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異世界に召喚されて私が国王!? そんなのムリです!【コミックス2巻5/2発売予定】  作者: キシバマユ
二幕 即位1年目

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39 2人でお出かけ

 年末の王城は最低限の人員を残し、職員らの多くは帰省のため出払っている。文官は年末年始を挟む1週間ほどは休暇を取るのが慣習となっており出仕していないが、武官は警備などの都合があるため一定数が勤務している。侍従や侍女、メイドらも最低限の人員しかいない。

 行政府が止まっている今、美波も仕事がなく暇を持て余していた。


 (騎士団に遊びに行ったら誰かいるかも)


 年末を一人寂しく過ごすのだけは嫌だという強い気持ちを持って自室を出た。




 王城本館から騎士団の隊舎は廊下で繋がっておらず、外を歩かなければならない。美波はコートにマフラーも巻いて出かけた。

 美波は中庭を歩き横目で花壇を見やる。秋までは様々な花が彩っていた場所も今は少し寂しい。美波は寒さに震えながら早足で向かい、隊舎へ入った。



 隊舎1階には食堂と談話スペースとなっており、いつもは団員たちの話す声がざわめきとして聞こえてくるが、今日は静かなものだった。


 (うわーホントに人が少ないや)


 誰か見知った顔がないかとフロアを見渡すと、食堂で遅めの朝食を取っているフォスターを発見した。

 美波は話せそうな人がいて良かったと笑んで近づき、人の気配に気づき顔を上げたフォスターに、ヒラヒラと手を振って挨拶する。


 「陛下、いや今日はそう呼ばない方がいいですか?」

 「うん、今日は敬語もなしで美波でいいよ。フォスター師団長は今日は遅番?」


 美波はフォスターの前の席に座る。


 「いや、騎士団の責任者として城には残っているが勤務には組み込まれていない。非番のようなものだから、私も師団長ではなくダニエルとでも呼んでほしい」


 年末年始といえども有事に備え、すぐに指揮が取れる人間は必要だ。


 「なるほど、管理職は大変だねぇ。フォスター伯爵家の領地は南西の方にあったよね。あんまり家族に会えてないんじゃない? っていうか師団長のファーストネーム初めて知ったよ私。ダニエルっていうんだ。えっなんか呼ぶの恥ずかしいんだけど」


 少し赤くなった頬を手のひらで押さえる美波に、フォスターは柔らかい表情になる。


 「家族が王都に出てきた時などには会っている。ミナミはどうしてここに? ジャックやロビンたちも皆、城を離れているが」


 美波はやっぱりかと残念がった。


 「さすがに年末年始ずっと本読んで過ごすのも嫌だから喋りに来たんだよ。まぁダニエルが相手してくれるならいいや」

 「だったら、馬にでも乗ってどこか遊びに行くか?」


 まさかの提案に美波は目を瞬かせる。


 「えっいいの?」

 「そう遠いところでなければ問題ない。それに私もずっと城に篭りきりというのはな。少しの息抜きくらいいいだろう?」


 そう言ってフォスターは頬杖をついて美波の目を覗き込み、片方の唇を吊り上げる。


 「ははっ! そうだね。馬に乗るならスカートじゃマズイかなぁ。ちょっと着替えてくる」

 「いや、私と一緒に乗ればいい。少し待っていてくれ、準備してくる」




 いつもの騎士団の制服とコートではなく、私服の防寒着を着たフォスターと厩に行き馬を出す。

 フォスターはひらりと飛び乗り、2人乗りの時はどうやって馬に乗るんだろうと考えていると、馬に乗ったフォスターが軽々と美波を持ち上げ横乗りにさせる。


 「わっ、すっごい不安定!」

 「私が体を支えるから安心してくれ。不安なら腕を私の腰に回して」


 そう言ってフォスターは右腕で美波の腰を支えて、左手で手綱を握り、ゆっくりと馬を走らせ始めた。美波は掴む場所を探し、結局は左腕をフォスターの背中に回した。


 (イケメンの顔が近い! ……今気づいたけど、こんな引っついて馬に乗って出かけるなんて、これってデートっぽい? ……まぁいいや)


 美波は考えるのをやめた。

 馬はゆっくりと王城を出て城下に向かう。


 「ダニエル、どこ向かってるの?」

 「城郭の外にある、旧王城だ。300年ほど前まで使われていた建物で今は観光用に開放されている。興味はない?」


 フォスターは美波の性格や好みを考慮して選んだらしい。美波はハッとしてフォスターの横顔を下から見上げる。


 「興味大あり」

 「それは良かった」


 フォスターは正面を向いたまま微笑んだ。



 馬上でフォスターは静かに話し出した。

 「私は戴冠式の時に、新兵訓練にいた女性が新しい国王陛下なのだと知った。そしてその後すぐに陛下が異世界から来た人なのだという話を聞いた。私はミナミの豊富な知識に納得するとともに、自分が全く知らない世界にただ1人連れて来られたらと想像し恐ろしく思った」


 美波は静かにフォスターの言葉に耳を傾ける。


 「この世界に来たばかりで右も左も分からない中で、騎士団の必死に訓練に食らいつき、そして今は立派に国王をしているあなたを、私は助けずにはいられない」


 美波の置かれた状況を理解して、そして深い情を示した。

 胸が震える。美波はフォスターの体に頭を預け、流れる景色を目に映す。


 (絶対的な味方がいるって本当に心強い)


