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5 勉強法を生み出した

 「覚えられないーーー!!!」


 美波は騎士団の寮の自室で机に向かいながら頭を掻きむしる。


 「ちょっと、大丈夫? 何してるの?」


 ベッドでゴロゴロと恋愛小説を読んでいたアンが心配して声をかけた。


 「70ある貴族家全員の名前と姻戚関係を覚えないといけないんだけど全然頭に入らない!! 大体、外国人の名前なんかそもそも馴染みないんだわ。覚えらんないんだわ。あんのクッソ宰相。これ全部覚えろとかマジで鬼畜。殴りたい、あのすまし顔」


 美波は拳を握りしめてワナワナと震える。


 「あの宰相閣下を殴りたいとか言えるのミナミくらいだと思うわ。……じゃあ、あたしがミナミのノート見て質問出してあげよっか? そしたら覚えやすいかも」


 アンはノートに何十ページにもわたり描かれた家系図を見てげんなりする。


 「自国民のあたしだって覚えてないのに。王城の文官って大変なんだね。あたしには絶対無理。じゃなくて……えぇっと、どれにしようかなー。じゃあマーロウ家の当主と配偶者、子供を長子から順番にどうぞ!」

 「えー、ウィリアム、ソニア、ソフィー、ハリー、マシュー」


 美波は思い出そうとして、天井を睨みながら答える。


 「惜しい。妻がソフィーでソニアは長女だよ」

 「うぐぅ、こんなニアミスでも宰相は許してくれないんだよーー」


 美波は顔を覆って項垂れる。


 「姻戚関係はどこまで覚えた?」

 「歴史の古い家を中心に10家くらいはなんとか。もう駄目だ。死ぬ」


 椅子から立って窓の方へゆらりと近寄る美波に慌ててアンがベッドから飛び起き、美波の体に腕を回して全力で引き止める。


 「待って待って待って!! 死ぬな! なんかもっとこう、いい感じの勉強法考えよ!? ね?」


 美波に抱きつきながらアンが必死に説得する。


 「いい勉強法って何さー」

 「ミナミ、今までの勉強はどうやってたの?」


 アンは、今までろくに勉強してこなかったから教えて?と可愛く小首を傾げる。


 「うーん、ノートに書いたり、練習問題を解いたり、暗記なら単語カードとか……あっ、いいこと思いついた!!」


 死にそうな顔から、一瞬で得意げな顔になった美波は、勢いよくアンの方を振り向く。


 「ちょっと売店行ってくる!」


 アンの返事も聞かず、言うが早いか財布を持って部屋を飛び出した。


 城内の売店では食料品や衣料品、文具や画材など欲しいものは大抵どころか、誰が買うのか分からないようなものまで何でも揃っている。

 美波はまず『ある物』の代用になりそうな赤くて透けてる物を探すため、広い店内の棚を隅から隅まで見ていく。

 衣類コーナーと食品コーナーは素通りして画材コーナーを見る。いくつもある棚には多種多様な絵の具や筆、キャンパスがずらりと置いてあった。用途別に置いてあるカラフルな顔料は見ているだけで楽しい。


 (休みの日に絵を描く人もいるのかな)


 次に日用品・雑貨コーナーを見てみると洗剤や食器、ポーションや魔石などが置いてあった。ここにはなさそうだと判断し次へ行く。

 工芸コーナーには木材、トンカチ、ノコギリ、ペンキ、などホームセンターのような品揃えだ。


 (これを個人で買うってことは、DIYでも流行ってるのかな?)


 実ははなんらかの原因で誤って隊舎の備品を壊した団員が修理するために購入していたりする。

 隅々まで目を凝らしながら使えそうな物を探す。すると木材の隣に15センチ四方のガラス板が置いてあった。


 (使えそうなのはこれくらいだなぁ。買ってみるか)


 美波は画材コーナーで不透明な赤い顔料を、文具コーナーの万年筆とオレンジみのある赤インクも持ってきて一緒に購入する。ガラスはそれなりに高価であるため、1カ月ごとに手渡して支給される騎士団からの給料をそれなりに使ってしまった。


 自室の机でガラス板に赤い顔料を塗り、改めて紙に貴族家の家系図を描き名前の部分は穴あきにしておく。そしてその空白を赤色のペンで埋めて完成だ。


 「できた! 暗記用赤シートと穴あき問題!」


 ガラス製の自作赤シートで赤い字が隠れるか確認する。


 「見てアン! これで効率よく覚えられそうだよ〜!」


 ベッドの上から美波が工作しているのを見ていたアンが近づいて見る。


 「すごい! 赤いペンで書いた部分が見えない! すごいよこれ!」


 アンが繰り返し隠したり外したりして遊ぶ。


 「こんなの作っちゃうなんてすごいよ! こんなアイデアどこから出てきたの?」

 「アンが今までの勉強法を聞いてくれたでしょ? それで思い出して。私の国の学生は皆こうやって勉強してたんだ」


 美波の国はすごいねと言いながらアンはしきりに感心している。


 後日、驚異的なスピードで70の貴族家と姻戚関係を覚えた美波は宰相に不正を疑われたが、赤シートの勉強を教えたところ少し驚いた顔をして、そのレア過ぎる表情を見た美波がさらに驚くといったことが起こった。

 そして宰相はこの勉強法を王国中の学校で導入させたということは、美波はまだ知る由もない。


自作赤シートが作れる不透明度が低い赤顔料とは一体……?

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