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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
四幕 即位3年目ー4年目

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66 ブンガラヤ王国の晩餐会

 ブンガラヤの晩餐会の形式は、アラミサルで行われるものとそう大差はなかった。入り口から一番奥に配置された長机の中央に座るのは、この晩餐会の主催者である王太后、その左隣には招待客の中で最も位の高い美波が座り、右側にはブンガラヤ国王、そして同じテーブルには王太后の亡くなった夫であり前国王の兄弟らも横並びに座っていた。美波や王族の面々は、そのテーブルに対して垂直に並べられた2つの招待客用テーブルの方を見るように座っている。


 (この宮殿もだけど、その中にいる貴族たちの衣装も派手ですっごい見応えある。さながら動く西洋絵画?)


 席に着く貴族らは男女ともに色鮮やかな衣装に身を包み会話に興じている。

 衣装もだが、アラミサルとの唯一にして最大の違いは、この場には貴族しかいないという点であった。アラミサルで晩餐会が開かれる場合には身分問わず要職に就いている者が招待されるが、ブンガラヤの慣習では王族と同じ空間に平民がいることは出来ない。したがって招待客用テーブル前方にはフォスターと近衛隊員が2人いるが、マクティアやクライヴもいなかった。


 (この国では人柄や能力より生まれを重要視する。そういう文化だと言ってしまえばそれまでだけど、私の近衛兵たちにそんなことで差をつけないで欲しいなぁ)


 晩餐会に参加出来なかったメンバーには埋め合わせをしないといけないなと考える。いくら仕事で楽しいだけの場ではないとはいえ、特定の人だけ贅を尽くした食事が出来るというのは不公平だ。


 「皆さん」


 王太后が一声に美波は考え事を中断する。鶴の一声で場は水を打ったように静まり返った。

 王太后は御歳45で、美波の感覚では若くはない、年相応に見えた。しかし身につけている衣装は少々年齢にそぐわないように感じられる。ペールピンクのドレスはフリルやレース、繊細な刺繍で覆われ、数えきれないほどの宝石が縫い付つけてある。そして首元を飾るネックレスや存在感がありすぎる指輪と、総額を考えると美波は『アラミサルの今年度当初予算の何割……?』と感嘆を超えてもはや恐怖を感じた。

 この国では、未だに財力を示すことで王族が貴族や平民を従わせているのだ。


 「本日は皆さんがお知りの通り、アラミサル女王が我が国にいらっしゃった」


 その言葉に貴族らは王太后に向けていた視線を一斉に美波の方へと向ける。

 美波はニコリともせず泰然とそれを受け止めた。

 王宮に着きまだ数時間だが、美波はこの国のルールを大枠では把握出来ていた。

 親しくもない下の身分の者に対して美波がアラミサルで見せているような親しみやすい笑顔を作ろうものなら、ブンガラヤ王族や貴族は美波を王として扱いはしない、ということだ。


 「女王には我が国の(すい)を集めた料理を味わっていただこう。このように(ぜい)を凝らし目にも美しい料理はきっと初めてでしょう。ゆっくり楽しんでいらして?」


 王太后は美波の方に顔を向けて美しい笑みを浮かべた。

 明らかな侮辱である。王太后は招きを断った美波を敵と見做したらしい。


 「ありがとうございます。西の三公国の太公やカディス皇帝が絶賛したウチの料理を超えるものが食べられるなんて楽しみです」


 王太后からの挑戦状を受け取り、早速ジャブを打ち返す。


 (両国の関係が悪化しても問題ないと王太后は考えてるんだろうか?)


