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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
四幕 即位3年目ー4年目

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71 誘拐

 美波はフォスターとともに森の中をひたすら走った。あの地獄の新兵訓練をしていたこと、騎士団に放り込んでくれた宰相の英断に感謝しながら。

 ちょうど3年前にやっていたように常に脚に身体強化魔法をかけ、疲れたら回復魔法をかけ、息が乱れないように走る。当時と違うのはフォスターが併走していること、そして敵に追いつかれたら死ぬかもしれないということだ。

 しかし無情にも後ろから迫る騎馬の足音はどんどんと大きくなる。


 「ミナミ、速度を上げよう」

 「分かった」


 2人はこのまま港まで走るのは諦め、どこかに隠れてやり過ごせそうな場所を探すことにした。

 周囲に都合よく洞窟や小屋や民家がないか探しながら走るが、分け入っても分け入っても青い山が広がるばかりで何もない。だが敵はいよいよすぐそこまで迫ってきていた。


 「ミナミは木に登れる?」

 「え!? いや登れないけど!?」


 身体強化でも一番低い枝までも相当距離があり手が届きそうにない。


 「くっ、そうか。じゃあミナミはこの木の影に隠れてやり過ごして。見つかってもあなただけなら周辺の村人だと思ってもらえるかもしれない。私は上に登るけど絶対目は離さないから」

 「分かった」


 フォスターはこの辺りで一際大きな大木をスルスルと登っていき、美波はその木の影に蹲ってできるだけ敵の視界に入らないようにする。

 それから数分もしないうちに敵の一団がすぐそばまでやってきた。想像以上に数が多く、美波は探索魔法で人数を数えると50人ほどいるようだった。


 (一体総勢何人で襲撃してきたの? 何方向にも別れて逃げたのに数が多い! そもそもなんで追われてるわけ? ただの物取りなら別方向に走った馬車の方に向かうはず。しかも王家所有の馬車に乗ってた人間が、それを降りて徒歩で走って森の中を逃げるなんて普通想像もできないはず。ブンガラヤの常識に照らし合わせると、なにかおかしい)


 美波は息を殺して体を丸めて石のように動かぬよう全神経を使う。緊張で額に汗が滲む。


 「おい! 本当にこの辺りにいるのか!?」

 「あぁ、探索魔法に引っかかる反応がある」


 敵の中に少なくとも1人以上の魔術師いると分かり、美波は舌打ちしたい気持ちになった。


 (先制攻撃で魔法を使ってもせいぜい倒せるのは10人。攻撃した時点で私の居場所がバレるから戦闘になる。そうなったら完全に戦闘態勢にある40人を相手に魔法での接近戦は不可能)


 ゾルバダ皇城をたった3人で攻略したのとは状況が違う。あの時は数百人を相手にしたが奇襲だったため統制が取れておらず、フォスターとルークの前衛2人が奮闘する中、大技の魔法を2、3回使ってさらに敵を混乱させ、その隙に城内へ逃げ込み事なきを得た。

 いくらフォスターが強くても、前衛1人で接近戦に弱い美波を庇いながら戦うのは相当に難しい。打開策は浮かばなかった。


 「何人いるんだ?」

 「確かに1人はいる。悪いが俺の探索魔法はそう精度は高くないんでね」

 「チッ、まぁいい。テメェら! ここら一帯しらみつぶしに探すぞ!」


 事態は絶望的に思われた。もはや逃げることは叶わない。確実に見つかってしまうだろう。覚悟を決めるしかない。

 50人が散り散りになって探索魔法にかかった1人を探す。美波の方へも数人がどんどん近づいてくる。


 (神様! お願いだからなんとかして!)


