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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
四幕 即位3年目ー4年目

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63 初めての教え子

今回はフォスター視点です

 マクティア近衛隊長が決めた部屋の割り振りに従って、1等客室にある美波の隣部屋に腰を落ち着けていたフォスターは、ドアの開閉音で美波が部屋を出たことを察知した。


 (陛下には好奇心旺盛なところがある。船内の探索にでも行ったかな)


 人の出入りもなく、特定の人間しかいない航行中の船内では付きっきりの護衛も必要ない。フォスターは美波の好きにさせることにした。

 しかし、そろそろ夕食の時間という時になっても戻ってくる気配がない。


 (陛下はトラブルを引き寄せるというか、自ら突っ込んで行くところがあるからな……)


 フォスターは厄介なことに巻き込まれていないことを祈りつつ客室を出た。




 船内の近衛隊長や、比較的美波と仲の良い騎士のクライヴの部屋も確認して回ったものの美波はおらず、フォスターはデッキに足を向けた。


 (子供でもないし、お腹が空いたら食堂に来るだろうとは思うが放っておけない)


 そう思ってふと立ち止まる。そして、どうして自分はこんなに美波に構ってしまうのかと自問した。


 (以前陛下にも申し上げた通り、望んだわけでもない王位に就き、その重責を立派に務めておられるあの方を助けずにはおられない。だとしても少々構いすぎているのは否めない)


 この答えにひとまず納得して、フォスターは再び歩みを進め、デッキで夕陽に照らされオレンジ色に染まる美波の後ろ姿を見つけた。昼間の失敗を活かし、髪を束ねていることに気づき、自然と笑みが浮かぶ。

 そう、姿が見えただけで喜んでいるのだ。

 フォスターは自分の表情、そして心の動きにハッとして片手で口元を覆い隠した。


 (髪型の変化に気づき、その姿が見えるだけで表情が緩む。これが恋ではないなら何がある?)


 フォスターは自分の中に知らず育っていた感情を自覚した。


 (思えば、年末に暇を囲っていた陛下を城下に連れ出したのも、あの方のためだけではなく、自分が一緒に過ごしたかったからだ)


 なんと下手な言い訳だろうと自嘲する。

 それにしても、自分はいつから惹かれていたのだろう。

 彼女のことを知ったのは実際に会うよりも少し前だった。騎士団長によってその年の新兵訓練の担当教官が集められた時だ。



 騎士団長室に集められたのは、今年の指導教官を任じられた10人だった。

 教官の中で肩書きでは第1師団長である自分が一番上で、他には連隊長、大隊長、中隊長、小隊長と各階級から満遍なく集められている。

 陛下が雑談の折に指摘していたが、我が国の騎士団には『ジエイタイ』という組織ほど細かい階級分けはされていない。一番上に騎士団長、その下に1万からなる5つの師団があり、師団は2千人で構成される連隊、500人の大隊、100人の中隊、50人の小隊で作られる。そして隊にはそれぞれ隊長が任命されている。

 今年集められた教官も例年通り、上は50歳(定年は55歳である)から下は25歳と幅が広い。ベテラン勢には指導力を、若手には新人の良い相談相手になるようにと期待されていた。

 その中で、私が指導教官に当たるのは今回が初めてだった。王都学院の騎士科を卒業した者は中隊長からのスタートになるが、私は特別隊に入隊してすぐに起こったカディス帝国の侵攻で功績を立てたということで一足飛びに師団長になり余裕がなかったため、指導教官の話を受けることが出来ていなかった。

 その初めての指導で、受け持つことになった班に文官志望の女性が1人、特例で1班の訓練に混ざることを団長から聞かされた。


 「その人は憲兵か領兵をしていたのですか?」

 「いや、宰相閣下によると従軍経験もそれに近い経験も全くないようだ」


 女性が1班の訓練に参加することは滅多にない。私が騎士団に入ってからも2、3年に1人いるかどうかといった具合だ。しかもその女性らも新入隊員ではなく、入隊して経験を積んでから改めて近衛か特別隊への転属希望を出して、それが許可されると春の新兵訓練に混ざって1班での訓練を受け、課程を修了して晴れて転属となる。自ずと新入隊員の1班希望者は体力自慢ばかりになる。それでも毎年何人も脱落者が出るのだ。とてもついていけるとは思えない。


 「数日で脱落するのは目に見えていると思いますが」


 ベテランの大隊長も無体な命令には承服しかねるようだった。


 「俺も無茶だと申し上げはしたんだが、閣下はとにかく訓練を受けさせろと。ったく期待値が高すぎんだろ。まぁそれはいい。その方……その人はミナミ・カイベと言うんだが、先日俺が魔力の確認をしたんだが、結論から言えばあり得ないくらい多かった」