 美波はジャブを打つ前に、買っても大丈夫な喧嘩かどうかは一応斟酌している。

 現在アラミサルが絶対に交易を保っておきたいのは魔石の輸入先であるゾルバダ帝国である。カディス帝国も取引額が大きいため、これもなくなれば経済的な損失は大きい。一方でブンガラヤは東方大陸との重要な貿易拠点ではあるが、ブンガラヤ経由でアラミサルに入ってくる品物はそう多くない。一番打撃を受けるのは、たまに城の料理人に和食を作ってもらい舌鼓を打っている美波だろう。安全保障上ではカディスと手を組まれれば厄介だが、アラミサルもすでにゾルバダ、西の三国と同盟を組んでおり戦力に不安はない。

 嫌味を嫌味で打ち返された王太后は顔を真っ赤にして絶句した。


 (確か王太后は東のムク公国現大公の妹だったっけ。文字通りお姫様育ちで、結婚してブンガラヤの王太子妃になった。尊大な自尊心を無傷のまま育て上げたって感じ?)


 美波は宰相から渡された資料を頭の中で紐解く。

 宰相が把握している限りで、夫であった国王が治めていた時代では王太后は政治に口を出すようなことはなかったらしい。つまりここまで増大したのは前国王が亡くなった5年前からである。

 日本にいた頃もアラミサルにも王太后のようなタイプの人間と関わることがなかった美波は、彼女を面白く感じていた。それは大学卒業から今まで会社員として、国王として様々な人間と仕事をしてきたことに裏打ちされる余裕ゆえでもある。

 美波は王太后の不機嫌オーラを右半身に受けながら、給仕の運んできた前菜を口に運ぶ。

 アラミサルと同じくらいのレベルはあるなと評価して視線を前に向けると、苦笑するフォスターと目が合った。

 美波は口角を上げて口の動きで『この王太后サマ面白いよね』と伝えると、彼は『また悪い顔をしている』と返した。




 晩餐会は進み、美波その間王太后と言葉を交わすことはなかった。美波を無視することに決めたらしい王太后は右隣の息子であるフィリップ国王とばかり話した。美波も自分の親ほどの年齢であり敵視している人間に対して和やかに会話出来るような高等話術は持っていない。

 美波は黙食でも全く気にしなかったが、同じテーブルの王太后以外はそうではなかった。大国の国王を自国に招待しておいて相手をしないなど侮辱と捉えられ外交問題になりかねない。したがって美波をもてなすという大役は席次の都合で左隣の前国王の弟であるシャルルに押しつけられた。