 美波は冒険者を辞め、国王になってからずっと張っていた気が緩むのを感じた。

 美波はこの世界に来てから本当に心を許せていたのは、この瞬間までルークただ一人だった。

 王城で美波は誰とでも仲良くしてきたが、つらい時や困った時に寄りかかれる存在というのは貴重だ。


 (ルークがいて、ダニエルがいて、困ったら大体宰相がなんとかしてくれて、支えてくれる侍女長やケリーたちがいて……。私、けっこう幸せかも)


 美波はふふっと小さく笑った。




 2人は馬で城下を駆け、城郭の外へ出てさらに30分ほど走らせたところに旧王城はあった。

 堅牢な城壁は今も残存しており、城は今の王城とは違い尖塔のある縦に長い建物だ。

 厩に乗ってきた馬を預け、2人は入場料を支払い旧王城の門をくぐる。

 城門から城までは石畳の道がまっすぐ伸び、道の左右は芝生が敷かれている。美波は重厚ながら美しい城を正面から眺めながら城内へと入った。

 玄関からは中庭が見え、建物はぐるりと一周できる構造のようだ。美波は1階の左の部屋から見ていくことにした。

 城内は今は博物館となっており、初代から300年前の国王らが使っていたペンや食器、家具や衣裳などが展示されている。


 (初代から私に繋がる19人の国王がこの国に身を捧げたんだ……)


 美波は歴代国王の人生に思いを馳せながら、ゆっくりと見て回る。

 1階2階3階と展示物を一つ一つ見ていた美波の目が1着の衣装の前で止まった。


 (着物だ!!)


 展示のキャプションには『サブロウ・タカハシ国王が愛用していた衣服』と書かれている。


 (300年前、本当にここに日本人がいて、ここで仕事をしてご飯食べて寝て、生きてたんだ)


 今までは本や言い伝えでしか知らなかった人物の痕跡が目の前にあった。

 展示を見てじっと動かなくなった美波に気づいたフォスターが声をかける。


 「どうした?」

 「この衣装、私の国のものなんだ。タカハシ国王と私は一緒の国の出身らしいよ」

 「そういえばタカハシ国王もミナミもニホンというところから来たんだったな。故郷ではこれを着ていたのか?」

 「ううん、もう普段着で着てるような人はほとんどいないよ」


 フォスターはそうかと言い、これはどうやって着るのだと考え込んだ。美波はその様子に笑って、次の展示物を見に歩みを進めた。



 城の5階には国王の私室があり、現在は200年前の国王や貴族の衣装を試着して写真が撮れる体験コーナーとなっていた。


 (某大劇場か! なにこのコーナー、めちゃくちゃ面白いんだけど!)


 10着ほどから選べる衣装も全てヴェルサイユ感が漂っている。


 「よし! せっかくだから体験していこう! ダニエルもね!」

 「えっ!? 私もですか!? いやこれは華やかすぎて……」


 躊躇うフォスターの背を押して、有無をいわせず美波は体験コーナーに入っていく。


 「2名でお願いします!」




 ドレスの中であえて一番アントワネットっぽいものを選んだ美波は、スタッフに衣装を着せてもらいカツラもかぶり全身鏡で出来栄えを確認する。


 (やはり人種の壁は越えられない。これはどう見ても歌劇団の娘役風だ)


 ある意味で仕上がりに満足しつつ試着室から出た。

 すでに着替え終え美波を待っていたフォスターは、スタッフや他の観光客の女性らを釘付けにしていた。


 「ミナミ、可愛らしい。どこかのお姫様だ」


 目を細めて笑うフォスターに、美波は周囲の女性らの目がハートマークになっているのが見えた。


 (なにこの完成度! ビジュアルが強すぎる!)


 軍服を華やかにしたような赤い上着に白いズボンはまさしく少女マンガから出てきたようだ。


 「ダニエル、似合いすぎてない? 本物なの? 本物の王子様? 王様? それともアン○レかオス○ル?」

 「王様はあなたですよ」

 「いや、うんそうだけど。そうじゃなくて! なんでそんなに似合うの? やっぱ貴族だから?」

 「ははっ! ありがとう?」

 「いやーー!! その笑顔で婦女子の死体を積み上げるのやめてぇーー!」


 今度はフォスターが美波を宥めながらカメラの前に立つ。


 「ナニコノ公開処刑。アントワネットだけに?」

 「はいはい、ほらカメラを見て笑って」


 撮りますよーというスタッフの声に、美波は中国の秘技、変面の如く仏頂面から満面の笑みに切り替えて写真に納まった。




 「あっ、思ったより綺麗に撮れてる。白黒だと歴史上の偉人っぽいなー」


 美波たちは元の服に着替え、現像が終わった写真を手渡された。


 「ミナミの国には色のついた写真があるのか?」

 「うん、見たいなら今度見せるよ」

 「興味がある。是非見せてほしい」




 2人は城を出て、また馬上の人となる。


 「まだ時間あるし、どこか行かない?」

 「そうしようか。この時期だと王都中心街に『(ふくろう)マーケット』が開催されているが行くか?」

 「梟マーケットって?」

 「年末に開催される1年で1番大きな市だ。なぜ梟なのかといえば、冬の鳥で縁起がいいからなんだそうだ」

 「縁起! この国でもそうなんだ」


 次の行き先は梟マーケットに決まり、フォスターは馬を中心街の方へ向けた。


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