つかの間の休みだぁーーなのに……」
美波は机の上に置いて読んでいた歴史書の上に突っ伏した。この歴史書は宰相に読むように言われて渡されたものだ。
「なんでせっかくの休みなのに遊びにも行けず、別にしたくてしてるわけじゃない勉強なんかしないといけないんだーー!」
美波はオイオイと泣き出した。涙は出ていない。
「ちょっとーミナ、外まで声響いてるよ?」
部屋のドアを開けてアンが帰ってきた。
「だって……。はい、第5代国王の名前は?」
「えっと、チャールズ?」
「テキトー言ったでしょ! 正解はオーズワン・フゥイズネットです。誰よ!? 発音もしにくいわ覚えにくいわ。はい、何した人か、お答えください!」
「えぇぇ……いい政治した人?」
アンはテヘペロとばかりに目をくりくりさせて舌を出した。
「違いまーす。正解は当時のズェト国の王様が殺されて内乱状態になったところを、その王様の弟のウィッチェがアラミサルに助けを求めてきて、その内乱を治めてズェト国をアラミサルに併合した人。その結果、アラミサルさらに領土を広げて周辺小国が従うようになった。当時は古アラミサル語が公用語だったが、領土が広がり国内で複数の言語が話されることになって日常や政治の場面でも混乱が生じたため、古アラミサル語を元にして中央大陸語を作った。他にもあれやこれやして、即位期間は大陸暦613年から662年。ってこんなん国王以外も載ってるし何人いるんだ覚えられるかー!」
気持ちとしてはちゃぶ台をひっくり返したい勢いだったが、残念これはどっしりした木の机である。美波は八つ当たりでベシベシ叩いた。
「うーん。そんなのどうやって覚えればいいんだろうね?」
真剣に考えてくれるアンだけが救いだ。
「そーだ、あの3人にも手伝ってもらおうよ」
「ジャックとロビンとナイジェル? 手伝うたってどうやって……?」
「いーこと思いついた! 来て来て!」
そう言ってアンは美波の腕を引っ張って連れ出した。
「ミナミの勉強に付き合うったって、俺たち何すりゃいいんだ?」
アンは美波を連れて男子宿舎棟に行き、3人をこれまた引っ張って食堂へと連れ出した。
このメンバーで集まって喋るのはいつも食堂だった。
それぞれの宿舎棟にはちょっとした談話スペースもあるのだが異性は棟自体立ち入り禁止なので、男女のグループが集まって喋れる場所は限られている。
「一緒に勉強するのはいいが、手伝えることなのか?」
ジャックに続きナイジェルが疑問を呈する。
「毎日一人で勉強して死にそうなミナのために、このアンちゃんが考えました! 題して『なりきり大作戦』!」
とびきりのドヤ顔でアンが宣言した。
「まずは初代国王から。初代の役は私からやるね。『ハッハッハ! 我が初代国王アルフレド・マクワイアなり。在位は456年から501年で、アラミサル公国の公主だった我は神から魔法を授けられ、周辺諸国併合しアラミサル王国を建国したなりー!』ね? ちょっと楽しいし、覚えられそうでしょ?」
一拍置いてアン以外の全員が吹き出し笑い出した。
「あはははは! 面白すぎる! でもそれで覚えられるかなぁ」
「まぁ今までの勉強法じゃ行き詰まってたんでしょ? やってみたらいいじゃない」
懐疑的な美波を、面白がったロビンが引き戻し、全員で『なりきり大作戦』をやってみることになった。
全員暇だったのである。
新兵訓練中は城外に出ることが禁止されている。それは昔、場外に出るとつらい訓練が待っている城に戻りたくなくなって逃げるものが何人も出たためだ。
だから全員やることがなかったのだ。
「俺は第2代国王の__」
「僕は教皇のエゼル・ウルフ。__」
「私は、えっと誰だっけ? ゾルバダ皇帝のレオナルド・ゾーイだー。__」
第10代国王の時代までやって全員飽きた。
「一人何役するんだよ。俺、自分がやった役が誰で何やった人かもう全部怪しいんだが」
ナイジェルの言葉にみんな無言で頷く。
「歴史以外で宰相閣下から出されてる宿題ってあるの?」
「国内の地理とか産業とか……」
「それも暗記系じゃねーか。でもさすがに国内の地理くらいはいけんだろ?」
現在美波が覚えているのは王都とその周辺の街4つくらいだ。日本で例えると東京、神奈川、千葉、埼玉、埼玉の北って何だっけ? レベルである。
「ほんとお前ってどこ出身? って言えねぇんだっけ? 国王付き秘書官って大変だな」
美波が出身を頑なに言わないでいたら、ジャックたちは業務上言ってはいけないことなんだと勝手に解釈していた。
「他には……そうだダンスの試験も来週あたりにあるんだった」
美波が思い出して言うと、全員がうへぇといった顔になった。
「僕たちも訓練の最後にはダンスの試験があるよね……」
「騎士団員がダンスなんか踊れる必要あんのか?」
「ジャック、訓練の最初に師団長が言ってただろう。1班は近衛にも配属される可能性があって、近衛騎士は国王に付いて外国に行った時に外交として踊らないといけない場面もあるって」
「あっ、だからアタシたちはダンスやってないんだ」
「……大人しくちょっ練習しますか……」
4人は室内練習場に向かった。
室内練習場には先客がいて2組がダンスの練習していた。
「先生は別のやつに教えてて空いてないな」
「ミナミに僕たち3人の相手をしてもらうしかないね」
「まぁミナミにもいい練習になるだろ」
こうして美波は代わる代わる3人のダンスの相手を務めることになった。
最初はジャックから。
「じゃあいくぞ。1、2、3。1、2、3」
声を出してテンポを取る。
「1、2、……痛っ!」
「悪い! 足踏んじまった! あー、マジでむずい!」
「男性側がリードしなくちゃいけないのに、そんなおっかなさそうに踊られたらこっちも合わせずらいよ。もっとこういう感じで__」
美波は腰に添えられていたジャックの手を肩に置き、自分はジャックの腰に手を添えて踊り出した。
「あーなるほど。ってか男性パートもできんのかよ!?」
「私はワンツーマンでみっちりしごかれてるからね。やってるうちに相手のも覚えた」
「すげー!」
「すごい!」
尊敬の眼差しを向けられて、美波は少し自信を取り戻した。
「ダンスは昔からやってたの? やっぱりミナってお嬢様?」
「6年くらいバレエをやってたから」
「へー! ダンサーを目指してたんだ?」
「いや? そういうわけじゃないけど」
みんな顔がキョトンとなる。
どうやらここでも文化の違いがあるらしいと気づいて美波は話を切り上げ、次はロビンの相手役をした。
「ミナミの足運びには、独特のものがあるな」
見学に回っていたナイジェルが指摘した。
「あっ分かる? バレエのクセがどうしても出ちゃって。先生には『バレエのクセを取って優雅さだけ残しなさい』って。難しいよ」
「大変だなぁ」
「今でもミナのダンスって綺麗だと思うんだけど。素人だから全然分かんないけどね!」
「アンに同意」
「ふふっ。ありがと」
ダンスの練習は夕方まで続いたのだった。
そして夜。
美波は宰相の執務室で歴史のテストを受けた。
「……30点」
採点し終わった宰相は苦い顔で呟いた。
「……いつもよりは点数高いよ?」
「再テストです。勉強し直してきてください」
『なりきり大作戦』は失敗に終わった。
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