 「あり得ないとはどれくらいです?」


 私と同じく1班の指導を担当する隊長が尋ねた。


 「騎士団(うち)で一番魔力量が多いのは特別隊のバーンズだったな。あれの5倍くらいか? 簡易測定器で測っただけだから何とも言えんな。上手くコントロール出来れば魔力量が少なくても高火力の魔法を使うことも出来るからな」


 バーンズの魔力量は国内随一だ。その5倍というだけで規格外であることは間違いなかった。


 「そんな奴に文官させとくなんて勿体無いじゃないですか! 正式に騎士団に入ってもらいましょうよ」


 若手の中隊長からの声に団長が苦笑を閃かせる。


 「それは無理な相談だ。諦めろ」

 「なぜ?」

 「それ以上は聞かれても今は答えられん。まぁ何故かはお前らもそのうち分かる」


 その理由を私は貴族の一員として参加していた戴冠式で知ることになった。


 「でだ、宰相閣下の命令には従わねばならんが、一般人をシゴキ倒して潰す趣味もねぇ。って事で1班の担当は初っ端に魔法の座学と実践をやって筋力強化を覚えさせろ。それでもキツイだろうがマシにはなるだろう」

 「基礎体力錬成は?」

 「あからさまな贔屓は班内で揉める原因になる。ある程度は筋力強化を使わせて乗り切らせろ。筋トレの回数は多少減らしてやってもいい。それと本人のためにも魔法と逮捕術で使う体術は出来るようになっておいた方がいい」


 その理由を問うても答えはないだろうと私たちは考え、追求はしなかった。

 そういう経緯があり、彼女は新兵訓練前から注目されていたのだった。




 最初にミナミと話したのは訓練が3カ月目に入った頃だった。

 彼女の魔力はどれだけ魔法を使わせても切れる気配がないと教官らの間で話題となっていた。何か特別なことをしているのではないかと思われたが、いずれの隊長も聞き出すタイミングが掴めないという。


 「フォスター師団長が代表して聞いてみてくれないか?」


 訓練終了後に毎日行われる教官が集まってのミーティングで、ベテランの大隊長からそう頼まれた。


 「なぜ私が……? それに話しかけるのを躊躇う理由もよく分からないのですが」

 「いやぁ可愛い子に、あからさまに話したくないですって顔されながら会話すんのって精神的にダメージデカいんですよ。それに休憩になるとすぐいなくなっちゃうし。でも師団長ならガードを掻い潜っていけそうだなと思いまして」


 何故私なら大丈夫だと思われたのかは分からないが、若手中隊長の言葉に他の教官らも頷いて同意していた。

 望んで入隊したわけではなかったからだろう。あの頃のミナミは、特に教官らと壁を作っていたように思う。休憩時間にはすぐどこかに行ってしまって、なるほど確かに捕まえづらかった。そこで私は30キロ走の間に聞くことにした。今思えば走りながらの会話は彼女にとって非常に大儀であったと思う。訓練が終わってから話があるとでも言えばよかったと反省している。


 「カイベはなぜ魔力が枯渇しないんだ?」


 私の質問に、ミナミは答えるのが面倒だというのを全く隠さなかった。正規隊員なら上官への反抗的な態度は許されないが、彼女のすることは多少大目に見ることにしていた。自ら望まず参加させられている過酷な訓練から逃げずにいるのだから、それくらいは許してもいいだろうと思っていた。

 話してみると面白い考え方をする人間だということが分かった。今まで魔法をこのように学問として捉えて行使した者がいただろうか。さすがは宰相閣下に目をかけられているだけのことはあると感心したものだった。そしてミナミが異世界から来たことを知った時には納得した。

 その後、訓練期間中に再び話をする機会はなく、次に言葉を交わしたのは戴冠式が終わったすぐの頃、近衛隊長を訪ねて国王の間の隣にある近衛隊の控室に向かっていた時だった。

 廊下に出された家具や調度品にギョッとして部屋の中を改めると、ミナミと騎士が床を磨いていた。部屋では靴を脱いで過ごしたいという彼女に、改めて遠いところから来た方なのだと気づかされた。

 彼女が日々の執務をどのように行い、どのような生活をしているのかを知る者は宰相閣下や国王付き近衛騎士に限られている。私も知ることはなかった。

 それなのに、私はいつから彼女に好意を寄せていたのだろう。3年前に2人で城下に出かけた時だろうか。いや、あの時はまだ指導教官をやっていた名残もあり、教え子や妹に対するような感覚で助けてやりたい、守ってやらねばという気持ちだった。