 どの神に祈っているのかも分からないが、少なくともこの世界の神はアラミサルの廟におり、人の願いを聞いてくれる類のものではなかった。


 「女がいたぞ! おいお前、立て!!」


 男に発見された美波は腕を掴まれ、強い力で無理やり立たされる。腕から肩にかけて痛みが走るが声は出さなかった。

 美波は男に引きずられるように歩かされながらも、騎士団で使うハンドサインでフォスターにだけ分かるよう『待機』と伝える。

 連れてこられたのは一人の男の前だった。いかにも荒くれものといった風貌の男たちの中で、銀髪を長く伸ばしたその人物はハッとするほど整った顔をしていた。


 「おいおい、また一人お頭に落とされた女がいるぞ!」


 男の顔をじっと見ていた美波を、一人が揶揄い周囲もつられて馬鹿にしたように笑う。


 「お前は誰だ。どこから来た」


 銀髪の男が問う。


 「ミリーです。近くの村に住んでいて、山菜を採りに山に入ったのですが、具合が悪くなって休んでいました。……あの、あなたたちは?」


 美波はブンガラヤ風の名前を名乗り、見つかるまでに考えていた設定を話す。美波の顔色は緊張で青白く、具合が悪いという主張に信憑性を持たせた。


 「ここらの村には東方大陸からの移民もそれなりに住んでるし、嘘じゃねぇんじゃねっすか?」

 「おいおい、しっかりしてくれよ。こんなきっちりした身なりで山に入るやつがいるか?」


 リーダーと呼ばれる男が素直すぎる部下の言動を鼻で笑う。


 「私は家庭教師をしているので、普段からこの服装です」


 美波が着ているケリーの服は、国王付きの侍女らしく質も良く略礼装とされるものだ。

 家庭教師は中流階級の女性が就く職業で、その待遇によっては良い物を身につけられる可能性があった。


 「ふぅん。どこの家の家庭教師だ?」

 「私が住む村の地主の家です」


 美波はこの周辺にある村や街の名前までは覚えておらず、そうだと気づかれぬよう慎重に言葉を選ぶ必要があった。


 「今日この森で普段見かけない人間を見たか?」

 「いいえ、あなた方以外には」

 「へぇ」


 男は腕組みをして美波をじっと見つめる。美波は焼けつくようなその視線を黙って耐える。

 男は上から下まで美波を値踏みし、そして口元をゆっくりと歪ませた。


 「……っ、ハッ、あはは!」


 昼間にもかかわらず鬱蒼と茂る木々のせいで薄暗い森の中に男の笑い声だけが響く。


 「お前、やっぱそれで一般人って言い張るのは無理があるな」

 「……どういう意味ですか?」


 美波は目をぱちくりさせてすっとぼける。


 「普通、森の中で男に囲まれたら大抵の女は泣き喚いて逃げようとするだろう。しかもそれが明らかに一般人に見えない男たちなら尚更」

 「泣き喚いたってどうにもならないじゃないですか」

 「それだ」


 男は美波の顔の目の前で指差す。


 「肝が座りすぎてる。ありえないくらいにな。一体どんな修羅場潜ってきたらそうなるのかね」

 「家庭教師は人前で取り乱したりはしません」

 「ハハハ! お前どんな家庭教師をイメージしてるわけ? おもしれぇなマジで」


 男はスッと表情を消した。


 「お前は、アラミサルの女王だ」

 「ダニエル!!」


 美波は身を翻してフォスターの方へと駆け出す。彼も木から飛び降り、剣を抜きながら美波の方へと走る。


 「行かせるかよ!」


 銀髪の男も周りの男たちも一斉に剣を抜き美波に向かってくる。


 「私に近づくな! 火球!」


 美波は左右に火球を放ち、男たちを焼き払いながら、ただフォスターのほうへと足を動かす。

 彼も剣で男たちを薙ぎ払って進むが、数が多くもどかしいまでに美波に辿り着かない。


 「そこを退け!!」

 「言われて退くようなやつはいねぇよ!」


 男たちは意外にもそれなりの剣技を身につけており、それも美波たちにとっては最悪であった。


 「だったらこれは!? 水球!」


 美波は巨大な水球を放つが、木々の間に隠れられ上手く当たらない。


 「やっぱり戦い慣れてるな」


 すぐ後ろで男の声が聞こえた。


 「火球!」


 美波は振り向きざまにそれを当てようとするが、至近距離にも関わらず男は魔法を切って捨てる。


 「はぁ!?」

 「悪いな。こんな家業でも剣の腕は一級品でね」


 不敵に笑いながら鈍く光る刃を美波の首筋に当てた。


 「ミナミ!!」


 多数の敵を相手に切り結んでいたフォスターが、剣を向けられている美波を見て叫ぶ。

 抵抗する術を失った美波は両手を上げて降伏した。


 「私をどうするつもり?」

 「俺たちと一緒に来てもらう」

 「どこに?」

 「それは言えないな」

 「彼を殺さないって約束してくれるなら黙ってついていく」

 「ミナミやめてくれ!」


 フォスターはなおも男らを相手にし、屍を築きながら悲壮な表情で美波へ向かって歩く。


 「あの男を止めろ。仲間を殺されちゃたまらない」

 「約束は?」

 「俺は一度した約束は違えない」


 この男が信用できるのか判断はつかなかった。しかし2人が生き残る道は、あるかも分からないこの男の温情と誠実さに賭けるしかなかった。

 美波は自分の無力さが、ただ腹立たしかった。


 「ダニエル、止まって」

 「連れて行かせるわけがないだろう! どんな目に遭うか、殺されるかもしれないんだ!!」

 「ここで抵抗しても2人で死ぬだけかも」

 「それでも私は一人が生き残り、あなたが見知らぬ土地でひとり死ぬよりは余程いい!」


 彼は敵を倒しながら、必死に美波の元へと辿り着こうと剣を振るう。その体にはすでに多くの傷がつけられており、式典用の真っ白な軍服は敵と自身の夥しい量の血で悲惨なまでに染まっていた。

