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43 作戦会議

 「どうしよう!? これカディスから戦争吹っかけられる口実に充分なるよ。あぁ私のせいで戦争になって人が死ぬようなことになったら取り返しがつかない!!」

 「陛下落ち着いて。まずは高官を集めて今後のことを話し合いましょう」


 美波にしがみつかれた宰相はその背をポンポンと叩いて宥める。


 「うん。私もちょっと気づいたことがあるからみんなの意見を聞きたい」




 緊急で4部署の長官を集め会議を開く。

 美波は会談の内容を、最初から最後のブチギレて暴行を加えてしまったところまで話す。

 この場の全員が絶句する。


 「ほんとに私はなんてことを……最悪私の首差し出せば収まるかな……」


 美波は机に突っ伏して頭を擦りつける。


 「ぷっ……くくくっははっ」


 どこからともなく笑いが起こる。


 「陛下! 面白すぎますぞ! あのカディス皇帝の鼻っ柱を折るなんてさすがですな!」


 司法部長官のアトキンは体を折り曲げて笑い、他の3人も顔を覆ったり横を向きながら肩を震わせている。


 「ちょっと! 笑ってる場合!?」

 「陛下が仰ったのではないか。カディスはゾルバダとの戦の準備をしておると。だったらしばらくは心配入りますまい」


 財務部長官のハリスが指摘する。


 「陛下はどうしてそう思われたのですかな? 確かに我が国からはここ数年鉄製品を輸出しておりますが、戦ができるほどではありませんぞ」


 人事部のニコルスが顎に手を当てて考え込む。


 「どれも根拠はないんだけど、カディス皇帝が輸出額を2倍にしたいと言ったことがまず引っかかる。今だって取引が少ないわけじゃない。それなのに2倍も増やすって、そもそもその農作物や絹はどっから来たの? 急に収穫量は倍になったりしない。今まで国民が消費してた分を輸出に回すってことでしょう? 国民を飢えさせてまで輸出して金を流入しないといけない状況なんじゃないかって」

 「確かにあり得ない話ではない。カディスはゾルバダに対して売れるものは茶くらいしかない。魔石の貿易赤字が膨らんでいる可能性はある」


 ハリスがふうむと唸る。


 「カディスの補佐官は女性の社会参画も考えてるみたいだった。皇帝が女のくせにとか言っちゃう国なのに矛盾してるでしょ。あの話も戦時を見越して女性の登用を考えていたと考えられなくもない」


 美波が推測する。


 「あのカディスが社会変革を迫られているということか。戦に行く男の代わりに女性を働かせようと考えているか、武器製造に人手が必要か……」


 文部のウェストもカディス国内の事情を鑑みながら同意する。


 「あと一番きな臭いのは、10年前のアラミサルへのカディス侵攻。あれってカディスの狙いは何だったとみんなは考えてる?」


 美波が鋭い目で5人を見る。


 「あれか。アラミサルの領土を狙っていたのではないかと言われておるが」

 「こちらの国力を削ぐつもりだったと言う者もおりますな」


 それぞれ当時なされた分析を思い出し述べる。


 「カディスと接している街っていくつかあるじゃない? 私はあえて観光地でしかない『ベク』を狙ったんじゃないかって。ベクの温泉にある硫黄を求めてさ」

 「硫黄……? それを何に使うんです?」


 宰相が眼鏡を押し上げて美波の方に身を乗り出す。


 「火薬を作るんだよ。カディス内で硝石が採れるとしたら、いや、取れなくても輸入してるかもしれないし、硫黄さえ入手できれば火薬が作れる」

 「火薬ということは銃ですかな? しかしあれは狩猟で使うもので戦争には使い物にはなりませんぞ? ……もしや新型銃を開発したというのですか!?」


 アトキンが驚愕に目を見開く。

 この世界にも弾丸と火薬を銃口から詰めるマスケット銃が存在するが、射程距離と命中精度ともに魔法攻撃に劣る。そのため戦時では使われず、もっぱら猟銃として使われている。