 「アラミサル女王陛下におかれましては、我が国に滞在中にサクラをご覧になるそうで」


 王子として生まれた彼の人生の中でここまで下手に出たことはあっただろうか。分別のない親族を持つと大変だと同情心が湧く。


 「えぇ、その予定です」


 美波が笑顔を作るとシャルルは明らかなホッとした顔をした。


 「でしたら王都のセイネ川沿いにあるサクラ並木をぜひご覧ください。この季節では国で一番綺麗な場所です」


 セイネ川はブンガラヤ北西部から王都を通り海へと流れる王国内最大の河川である。


 「それは楽しみです。明日は国王陛下との会談があって3日後には帰国しないといけないので、明後日にでも行けたらいいんですけど」

 「お忙しいのですね。我が国には他にも素晴らしい場所や建築物もあるのですが、せめてサクラだけでもゆっくり見ていってください」

 「そうします」




 主にシャルル殿下の頑張りにより晩餐会は和やかに進み、デザートまで堪能した参加者はそのまま舞踏会会場へと移動する。

 王族は衣装を変えてから参加するしきたりになっており、美波もそれに従ってフォスターらと共に一度客室へと戻ることになった。

 ブンガラヤ貴族と違い、フォスターらは式典用の軍服に身を包んでおり、美波は『アラミサル勢の方が格好いい』と内心で勝ち誇った。


 「シャルル殿下とは何を話していたんですか?」

 「桜のおすすめスポットの話と、それから今度は殿下がアラミサルを訪問したいって。これは社交辞令かな?」

 「どうでしょうね? 関係強化のためにも交流が増えるのは歓迎ですが」

 「フォスター師団長は正面に座ってたお嬢さんと楽しげに喋ってたよね。何話してたの?」

 「見てたんですか。結婚してるのかとか、この後の舞踏会で一緒に踊ってくれと言われましたが仕事を口実に断りました」


 美波はもうひとりの騎士と顔を見合わせて揃って肩を竦めた。


 「モテるねぇ。まぁこれだけ顔が良い未婚の32歳がいたら、とりあえず結婚しよって言うよね」

 「陛下に言われた記憶はありませんが」

 「私がそんなこと言ったら宰相が秒速で結婚式の準備に取りかかっちゃうじゃん」

 「宰相閣下は陛下を結婚させたがっているんですか?」

 「はっきりと言うわけじゃないけど、文官でも武官でも気に入ってる部下が執務室に来た時、退室した後で唐突にその人の名前とか年齢、経歴から家族構成まで説明し出すの。口頭で釣書読んでんの? って感じよ」


 フォスターらは顔を引きつらせた。


 「私は家族も友達も日本に置いてこの世界に来たからさ。宰相はこの世界で家族を作ってほしいって思ってるのかも」

 「陛下……」

 「それか未だに日本に未練があって、帰る方法が見つかったら全部捨てて帰っちゃうとでも思ってるのかな。そんな無責任なことしないのに」


 『信用されてない?』と言ってクスリと笑う。

 美波がこの世界に来てからの1年間は騎士団の訓練に冒険者生活、慣れない執務にゾルバダへ潜入したりと息つく暇もなく動き回り、恋愛や結婚について考える余裕は微塵もなかった。しかしアラミサルで2年を過ごした今では心境も少し変わってきている。


 「でもさ、実際私と結婚してもいいって人いると思う?」

 「いたじゃないですか。記憶から抹消しないでください」


 フォスターが自分のことは一旦置いておいて、すかさず訂正を入れる。


 「あー、ダギー大公……あれはね、ちょっと現実的じゃないっていうか?」


 美波はダギー大公のことを嫌ってはいない。煌びやかな美形ではあるし、話してみると素直で優しいところもある。しかしシンデレラ願望もない身としては、国主との結婚で予想されるお世継ぎ問題など妃としての数々の義務が煩わしい。


 「むしろ現実的では? 他国の歴史でも2国の王が婚姻を結んで領土を拡大していったなんてことはありますよ」

 「アラミサルって領土拡大する必要ある?」

 「ないですね」

 「それに婚姻政策って、どちらかの国の王が死んだらその土地を貰えるとか、生まれた子供が王位を継ぐことで結果的に同じ血族が両方の国を統治する状況になるとかだよね。アラミサルでは成り立たないんじゃない?」

 「そうですね。我が国の王は神がお選びになりますから」


 フォスターは何が言いたいんだろうと美波は眉を顰め、自分より遥かに高い位置にある顔を見上げた。


 「陛下のこと、気になってる男はけっこういるんですよ?」

 「は!?」


 美波の本気の発声が廊下に響き渡る。

 驚きのあまり足を止めてしまった美波の背に、フォスターが手を回して歩みを進ませた。


 「自覚がなさそうなのは分かっていましたが、そこまで驚かなくても」

 「いやいやいや! それ誰のこと!? 大して可愛くも美人でもない31歳だよ? 確かに異世界から来て国王やってる毛色の変わった人間だけど。もしかして『おもしれぇ女』枠!?」


 大学生の頃は人並みに彼氏を作ってデートなどもしていたが、社会人になってその彼氏とも成り行きで交際が終わり、それから誰とも付き合わず今に至っている。自分がモテるなど『もしもボックス』でも使わない限りあり得ないと思っている。


 「そんな全力で否定しなくても」

 「っていうか恋ってどうやるんだっけ? 人ってどうやって好きになるんだっけ? ダメだ思い出せない!」


 美波は混乱して自分で自分を攻撃した、りはしないが結婚など程遠く感じた。


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