 美波にはフォスターが致命傷を受けているのか、それともギリギリで避けられているのかも判別できない。しかしこのままでは確実に命を落とすことは明白だった。


 「フォスター師団長」


 初めて聞く美波の威圧的な声に驚き、彼は動きを止めた。そして静かに美波を見返す。


 「これは命令です。フォスター師団長は速やかに国へ帰り、宰相に伝えてください。国王の権限を全て宰相と四部長官に移譲します」

 「……っ、それがあなたが望むことなのですか……?」


 美波はアラミサルに帰り自分を探すために部隊を編成してくれとは言わなかった。美波を探すか探さないかの決定も含めて宰相らに委ねたのだ。


 「そう。国王の仕事っていうのは、目の前にいる死にそうな5人を助けるために別の1人を殺す判断もする」


 美波の語気には否定を許さない響きがあった。

 一般的な国王の場合、血筋が何よりも重要なため国王がそれ以外の人間と命の天秤に乗ることはない。しかしアラミサルの国王はそうではない。


 「それでも……なぜご自分の命を投げ出してしまうのですか!?」


 冷静な美波に対し、フォスターの表情は痛々しい。


 「私かダニエル、どちらが生き残った方がアラミサルの国益になるか考えたら、ね」


 私情を挟まないその思考にフォスターはいよいよ何も言えなくなった。


 (私だって死にたいわけじゃない。痛いのも怖い思いもするのも嫌だ。だから国王として考えないと、みっともなく取り乱して何も考えられなくなりそうなだけだよ)


 「……国王陛下の御下命に従います。……っ、あなたを愛する男として、決して承服しかねる命令だけれど」


 フォスターは一つ瞬きをした。現れたのはずっと隠されていた恋をする男の瞳だった。


 「これが私の愛の示し方だ」

 「ダニエル……」


 美波は驚きに大きく目を見開き、何か言葉を紡ごうと口を開けるが何も言うことは出来なかった。


 「あんまりチンタラしてる時間はねぇんだ。さっさとついて来い。お前ら、常に数人でこいつ見張ってろ。絶対逃すな。もしも目ェ離したら生きたまま細切れにして馬の餌にしてやる」


 お頭と呼ばれる男の目がギラリと光り、仲間の男らが震え上がる。この男は命令でも言葉を違えたりはしないのだろう。


 「しっ、しかしこの女はここで殺す話だったはずだ」


 賊にしては妙に丁寧に話す男は、『お頭』に言い募る。


 「まぁな。けど、この国からいなくなってアイツらの前に二度と現れなきゃ死んだことになんだろ?」

 「話が違う!!」


 どうやら仲間内で美波の扱いを揉めているらしい。


 「ハッ! 俺らが馬鹿正直に従うとでも?」

 「あとで困るのはあなたですよ」

 「そんときゃそん時だ。これ以上楯突くならテメェも死ぬか?」


 『お頭』に剣を向けられ男は押し黙る。

 ひとまず殺されないことが確定し美波は安堵した。


 「おい、連れてけ」


 命令された別の部下の男2人は美波の両腕を掴み、フォスターの側から引き剥がし『お頭』の元へ連行していく。


 「あーあーあー、随分殺してくれちゃって。この馬どうするかねぇ。余った馬連れてくのも邪魔だしなぁ、置いていくか。オウサマは馬に乗れんのか?」


 男の呼び方には小馬鹿にしたような響きがあった。


 「乗れます」

 「へぇ、さすが貴族様ってわけか。じゃあ1人で乗るのを許可してやる。ただし逃走防止のためにも魔力阻害の首輪はしてもらう」


 話を聞いていた部下がすぐに彼らの荷物の入った木箱から鉄製の輪を取り出して男に渡す。首輪には特徴的な模様が刻まれ、一部分が左右に開いて首に装着できるようになっている。装着した後に首輪のへこんだ部分に魔石を埋め込むと外れない仕組みになっている。

 その物の存在は美波も話には聞いて知っていた。


 (これ騎士団の座学で見た……。確か捕まった被疑者とか刑務所の収容者がつけられる物のはず。不正利用防止のために製造方法は国家機密で騎士団や刑務所にしかあるはずのない……)


 男はそれを美波の首に装着し、加えて逃げられないようにそれに縄までつけた。


 「この首輪は付けた人間、つまり俺しか外せない」


 相手の方が犯罪者であるはずなのに、犯罪者か何かのような扱いに反発心が湧き上がる。しかし賊の『物』になった美波には抵抗も反論も許されていない。もっとも魔法を封じられた美波に戦闘力などないに等しく、抵抗などしようものならどんな目に遭うか分からない。男はそんな狂気を漂わせていた。


 「行くぞ」


 クイっと縄を引っ張られれば抵抗などできない。美波は諾々と当てがわれた馬に乗り手綱を握った。男も馬に乗り手綱を引き走り出す。

 ついて行かねば落馬し、最悪引きずられるはめになるだろう。大人しく美波も男の後に付いて走る。

 美波は一度もフォスターの方を振り返らなかった。絶望に染まっているであろう表情を見たくはなかったから。

 そしてフォスターは美波が森の中に消えていくのを、ただ拳を震わせ見ていることしか出来なかった。

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