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45 進むべき道

 吐く息も白く、寒さに身を震わせながら、美波たち3人は乗合馬車を乗り継ぎ、無事ゾルバダの国境門に到着した。

 国境門の入り口には検問が置かれ、兵士が入国者全員に入国理由を聞き、商売での入国の場合は証明書などの提示を義務づけているようだった。

 20分くらい待ち、美波たちの番になる。


 『入国の目的は?』


 美波は「すごい! 日本語に聞こえるけど空港の入国審査っぽい!」などと謎に感動していた。


 『sightseeing……じゃなかった。観光です』


 ここで仕事ですとか、ましてや義勇兵として反帝国組織に参加しにやってきましたなどと言ってはいけない。入国審査での回答は観光1択だ。特にゾルバダでの入国審査時に義勇兵だとバレた日には逮捕され、その後は命があるかどうかさえ定かではない。共産主義国家で民主化を訴える以上に、この世界で帝国を倒すというのは高い壁がある。

 無事入国審査をクリアした美波はゾルバダの街並みをそれこそ観光客よろしく眺める。

 アラミサルの建築は国風を表すように自由で華やかな某ネズミの国風であるのに対し、ゾルバダは重厚で歴史を感じさせる。




 「2人ともゾルバダ語は大丈夫そう? 私は全部日本語に聞こえるからイマイチよく分からないけど」

 「相変わらずのバケモンっぷりで」

 「道中買った『初級ゾルバダ語』の内容は私もルークも暗記してある」

 「さすが。頭いい人たちはすごいなぁ」


 半月の移動中に2人は日常会話程度のゾルバダ語は習得していたのだった。ルークもフォスターも初等教育の後は王都学院に通っていた秀才で、ザ・一般人の美波とは頭の出来が違う。



 宰相は美波がゾルバダへ行くことに決めてからすぐに密偵を送り込んでおり、3人はゾルバダに着いてすぐその密偵と接触した。密偵はガイスラー領の領主が反帝国組織をまとめているという話を得ていた。皇帝はそれに対し、近日中に軍を派遣し鎮圧するつもりらしく、ゾルバダ帝国皇城に動きがあるとのことだった。

 美波たちはゾルバダ帝都からまた乗合馬車に乗り、ガイスラーへと向かった。


 馬車から見えるゾルバダの景色を見ながら、美波は帝国民の様子を観察していた。


 「ガイスラー公爵はなんで反帝国組織を作ったんだろう」


 その言葉に、フォスターが出発前に調べておいたゾルバダの内情を話して聞かせる。

 ガイスラー領を含む、ゾルバダ国内には魔石の採掘量がほとんどない領地がある。また、ゾルバダの魔石採掘は国が主導で行なっており、どこの領で採掘されても一旦は国へ上納される。そして他国へ売られた後、採掘量に応じて国から各領へ金が支払われるようになっている。

 よって、貴族には税の支払い義務がない国家制度のため、魔石の利益で贅沢三昧の貴族がいる一方、困窮し先祖から受け継いだ領地を手放さざるを得ない貴族もいる。ガイスラー公爵は後者であった。

 そして、魔石は貴族が使う分を除いて全て他国に売ってしまうため平民はその恩恵を得られていない。

 また、ゾルバダは厳格な身分社会で、貴族と平民との間には越えられない壁がある。そしてその貴族は平民の暮らしなど斟酌せず、富を思うまま貪り贅沢の限りを尽くしている。

 そのような社会の中で、貴族との格差や貧しさで怒りに燃える平民を、ガイスラー公爵は皇帝へ向けようとしているのではないか、というのがフォスターの推測であった。




 帝都を出て4日。美波たちはガイスラー領まであと1日という距離までやってきた。

 ゾルバダ入国後は目立たないよう、前日までと同様に一般の旅行者が泊まるような、高くもなく安すぎもしない宿で3部屋を取って宿泊する。

 ゾルバダでそれなりの宿に泊まろうと思うとアラミサルよりも金額が高くなる。それは平民は魔石の恩恵に与れず、飲み水を確保することや洗濯や料理など生活をするための労力が非常に大きいからだ。普通そういった後進国と呼ばれる国は物価が安くなるものだが、ゾルバダは魔石による利益で国内に金が大量にあるためインフレ傾向にあった。それがますます平民の生活を苦しめるという悪循環に陥っている。