 とはいえ、各国とも秘密裏に武器開発は行っている。今まで目立った成果は報告されていないが、成功した可能性が十分にある。


 「鉄の輸入、ベクへの侵略、貿易赤字と新型銃の開発。やっぱりゾルバダとの戦争の可能性あるよね?」


 美波が一旦話をまとめる。


 「カディスはゾルバダの内戦が始まると同時に侵攻を始めるのでしょうか」


 宰相が確認を取るように美波を見る。


 「その可能性ともう一つ。カディスは銃を反帝国組織に売れば、利益を出しつつ帝国も潰せて貿易赤字をなかったことにできる」


 全員が黙り込んで考える。確定的な情報がなくアラミサルとしてどう動くべきか判断がつかない。


 「ともかく我が国としてはゾルバダの魔石を奪われることも、新型銃でカディスから戦争を仕掛けられるのも避けたい」


 ハリスが総論を述べる。


 「我が国に戦を仕掛けるということはなかろう。勝てる見込みが薄いのでな」


 ニコルスが意見する。


 「いや〜今回完全にヘイト買っちゃったから、頭に血が上って短絡的な行動に出なければ、だよね……」


 美波が思い出したように落ち込む。


 「まぁ、カディスがゾルバダと戦をすると想定して対処することにしましょう。全て取り越し苦労になったとしても無策でいるよりは良いですから」

 「うむ。ただカディスが直接手を出すのか、反帝国組織に武器を売るのかで我が国としても対応が違ってくるぞ」


 宰相の言葉にアトキンが反応する。


 「どちらにせよ、カディスがゾルバダと戦をして魔石を奪われるのだけは阻止せねば」


 拳を握りしめてハリスが言う。


 「決めた。ゾルバダに潜入して銃がカディスから流れているか確かめる。反帝国組織に銃があれば反乱を阻止して、銃がなければカディス皇帝に直接会いに行って侵攻の可能性を警告する」


 美波は鋭い目で全員を見渡し、両面作戦を展開すると宣言した。


 「それではすぐに人員を手配します」


 宰相は素早く腰を上げようとした。しかし美波はそれを留める。


 「ゾルバダには私が行く」

 『は!?』


 美波以外の全員が驚き腰を浮かす。


 「なりませんぞ陛下! 陛下にもしものことがあったら我が国はどうなります!?」


 アトキンが考え直すよう必死で言い募る。


 「まぁ反対するよね。私が逆の立場でもそうする。でも、ゾルバダ皇帝と会談する必要が出てくることも考えると私が行った方がいい」


 美波は納得させるように全員と目を合わせる。


 「会談なら私でも出来ます」

 「出来るだろうけど、宰相はそれにいざって時に戦えないし、潜入するには貴族っぽすぎる。長官たちにもちょっと荷が重いよね。でも騎士団の人間では政治的判断は難しい」


 それでも陛下を行かせるわけにはいかないと全員が美波を説得する。


 「いや1人では行かないからね? 市民のフリが出来そうな貴族っぽくなくて強いのを1人連れていく」

 「もしかしてルークですか? 確かにあれは1人で一般の騎士1000人分くらいの力はありますがそれでも!」


 宰相はなおも引き下がらない。


 「じゃあ、フォスター師団長も連れて行く。アラミサルの英雄を連れ出すのはちょっと気が引けるけど」

 「確かに陛下と宰相の弟殿とフォスターがいれば一国の軍隊を半壊くらいはできそうですが……」


 ニコルスらは断固反対の姿勢から若干トーンダウンした。


 「だったら大丈夫。行ってきます」


 美波は揺るがぬ意志を瞳に映して5人を見た。


 「……陛下がそれを最善だと思われるのなら従います」


 宰相らは美波を信じることにした。この人ならば最良の結果を持って帰ってきてくれるのではないかと。



 宰相はすぐに従者を向かわせ、騎士団長と第1から第5師団長を呼び出した。

 15分ほどで呼び出された全員が会議室に集まり着席する。 

 美波はカディスがゾルバダに戦争を仕掛けることを想定し、アラミサル国として両面作戦を展開することを説明する。

 ゾルバダには自ら潜入すると伝えると、案の定、騎士団長や師団長ら全員から思い留まるよう説得された。

 それを美波は『現場で高度な政治判断が必要』だとして納得させる。今回の潜入ではゾルバダ帝国側の動き、反帝国組織の目的、カディス帝国の出方、それらを潜入した人間が探りながら、アラミサルにとって一番良い着地点へと状況を持っていくことが必要だからだ。

 美波はせめて電話さえあれば自分が行かなくて済んだものをと思いつつ、これが最良に選択だと信じていた。

 美波とて死ぬつもりはないし、危ない目に遭いたいわけでもない。国内最強の戦力である2人は美波にとっても大きな安心材料だった。




 美波は日を改めて、フォスターとルークも交えてゾルバダ潜入について打ち合わせをしておくことにした。


 「ゾルバダに元々潜入させていたスパイの話によると、反帝国組織は『打倒帝国、反貴族主義』を掲げていて、それに賛同した周辺国から義勇兵が集まってる。私たちもそれに乗じて入り込もうかなと考えてる」

 「我が国からも少数ですが義勇兵として入り込んでいる者がいるという情報も得ています。疑われず入り込めるかと」


 美波の情報に、フォスターも大丈夫だと太鼓判を押す。


 「ったく、国からの指名依頼出しやがって。ミナミ、あとで覚えてろよ? それと行くならお前ら2人は一般市民っぽい服と装備を準備しとけ」


 俺は他国でも面割れてるからどうしようもないが、とルークがつけ加えた。


 「それは公費で出してもらおう。それで、私たち3人がどういう関係か聞かれたらどう答える?」


 美波が設定を作っておこうと持ちかける。


 「ゾルバダ行きの道中、偶然集まった3人というのではいけませんか?」

 「フォスターがミナミに敬語やめるんなら、まぁいけんじゃね?」

 「あぁ、ではそうするか」

 「じゃあ私も潜入中はダニエルって呼ぶことにするね。ってか、もうちょっと面白い設定ないの? いや、やっぱいいです。ルーク目ぇ怖いって!」


 3人はゾルバダまでのルートを確認し、3日後出発することとなった。


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