 見方が変わったのはおそらくあの時だ。今も脳裏に強く残っているミナミの姿。ゾルバダ帝国に潜入した時、ルークが口にした『革命軍の殲滅』を断固として受け入れなかった。

 あの時の強い意志を感じさせる表情。木漏れ日の中できらりと光る瞳。それでいて白く柔らかそうな頬は高揚し赤く染まり、そのアンバランスさが私の胸を騒がせた。しかしその感情の揺れについて深く考える時間はその時の私にはなかった。陛下と私とルークの3人でゾルバダの政治体制を変える作戦行動の完遂が何よりも優先されるべきであった。

 帰国してからも事後処理に忙しく、それが終わり日常に戻っていく中で、私はミナミに対する感情をどこかにしまい込んだまま今日まで来てしまっていたようだ。




 「陛下、ご気分が優れませんか?」


 フォスターは船尾楼を出て、舷縁に寄りかかって立つ美波に並び立った。


 「ううん、城の常駐医に貰った酔い止めは飲んでるし大丈夫だよ」

 「そうですか。それなら良かった」


 気の利いた返答ができない自分がもどかしい。


 「ダニエルも景色を見に来たの? だったらナイスタイミング。ほら、見て。この空の色はどんなに腕のいい染色職人でも表現できないよ」


 2人の時にだけ使う呼び名を口に乗せて、美波は北側を指差す。

 私は言われてようやくそれが目に入った。どうやら自分の視界にはミナミしか入っていなかったらしい。恋を自覚した途端に視野狭窄に陥るとは、私という男は何と分かりやすい。


 「あぁ、本当だ。水平線に沈む夕日がよく見える」


 景色を見ながらそっと彼女を窺うと、どことなく表情に翳りがあるような気がした。


 「何か、ありましたか?」


 私が水を向けると美波は困ったように笑った。


 「やっぱりダニエルの目は誤魔化せないなぁ。……ここのところ、ずっと思考が堂々巡りしちゃってて」

 「何を悩まれているんですか?」

 「国をもっと、より良くするためにはどうすればいいんだろうって。アラミサルはさ、他の国よりも豊かで生活水準も高いけど、明日食べるものがなくて困るような人もいないわけじゃないし、育ての親に恵まれなかった子供たちもいる。教育を受けられなくて文字が読めない人もいる。犯罪は日々起っていて、その被害に遭う人がいる」


 美波は深く息を吸って、気持ちを落ち着けながら話を続けた。


 「全ての人が幸せに暮らせる楽園なんて作れないことは分かってる。だけどちょっとでも良くにするのが私の仕事でしょ? でも何から手をつけたらいいんだろう」


 事は国のことだ。大きすぎる悩みにフォスターは唸った。


 (簡単に答えられるようなものではない。さりとて無難な回答を求めているわけではないだろう)


 そもそも私が憂いの原因を聞いたから答えただけで、回答さえ求めていないかもしれない。それでも私は考えながら口を開いた。


 「私も国の将来については折に触れて考えますよ。これでも国防を担う騎士団の師団長ですから」


 美波は続きを促すようにフォスターを見つめた。


 「騎士団ももちろん完璧ではありません。陛下が軍拡路線を採ったので人員強化が急務です。しかし質が悪くなっては意味がないですから、採用方法や新兵訓練もイチから見直していますし」

 「ご負担をおかけしてまして……」


 美波は気まずそうに目線を逸らした。


 「国のために働くのが私たちの仕事ですからいいんです。そう、つまり国の将来を考えているのは陛下だけではありません。騎士団長ももちろんそうですし、城で働いている文官もです」


 逸された目線が再びフォスターと交わった。


 「もっと周りにいる人間に頼ってください。そして一緒に考えましょう。そうして出した結論が、後の世で間違っていたと言われたら一緒に詰られて差し上げます」


 彼女の問いに明確な答えをあげることは出来なかったが、支えになりたいという気持ちが伝わればいい。


 「そうだった。前も私が落ち込んでたらダニエルもルークもすぐ気づいて励ましてくれたんだった。しかもルークの励まし方の物慣れなさといったら」

 「言っていることはまともでしたが、顔が若干引き攣ってましたね」

 「あはは! そうそう。……忘れてたよ。私はいっつも誰かに支えて貰ってる。もう一人で悩むのはやめだ! 迷ったら誰かに相談するし、皆の知恵をもってしても解決できない事ならこの時代の誰にも解決できない。その時は私が責任を持って土下座でもギロチンでも何でも甘んじて受け入れるよ」


 迷い沈んでいた瞳に光が差し、透き通った表情へと変わる。美波はまた一歩、前へと進み出したようだった。私も微笑みを返す。


 「ギロチンは受け入れ難いな。その時は私が命を賭けて逃します」


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