 3人は宿の浴場を使った後、明日の行動について話し合うたため、自然とルークの部屋に集まった。

 備え付けの机もない部屋なので、3人はベッドの上で胡座をかく。


 「まずは反帝国組織にカディスから武器が流れているのか調べないと」

 「国内外から義勇兵が集まっているという話だから領内に入れば何か分かるだろう」


 フォスターの言葉で話し合いは秒で終わってしまった。


 「ところでなんで各国から義勇兵が集まってるんだろう?」


 美波はふと疑問に思い尋ねた。


 「ここに来るまでに中央大陸語で話しているのを聞いたが、富を独占する王や貴族を倒すっていう主張が平民たちの人気を集めているらしい」

 「だとしても隣国からわざわざ戦争に参加する理由が分からないんだけど」


 話が見えない美波に、フォスターが馬車での話を分析した。

 ゾルバダで王政が倒れれば、近隣諸国にもその影響が波及する可能性は高い。現在、義勇兵としてゾルバダに入国している隣国民の大方は革命家であり、ゾルバダでの自国を成功させ、その飛び火を狙っているのだろうと。


 「それに戦争にはとかく金がかかる。義勇兵という名の商人もいるだろうね」

 「つまり、いろんな人がいろんな思惑で集まってるのね」


 美波は、なるほどと納得した。


 「お前もここまで来たのには何か思惑があんだろ?」


 ルークは分かっていた。『戦えて、政治的判断が出来るのは自分しかいない』などと言って美波はアラミサルを出てきたが、他にもやりようはあったこと。それでも頑なにゾルバダに来たがったのだ。


 「……うん。なんでか来なきゃいけない気がして。私は面倒ごとに積極的に首を突っ込みたいタイプじゃないんだけどね。見ておきたかったのかも。国民の支持を失った王がどうなるのかを。この目で」


 国民を顧みなくなったらそれは自分の未来の姿になるかもしれないから。

 声には出さなかったが、2人には何を考えているのか伝わった。


 「お前なら大丈夫だろ」


 ルークの言葉にフォスターも同意する。


 「自信がない。この先も上手く王様がやれるのか……。それに、いつかこうして悩んでたことも忘れて、漫然と仕事をするだけの人間になっちゃうかもって思ったら……」


 美波はベッドにうつ伏せになって顔を押しつけながらうめく。

 美波は今、自分が進むべき道を探してもがいていた。


 「私が騎士を志したのは父の影響です。ですので何か判断に迷った時などは『父ならどうするか』と考えれば自ずと答えは出せました。陛下も判断に迷った時は今まで出会った人を思い浮かべてはどうですか? あの人ならどうするのか。この判断はどう思うだろうかと考えられれば、きっと大きな間違いはしないのではないでしょうか」


 自分のことで申し訳ないですが、とフォスターが苦笑しながら、ベッドに顔を押しつけている美波の頭を撫でる。


 「俺はデカい依頼を達成した時は記念にその時の魔物の素材は1コ手元に残しとく。モノが手元にあると思い出すもんだ」


 ルークはいつも左腕にしているサファイアのように綺麗な石のついたブレスレットを見せた。美波は体を起こし、そのブレスレットに見入った。


 「これは冒険者になってすぐの頃に狩った魔物で作った。なんの効果もねぇただの石だが気に入ってる」


 2人の柄にもない(特にルーク)全力の励ましに、美波はおかしくなるのと同時に心が軽くなる気がした。


 「あはは! 2人ともありがと。元気出た。明日には反政府組織に潜入だね。頑張るぞー」


 おー!と言いながら3人は拳を突き合わせた。


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